【第19回】

バージョン表記のフシギ ~こめられたさまざまな思いと理由~

(01/07/16)

なくてはならない重要なもの

 オンラインソフトの世界で欠かせない情報に、バージョン表記というものがある。ソフトの新しさの目安となる指標であり、どこかが新しくなったり機能が追加されることでバージョンは上がっていく。バージョンという概念はオンラインソフトにとって、なくてはならない重要なものであり、どんなソフトにもたいてい何かしらのバージョン表記がなされている。

 しかし、そんなに重要なバージョン表記でも、その付け方は十人十色で全然統制がとれていない。バージョン番号の付け方は、原則的にソフト作者が勝手に決めているため、ソフトによって実にさまざまなバージョン表記があるのだ。それがユーザーには混乱のもとになっていることもある。そこで今回のよもやま話では、オンラインソフトのバージョン番号について、あれこれと考察してみようと思う。

そういえばWindowsのバージョンって…

 オンラインソフトのバージョン話に入る前に、そもそもWindowsのバージョンの付け方に疑問を感じている人は多いんじゃないだろうか。Windowsはもともと、2.0とか3.0とか3.1といったバージョン番号の付け方をしていた。それが鶴の一声というのだろうか?、確かビル・ゲイツ氏によって『Windowsのバージョン番号は、見ただけでそれがいつリリースされたものかがわかりにくい』という理由で、バージョン名として年号が付けられることになったのが“Windows 95”だったはずだ。

 その後、“Windows 98”が出たまではよかったのだが、マイナーバージョンアップとしてSecond Editionなどというものが発売され、これが“SE”と呼ばれるようになり、2000年には“Millenium Edition”、つまりWindows Meが登場してしまった。あげくに今秋登場予定のWindowsは“Windows XP”になるらしい。SEだのMeだのXPだの、『どこが“見ただけでわかりやすい”バージョン名なんだ?』とぼくなんかは思ってしまうのだが…。素直に“Windows 2001”ではダメなんだろうか。

 そういえばWindows 2000にもヘンなところがある。あれは元々Windows NT 4.0の後継であって、起動時のスクリーンには確かに「Built on NT Technology」とハッキリ表示される。しかしちょっと待て。ぼくの記憶が確かならば、Windows NTが出た当時、“NT”は“New Technology”の略だとかなんとかマイクロソフトが説明していたはず。『じゃあ“NT Technology”の“NT”って何なんだよ?』と起動のたびに思うのは、ぼくだけだろうか。

なんだか妙なバージョン名

 話がそれてしまった。さて、基本ソフトであるOSがそんな調子だから?、その上で動くオンラインソフトのバージョン番号だって、混乱しやすい付けられ方をしていても、おかしくないと言えばおかしくないのかもしれない。

 初めての公開なのに、いきなり2.0とか5.0といったバージョン番号が付いているソフトを見たことがある。競合する他のソフトと見劣りしないようにバージョン番号を合わせてあるとか、未公開の内部バージョンが更新を繰り返していたせいだとか、縁起を担いでいるとか、作者の弁はさまざまあるようだが、ユーザーにとっては正直なところ意味不明でしかない。ぼくも『なんだこりゃ』という奇異の目で見てしまう。もちろん初期バージョンが「1.0」でなければならないという決まりはないとはいえ、あんまりわかりにくいバージョンの付け方をするのはどうかと思う。

 同じ意味で、バージョン表記に数字ではなく「いろはにほへと」を使っているものや、生物の進化に合わせて「微生物版」とか「は虫類版」といった表現をしているソフトも過去に見た記憶がある。個性的なつもりで付けているのかもしれないが、ソフトの本質と違うところで奇をてらったことをするのは、いちユーザーの立場からするとあまり好ましいと思えない。

 バージョン番号にリリースの日付をそのまま使っているソフトというのもある。「Ver. 20010717」とか「2001年7月17日版」といった具合で、しばしば見かける。これはWindows 95やWindows 2000などと同じく、いつリリースされたかがわかりやすくて悪くないとは思うのだが、なんとなくスマートでないというか野暮ったい感じがする。バージョン番号が日付になっていると、バージョン番号を見ただけでは機能がどれだけ変わったのかという程度がわからないという短所もあるだろう。

