後藤智博のダンスミュージックStudio


【第7回】

「GoldWave」でブレイク・ビーツのネタ編集

(00/03/10)

 パソコンを使って曲を作っているからって、生楽器を演奏している人たちの努力を認めていないワケじゃない。それどころか、その豊かな表現力に打ち込み音楽で張り合うことができるのか、いつだって最大のライバルとして驚異に思ってる。そんな僕たちが次にすることは何だろう? そう、良いミュージシャンの演奏をサンプリングして自分の曲にご登場願う、“フレーズ・サンプリング”の出番だ。

 前々回からたびたび書いているけど、ダンスミュージック、例えばヒップホップなどでは、古いレコードやCDから抜き出した数小節のフレーズを何度もループさせて楽曲を作成することが多い。バスドラムやハイハットなど、単体の音色をサンプリングして使う音源的な方法に対して、このようにフレーズ単位で長時間のサンプリングをすることを、“フレーズ・サンプリング”という。また、フレーズ・サンプリングのサンプル音色の中でも特にリズムフレーズをループさせること、またはそのリズムフレーズのサンプル音色そのものを“ブレイク・ビーツ”って呼ぶ。

 自分の曲に人間の叩いた“タメ”や“ツッコミ”の効いたリズムを手軽に組み込むことのできるブレイク・ビーツ。ちょっと使うだけで自分が作った楽曲がプロっぽくなるというオマケつき。でも長い曲から適当な部分を抜き出すんだから、ループのつなぎ目がチグハグにずれてしまうこともある。これがまたいいノリを出すこともあるんだけど、やっぱりピタリときれいに小節をループさせることが理想。それにはちょっとしたコツが必要なので、今回説明しようと思う。

 あ、あと、フレーズ・サンプリングに常につきまとうのは「著作権」の問題。著作権法第三十条で「私的使用のための複製」というものが認められているけど、これはあくまで「個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」での話。少しわかりにくい言い回しだけど、他人のCDをサンプリングしてフロッピーディスクで配布したり、Webサイトからダウンロードできるようにした場合は「個人使用」にはあたらないってこと。他人が作った楽曲を個人の範囲内以外で使う場合は著作権者に相当額の補償金を払う必要がある。最近は楽器店などで著作権フリーのサンプリングCDが売っているので、そちらを利用しよう。このごろ、かなりマニアックなジャンルのサンプリングCDも数多く出回ってるからね。

□参考:社団法人 著作権情報センター
http://www.cric.or.jp/

ブレイク・ビーツのネタ集め

 「GoldWave」は、音声ファイルの再生・編集・変換ソフト。表示されている周波数のグラフをドラッグで選択して、アイコンからエコー、フェードアウト、逆回転など様々なフィルターを選んで効果を与え、編集していく。WAV,AIF,AU,MP3など多くのファイル形式に対応してるんだけど、今回はとりあえず全部WAVファイルで作業を進めていこう。

 「GoldWave」を起動したら、パソコンにサンプリングしたいCDを入れて、[Tools]-[CD player]を選ぼう。Windowsに標準でついてくるCDプレイヤーの画面になるから、操作は大丈夫だよね? 何曲目の何秒目から何秒目まであたりをサンプリングしたいか、見当をつけておく。次に新しいファイルを開くんだけど、僕は音質のイイXMのMODファイルを作りたいので、モノラル44.1kHzの音質でサンプリングしようと思う。今回サンプリングする音は3秒ほどのフレーズなので、余裕をもって5秒くらいの新規ファイルを作ろう。[New]アイコンをクリックすると現れる[New Sound]ダイアログの[Channels]を「MONO」、[Sampling rate]を「44100」、[Length]を「5.000」これでOK。

 そして、[Device Controls]の[Properties]ボタンを押して、[Device ControlsProperties]ウィンドウを出す。[Volume]タブでCDを選んで、さっそく録音開始!音楽CDを再生しながら[Device Controls]にある赤マルの録音ボタンを[Ctrl]-クリック。録音が終わると画面に緑色の波形が出ているので、再生ボタンで音を聞いてみる。サンプリングしたかった部分の頭やおしりが切れちゃってたら、もう一度ね。あと、サンプリングするときに気をつけなければいけないのは、録音レベルの問題。デジタル録音ではちょっとでも入力音量が大きすぎるとイヤーなノイズ音になってしまうので、再生音がノイズのりまくりの状態だったら、[Device Controls Properties]-[Volume]からCDの録音レベルを下げて再挑戦して。

