【第1回】
ムービープレイヤー「MEIMI」を制作した東京理科大「S.E.E.R.A」
(00/05/31)
インターネット経由でダウンロードして手軽に使えるオンラインソフト。パッケージソフトと違って手作り的な部分も多いが、それを日夜一所懸命制作している作者の姿はなかなか見えにくい。そこで窓の杜は、学校のサークルや有志によるオンラインソフトの制作現場を訪ねてみることにした。
第一回目は、MPEGやAVIといった動画ファイルに多様なエフェクトをかけて再生する驚異のムービープレイヤー「MEIMI」を制作した東京理科大学・野田キャンパスのオンラインソフト制作グループ「S.E.E.R.A」を訪問した。
パソコン相談室がきっかけ
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東京理科大・野田キャンパス |
東京理科大学・野田キャンパスがあるのは、千葉県北部の野田市。周りを自然に恵まれた広々したキャンパスに全国から学生が集まっている。その中でS.E.E.R.Aのメンバーがいつも集まっているのは、たくさんのパソコンが並ぶパソコン教室の向かい側にあるパソコン相談室だ。S.E.E.R.Aのメンバーが集まったのは、もともとパソコン相談室に常駐する学校公認のパソコン相談員として集まったのがきっかけだった。
パソコン相談室は、学生がパソコンを使用しているうちに出てきた疑問を解決することを目的に設置されている。ホームページも開設されているため、ときには学校外からの質問もあるという。交代制でパソコン相談室に待機して学生の質問に答える彼らだが、自分の担当時間以外でもパソコン相談室に集まっていて、いわばサークルの部室のような場所になっている。MEIMIについても、昼間にパソコン相談室でアイデアを相談しながら、深夜にIRCで連絡をとりあい制作を進めているという。
嵐のような一週間
MEIMIは、MPEGやAVIなどの動画ファイルにいろいろなエフェクトをかけて再生するムービープレイヤー。多画面分割表示や、分割画面ごとの遅延表示、ノイズ付加、エンボス処理など80種類以上の特殊効果を組み合わせて、リアルタイムに表示することができる。なかには、立方体の各面に動画を貼り付けて回転させたり、複数の画面が並行に並んでいる様子をZ軸をずらして表示するといった、3D技術を取り入れた特殊効果もある。一目見ただけで“スゴイ”とうならせるソフトだが、基本的な開発に要した時間は、予想を裏切るくらい短かった。
MEIMIを作りはじめたきっかけは、大学祭での配布が目的だった。彼らはもともとWindows 95用の「AMI」という動画プレイヤーを使っていたが、分割画面で動画のタイミングをずらして再生する遅延再生など、再生方法をもっと多彩にしたいという要望が生まれ、MEIMIの制作がはじまった。最初は数名で始まったソフト制作も、ソフトの魅力からか少しずつメンバーが増え、今では約10名のメンバーの分業体制で制作が続けられている。
開発の中心になっているメインプログラマーの森谷くんは、「実現できなさそうなことを実現させていく過程がおもしろい」という性格で、開発を開始してたった3日で、基本設計を作り上げた。これは当時作りたかった機能のほぼ80%に達していたそうだ。それから他のメンバーがテストを繰り返し要望を出して、森谷くんがプログラムを修正していく日々が続いた。しかし、こうした開発の進め方も一週間で転機を迎えることになった。メインプログラマーの森谷くんが事情により松山の実家へ帰省することになり、森谷くんは直せるだけの手直しを終えると、ソースコードを残して学祭前にいなくなってしまったのだ。
ほぼ全員がプログラマー
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パソコン相談室にて |
残されたメンバーがソースコードをのぞいてみると、残りの20%を完成させることはそんなに難しくないことが判明した。そこで、残ったメンバーで分担してプログラムを修正したり、GUIやエフェクトを制作していくことになった。森谷くんが復帰した現在も、このときに確立した分業スタイルが続けられている。また、ほぼ全員がプログラマーとしてソフト制作に携われるのも、東京理科大のパソコン相談室に集うグループならではのことだろう。
彼らがソフト制作を進めていくうえで、欠かせない言葉が「頓挫」と「季節」だ。メンバーの分業で進められるMEIMIの制作過程は、すべてメンバー自身の自主性に任せられている。他の人の担当分野について、誰も指示しないし、完成したものに対して文句も言わない。ただメンバーそれぞれが作りたいように作っているのだ。誰からも強制されずにソフトを開発しているため、興味がなくなるとすぐ制作が頓挫してしまうらしい。またしばらくすると、むくむくと制作意欲がわいてきて、“MEIMIの季節”を迎えて制作再開となる。ただ飽きっぽいと片づけられそうだが、強制ではなく自主的に開発を進められる自由さが、そのままMEIMIの魅力を大きくしているに違いない。
現在、MEIMIの開発はさらに進んでいて、今度はDirectX 7対応バージョンがリリースされる予定。そのほか、VJグループからMEIMIをVJソフトとしてアレンジしてほしいといった要望も寄せられているそうだ。ユーザーとして気になる次回作については、現在のところまったく未定らしい。ただ、S.E.E.R.Aのソフト制作はすべて自主性に任せられているため、誰かがおもしろいアイデアを持ち寄ることがあれば、あっという間に次回作の制作が進んでいくのではないだろうか。
10人で餃子300個
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ホワイト餃子での荒行 |
インタビューが終わり、引き続いてS.E.E.R.A恒例のイベントに立ち会わせてもらえることになった。彼らが2か月に1回程度、メンバーで開催する荒行。なんと餃子をひたすら食べまくるというイベントだ。野田市の隣、柏市の繁華街にある“ホワイト餃子”という餃子専門店で行われるこのイベント、実はS.E.E.R.Aに限らず東京理科大・野田キャンパスの名物行事だそうだ。
たった10人で訪れたのにも関わらず、頼んだ餃子の数は300個。さらに、このイベントでは餃子以外の注文は御法度なのだ。待つこと1時間、出てきた餃子は皮が厚く固い、食感が揚げ餃子に限りなく近い焼き餃子で、数個食べると熱さと固さで口の中がぼろぼろになるほど。食べ終わるとしばらく餃子を見たくなくなるほどだが、しばらくすると「また餃子と戦いたい」という気持ちがわいてくるらしい。
イベントに参加させてもらい、S.E.E.R.Aのメンバーがひたすら餃子を食べる姿勢は、MEIMIを制作する姿勢にとても似ていると感じた。活動のすべてがメンバーの自主性に任せられているS.E.E.R.Aだからこそ、きっとまた新しいソフトの季節が突然やってきて、なにやらすごいソフトを作ってくれるに違いないと、餃子を食べ過ぎてもうろうとしている頭にふと浮かんだ。
□S.E.E.R.A Works - Produced by S.E.E.R.A
http://www.pccc.noda.sut.ac.jp/meimi/
□窓の杜 - 特殊効果付きムービープレイヤー「MEIMI」fr04 v1.2.1がリリース
http://www.forest.impress.co.jp/article/1999/11/29/meimi.html
(小山 文彦)
この連載ではオンラインソフト制作グループを紹介していきます。「我々こそ!」というグループは下記の項目をメールに書いてご応募ください。活動形態・地域は問いません。オンラインソフトの未来を担うのは、今パソコンの前にいるあなた達です!
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