細かすぎるってのも…

 ちなみに、ごく一般的なオンラインソフトでは、“Ver 1.23”といったように小数点以下2桁くらいまでの数字でバージョンを表わすことが多いようだ。小数点の左側が変わるのは大きな目立った改良を行った場合で、小数点の右側が変わるのは不具合修正やちょっとした機能追加など小さな改良があった場合となる。

 しかし、中にはもっと細かく分けて「1.23.45.6」のように表記しているものもある。これは古くはMac版のあるソフトや、作者がMacユーザーでもあるような場合に多く見られ、Mac用ソフトでは慣例のようだ。また、最近では開発環境によってもこうした付け方になる場合がある。変化する数字の桁が右側になればなるほど、細かい修正を指している。さらに細かい修正を頻繁に行う場合は「Ver 1.23 Build 456」のようにビルド番号を付けているものもある。

 こうした付け方の理由には、作者の心情として、修正の程度が細かいときはあまりバージョン番号を上げたくないというのもあるのだろう。しかし、いちユーザーであるぼくから見れば、あまり細かくバージョン分けしてその都度公開するくらいなら、公開をしばらく待って、修正箇所をある程度まとめてから公開してくれるほうがいい。バージョンがあがればダウンロードしたくなるのがユーザーの心情だが、あんまり頻繁にダウンロードしなければならないのも面倒くさいと思ってしまう。集中的に開発更新している場合でも、作者とユーザーのお互いの手間暇を考えれば、せいぜい1週間に1回程度のバージョンアップ公開が適切ではないかと、個人的には思う。

β版という名の正式版?

 一般に、作者によって十分な動作チェックやバグつぶしができていないという意味で“β版”という区別をしているソフトは多い。「1.23β」のようにバージョン番号の後ろに“β”を付けたり、「1.23β1」「1.23β2」という具合に“β”の後ろに番号を付け、β版のままバージョンアップが繰り返されることも多い。また、β版よりさらに動作保証がないという意味で“α版”と称して公開される場合もある。

 β版やα版のソフトは、新機能をつけたバージョンをいち早く試してみたいという人のために、作者が十分なバグ出しの前に公開しているものだ。したがって、ユーザーは不具合や動作不安定など多少のリスクを覚悟で使うべきで、新機能よりも安定動作を願うならβの付かない正式版が出るのを待つほうがいい。

 しかし、世の中にある数多くのオンラインソフトの中には、β版で公開されてから何度も何度もバージョンアップを繰り返しているにもかかわらず、いつまでたってもβ版のままだったり、1年以上も正式版にならないソフトなどもある。こうしたものはβ版という扱い方をちょっと考え直した方がいいんじゃないかと思ったりする。

 どんなソフトであってもバグや不具合はつきものだ。特に個人ベースで開発しているオンラインソフトであれば、十分な環境で動作チェックができないというのも、ある程度は致し方ない。だからこそ最初はβ版として公開すればいいし、多くのユーザーに試してもらってバグ出しをするのもわかる。しかし、それなりのダウンロード数があって、ユーザーに試してもらって大きな不具合報告がないようなら、もう少し自信をもって正式版にしていいのではないだろうか。あまりに長い間βを宣言し続けるのは、うがった見方をすれば何かトラブルが起きた場合に「β版だから」で済まそうという作者の弱腰な態度の現れにも思えるからだ。

熱い思いを橋渡し

 結局のところ、バージョン番号というのは、作者にもユーザーにもわかりやすいのが一番だ。ソフト作者によっては、READMEやヘルプなどの説明書の中でバージョン番号の付け方の決まりや法則をきちんと解説してくれているものもあるが、ユーザーにとってもわかりやすくて好感が持てる。やはり、バージョン番号はスタンダードな付け方に限るとぼくは思うのだが、読者の皆さんはいかがだろうか。

 たかがバージョン、されどバージョン。新機能の追加や不具合修正の目途がついて作者が決めるバージョン番号には、いろいろな思いが込められているはずだ。そしてぼくらユーザーも、愛用ソフトのバージョンが大きく上がっているのを見るとワクワクする。そういう意味では、開発に力を注ぐ作者と、新バージョンの登場を心待ちにするユーザーの熱い思いを最初に橋渡しするのが、バージョン番号だと言っていいのかもしれない。そんなバージョン番号の変化に注目しながら、これからもオンラインソフトの進化を敏感に追っていきたいものだ。

 といったところで今回のよもやま話は終わることにしよう。

(ひぐち たかし)

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