 さて、それからこの長めに録音したサウンドの波形に対して、左クリックで開始ポイント、右クリックで終了ポイントを選んでちょうどいいブレイク・ビーツになるまで切り取っていく。あ、いま編集しているサウンドが本当にループになっているかどうかのチェックにはループ再生が便利。[Device Controls Properties]-[Play]-[User play button]を「Selection」、ついでに[Loop]チェックボックスにチェックを入れて、ループ回数を「0」にしておく。これで、ニコニコ顔つきの再生ボタンを押したときに、開始ポイントと終了ポイントの間を無限にくり返し再生してくれるようになった。

 「GoldWave」でブレイク・ビーツを作るときのコツなんだけど、まずは波形の見方に慣れること。音量の大きなところは波形も大きくなってるので、大抵は最もレベルが大きいバスドラム部分が目立っているはず。そのバスドラムの位置を目安に、開始ポイントはギリギリ音の鳴り始めに近づけて、終了ポイントは次の小節のバスドラムになるべく近づける設定にする。開始ポイントが一発目のバスドラムからあまりにも離れてると、MODファイルにしたときブレイク・ビーツの鳴り始めに一瞬間があいたみたいになっちゃう。また、終了ポイントをあまり早めにしすぎると、ループがブツブツと途切れる。それから、なるべく小さな音量の場所にポイントを置くってのも、なめらかなループをつくるテクニックのひとつかな。何度か練習して、気持ちのいいブレイク・ビーツを作れるようになろう。ループを失敗するとこんな風になっちゃう。

ループを失敗した例♪

 ちょうどいいループを選択できたら、[Ctrl]-[C]でコピー、それから[Ctrl]-[P]で[Paste new]をする。これは、選択された部分がピッタリと収まった新しいファイルが作成できる便利な機能。名前をつけて保存しておこう。こんな感じ。

ちょうどいいループ♪

 「GoldWave」はコレ以外にも機能満載。例えば、もっと変わったループを作りたい場合は、[Effects]を見てみよう。「Echo」「Reverse」などの聞き慣れたエフェクターや、前回説明した「Low/Highpass」フィルターなんかもある。サンプリングした音色にエフェクトをかけるだけでも、オリジナリティがグンと増すので色々と試してみてほしい。例えば、[Flange]で音を震わせるフランジャー効果をかけて、その後[Lowpass]で高音をカットしてみるとこんな感じになる。これだけ聴くと地味だけど、実際に上モノを足して曲にしてみると以外にハマる、なんてこともあり得る。

フランジャー効果をかけて高音をカット♪

 それにしても「GoldWave」で初めてサンプリングに挑戦するって人は幸運だと思う。一昔前のサンプラー専用機では、波形が表示されないため直感でループするポイントを指定して、耳で確かめながら何度も何度も調節しなくてはいけなかったり、ハード的な処理速度の遅さから、長時間のサンプリングフレーズを編集する時に、ひとつのコマンドごとに数十秒待たされたりなんてこともザラだった。それどころか、最大のサンプリング時間が8秒とか。それでもウン十万円もしたんだからね。

【ソフト名】GoldWave
【著作権者】Chris S.Craig 氏
【ソフト種別】シェアウェア 55カナダドル
【バージョン】4.12

□GoldWave digital Audio Editor
http://www.goldwave.com/

 レコードやCDなどからお気に入りの部分をパクッとサンプリングしてしまうブレイク・ビーツ。一見簡単そうに思えるけど、実は曲を作りこんでいくと様々なズレが生じてくる難しい作曲法のひとつ。ぜひループの作成は慎重に。まあ、ざっと作って「これが味だから」と主張するのもアリだとは思うけどね。さあ、次回からはお待ちかね、Windows版MODトラッカーの代表格「ModPlug Tracker」を使って実際にMODフォーマットの曲を作成していく。お楽しみに! では、Keep on music!

後藤 智博


 記事中の楽曲は後藤 智博氏によるものです。著作権は、後藤 智博氏に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページにリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。
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