オーディオファイル対決 RealAudio, SoundVQ, MP3, MPEG2 AAC(前編)
各オーディオファイル形式の圧縮速度・圧縮率・音質を徹底比較する
(98/10/19)
インターネット上でのストリーム音声再生や次世代メディアでの音楽デジタルデータ配信ともからみ、今注目されているのが音声圧縮技術。高音質化とデータサイズの圧縮の両立を目指し、日々熾烈な開発競争が繰り広げられており、今では実際にパソコン上で利用できる音声の各種ファイル形式も増えてきている。RealAudioやSoundVQなどはもちろん、最近ではMP3といった形式がよく使われ、さらにはMPEG2 AACという新たなフォーマットも現れた。
そこで今回の特集では、音声データの各種ファイル形式に焦点を当て、実際に圧縮率と音質の差を実験によって確かめてみることにした。前編と後編の2回に分け、まず前編では、エンコード(圧縮)後のファイルサイズの比較を行ってみた。
■ ファイルの圧縮、音質比較に使用したソフト
比較対象は、現在主に利用されている3種類のファイル形式と、これから主流になる可能性を秘めた1種類のファイル形式。比較に移る前に、それらのファイルのエンコード(圧縮)に使用するオンラインソフトを簡単に紹介しよう。
「Real Encoder G2」
インターネット上のストリーム再生に用いられる形式としては最もポピュラーなRealAudio。このRealAudio形式へのエンコードには、「RealEncoder Version 6.0.2.175 Beta Release(Real Encoder G2)」を使用した。RealAudio形式ファイルの作成はウィザード形式の質問にいくつか答えるだけ。WAVやMPEGファイルなどのエンコードからネットワーク上でのリアルタイム放送まで、目的によって異なる3種類の利用方法を選択できる。さらに、指定したビットレート(1秒間に転送する音声データサイズ)のみでエンコードする「Single Rate」と、ストリーム再生時に接続速度に応じて適切なビットレートのファイルが再生される「Sure Stream」の2種類のエンコードが行える。
【著作権者】RealNetworks
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】6.0.2.175 Beta Release (98/09/25)
□ダウンロード
http://www.real.com/
「SoundVQ Encoder」
SoundVQは、NTTが開発したTwinVQ技術を基にした音声専用の圧縮形式で、YAMAHAがSoundVQという名称に変更してソフトウェアの開発を行っている。SoundVQ形式へのエンコードには、体験版である「YAMAHA SoundVQ Encoder Version 2.54b1 RC5-4」を使用した。スクリプトを用いた音声ファイルの連続エンコードや、MMX対応CPUでの高速なエンコードが行え、サーバー側の簡単な設定だけでストリーム再生にも対応する。
【著作権者】YAMAHA Corporation
【ソフト種別】体験版90日間
【バージョン】2.54b1 RC5-4 (98/09/23)
□ダウンロード
http://www.yamaha.co.jp/xg/SoundVQ/index.html
「AMP3ENC 2」
携帯プレイヤーが発売されるなど、なにかと話題のMPEG1 Layer-3(MP3)形式。フリーソフトから市販ソフトまで、数多くのエンコードソフトがリリースされているが、今回の比較には「AMP3ENC 2 Alpha r4」を使用した。「AMP3ENC 2」は「Plugger+」「TOMPG」「BladeEnc」という3つの外部エンコードソフトを利用してエンコードを行うフロントエンド。「Plugger+」と「BladeEnc」はあらかじめ同梱されており、使用したいエンコードソフトを自由に選択できる。また、複数ファイルの一括エンコードや、MMX対応CPUによる高速なエンコードが可能となっている。
【著作権者】SoundBytes Denmark
【ソフト種別】フリーソフト(要登録)
【バージョン】2.0 Alpha r4 (98/10/01)
□ダウンロード
http://www.SoundBytes.dk/
「AAC Encoder」
3つ以上のスピーカー使ったマルチチャンネルサラウンドをも視野に入れた次世代オーディオファイル形式がMPEG2 Advanced Audio Coding(AAC)だ。MPEG2 AACはまだ開発されて間がないことから対応ソフトが少なく、エンコードソフトは今のところ「AAC Encoder Refsoft Adaptation 0.5 ALPHA」しか目にすることができない。「AAC Encoder」自体はDOSプロンプトで動作するコンソールアプリケーションだが、「AAC Encoder」をGUIで操作できるフロントエンドもいくつかリリースされており、すべて下記のURLからダウンロードできる。
【著作権者】Homeboy Software
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】0.5 ALPHA (98/06/19)
□ダウンロード
http://www.mp3.com/software/aac.html
■ 比較の条件・環境
サンプルとして使用する音声ファイルにはそれなりのクオリティがほしい。エンコードして実際に聴き比べた時にも音質の変化が分かりやすいものが良いだろう。そのため、サンプル曲には、広範なダイナミックレンジが必要とされ、音質に関してシビアな環境が要求されるオーケストラを選択。オーディオCDのデータは直接 WAVファイルに変換したものを使用している。比較に使用したパソコンの構成、サンプル曲とWAVファイル形式の詳細、各エンコードソフトの設定については以下の通り。
全般的な要素
CPU | Pentium II 375MHz(83MHz×4.5) ※Pentium II 333MHzをクロックアップ(メーカー保証外) |
メモリー | SDRAM 256MB |
ハードディスク | Ultra Wide SCSI 4.5GB(7200rpm) |
オーディオカード | Sound Blaster Live! |
OS | Windows 98 |
サンプル曲 | アントニオ・ヴィヴァルディ ヴァイオリン協奏曲集「四季」 ヴァイオリン協奏曲 第2番 ト単調「夏」 第3楽章 プレスト |
WAV ファイル | PCM 16bit/44.1kHz/STEREO 3分00秒 31,751,956 bytes(30.2MB) |
エンコードソフトごとの設定
ソフト名 | 設定項目 | 設定値 |
RealEncoder G2 |
Audio Format | Stereo Music |
Video Quality | No Video |
File Type | Single Rate |
SoundVQ Encoder |
QUALITY | HIGH |
CHANNEL | STEREO |
PERMISSION to SAVE | OFF |
LOW PRIORITY | OFF |
AMP3ENC 2 |
Enabled MMX | On |
Encoder | Plugger+ |
Channel | Stereo |
Delete Source(s) | Off |
High Priority | Off |
Frontend Priority | Normal |
AAC Encoder | Priority | Normal |
■ エンコード後のファイルサイズを比較
まずは各エンコードソフトで設定できる全てのビットレートごとにWAVファイルをエンコードし、エンコード後のファイルサイズと圧縮率を表にした。
エンコード後のファイルサイズ 単位:bytes (圧縮後のサイズ / 元のサイズ) … 数値が小さいほど高圧縮
ビットレート | RealAudio | SoundVQ | MPEG1 Layer-3 | MPEG2 AAC |
16 kbps | - | 360,156 ( 1.1%) | - | - |
20 kbps | 463,157 ( 1.5%) | 449,708 ( 1.4%) | - | - |
32 kbps | 751,559 ( 2.4%) | 720,220 ( 2.3%) | 720,008 ( 2.3%) | 335,729 ( 1.1%) |
40 kbps | - | 899,809 ( 2.8%) | 900,012 ( 2.8%) | 508,277 ( 1.6%) |
44 kbps | 1,013,567 ( 3.2%) | - | - | - |
48 kbps | - | 1,080,043 ( 3.4%) | 1,080,032 ( 3.4%) | 682,830 ( 2.2%) |
56 kbps | - | - | 1,260,000 ( 4.0%) | 852,645 ( 2.7%) |
64 kbps | 1,468,303 ( 4.6%) | 1,440,026 ( 4.5%) | 1,439,915 ( 4.5%) | 1,025,548 ( 3.2%) |
80 kbps | - | 1,800,010 ( 5.7%) | 1,800,039 ( 5.7%) | 1,365,234 ( 4.3%) |
96 kbps | 2,209,583 ( 7.0%) | 2,159,993 ( 6.8%) | 2,159,886 ( 6.8%) | 1,693,266 ( 5.3%) |
112 kbps | - | - | 2,519,956 ( 7.9%) | 2,016,968 ( 6.4%) |
128 kbps | - | - | 2,880,029 ( 9.1%) | 2,318,755 ( 7.3%) |
160 kbps | - | - | 3,599,760 (11.3%) | 2,822,870 ( 8.9%) |
192 kbps | - | - | 4,319,904 (13.6%) | 3,136,258 ( 9.9%) |
224 kbps | - | - | 5,040,046 (15.9%) | 3,184,689 (10.0%) |
256 kbps | - | - | 5,760,191 (18.1%) | 3,189,718 (10.0%) |
320 kbps | - | - | 7,200,393 (22.7%) | 3,190,852 (10.0%) |
結果として、同一ビットレートでの圧縮で比較した場合にはMPEG2 AACが最もファイルサイズが小さくなっている。MP3と比べても50%から20%はコンパクトだ。SoundVQとMP3のファイルサイズはほぼ同じという結果。わずかな差でRealAudioがそれに続くという形になっている。ただし、MPEG2 AACは192kbps以降の指定ではファイルサイズの増加が止まってしまっているという不自然な現象からも、まだAlphaバージョンであるエンコーダーの「AAC Encoder」特有の現象(不具合)である可能性もある。
いずれにしても(MPEG2 AACを除いたとしても)、本来まったく同じになると思われているビットレート固定でのデータ圧縮でも、実際にはサイズにこのような微妙な差異が発生することがわかる。他に比べてややサイズの大きかったRealAudioについては、96kbpsでエンコードしても再生時に96.7kbpsと表示されたことと、エンコードするたびに数バイトから数十バイト程度変化したことから、指定のビットレートに正確にエンコードされているわけではないようだ。
■ では実際の音質はどうか?
しかし、ここで測定したデータサイズに実はそれほど意味があるわけではない。最
終的に問題となるのは音質だ。いかに元の音を限られたデータサイズの中に忠実に収
めているかが重要なポイントになる。
後編ではユーザー側の快適さに直結するエンコード時間と、サウンドにとって最も
重要な音質について、徹底比較する予定だ。後編のエンコード時間と音質の比較をお
楽しみに。
(日沼 諭史)
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