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3D CGアニメーションツールの決定版「Blender」v1.80a

市販ソフトに匹敵する高機能ツールが完全フリー化

(00/07/21)

市販ソフトに匹敵する高機能ツールが完全フリー化

 3D CG制作用のオンラインソフトは数あるが、単体でモデリング、アニメーション、レンダリング、そしてレンダリング後のムービーファイルのビデオ編集までこなすソフトは数少ない。その中のひとつがオランダのNot a Numberからリリースされている「Blender」だ。もともとアニメーション制作会社の社内制作用ソフトとして開発されたソフトで、Windows版だけでなく、Linux版(i386、Alpha、PPC)、FreeBSD版、IRIX版、Solaris版、BeOS版と幅広いプラットフォーム用のバージョンが用意されている。市販の3D CGソフトの多くが装備する“インバースキネマティックス”[*1]や“パーティクルシステム”[*2]といった機能に加え、“ラジオシティレンダリング”[*3]やPython言語によるスクリプト機能など、市販の3D CGソフトでもなかなか備えていないような機能まで実装されている。従来は一部機能に制限のあったフリー版と、すべての機能を使えるシェアウェア版の2種類に分かれていたが、v1.80からは全機能が完全フリーになった。

慣れるとクセになる独自のユーザーインターフェイス

慣れるとクセになる独自のユーザーインターフェイス  WindowsユーザーがBlenderを起動してまず気づくのが、画面デザインの独自性だろう。メニューバーがなく、グレーの画面に機能名が書かれたボタンが並ぶ。Amiga的、強いて言えばLightWave的な画面だ。通常のソフトでは各ウィンドウはモデリング専用、アニメーション設定専用、ファイルダイアログ専用などと用途が限定されているが、Blenderの場合にはそのような制限はなく、モデリングをしていたウィンドウにファイル入出力のダイアログを表示させるといったことも可能だ。また、ウィンドウ枠の分割はユーザーが自由に設定できる。モデリング、アニメーション作成の作業場となる3Dウィンドウの画面表示はOpenGLに対応しており、テクスチャマッピングされたオブジェクトもリアルタイムに確認できる。

 コマンド操作はキーボードショートカット中心になっている。おもなメニューが[Shift]+[A]か[Space]キーで表示されるので、ひととおり目を通しておくとよいだろう。また、作業画面の視点変更やオブジェクトの拡大縮小など、多くの場面で3ボタンマウスの中ボタンクリックやドラッグが使われる。2ボタンマウスでも[Alt]+左ボタンで中ボタンとして使えるが、作業効率が格段に落ちるので3ボタンマウスの使用をオススメする。なお、筆者が使用するホイール付きの「Microsoft IntelliMouse」でも3ボタンとして認識された。

 Blenderのユーザーインターフェイスは、カラフルなアイコンが並んだツールバーを備え、ウィザードが完備されているような標準的なWindowsソフトとはまったく対照的で、使いはじめは操作が大変かもしれない。しかし、慣れてくると自分の手で粘土をこねて形を整えているような使いやすさで、作業効率もグンとアップする。

現代的な3D CGソフトの必要条件を満たすモデリング、アニメーション機能

S-Mesh

 モデリングは、ポリゴン(多角形)、ベジェ曲線によるスプラインパッチ[*4]、NURBS[*5]の各手法が選べる。また、ポリゴンモデリング時には少ないポイント数で柔らかな曲面を構成できる“S-Mesh”という手法も用意されている。

 オブジェクトの編集には頂点の移動、スケール、回転、押し出しといった一般的な手段が使えるため、ほかの3D CGソフトの操作経験があるユーザーならば、スムーズに操作できるようになるはずだ。また、モデリングしたオブジェクトの表面を、ペイントソフトのようにマウスでなぞって着色していく頂点ペイント機能も備えている。これは市販の高価なソフトでもサードパーティのプラグインや外部ソフトが必要になるなど、なかなか対応していない機能だ。

 アニメーション作成には、オブジェクトの移動や回転の始点、終点、通過点を設定して、その間を補完するキーフレームアニメーション、スプラインパス上でオブジェクトを移動させるパスアニメーション、オブジェクトの形状を変形するバーテックスキーアニメーションなどの機能を使用できる。また、“Ika”という関節状のオブジェクトを使って、インバースキネマティックスアニメーションを実現している。Ikaはレンダリング画像では見えない設定になっているうえ、オブジェクトの骨格であるスケルトンとしても機能するため、関節にしたがってオブジェクトを曲げることができる。頭から足まで一体成型のキャラクターに組み込めば、まさに操り人形のようなキャラクターアニメーションも制作可能だ。

動画に焦点を当てた高速かつ高品質なレンダリング機能

高品質なレンダリング機能

 多くの3D CGソフトがレンダリング方法として採用しているレイトレーシング[*6]は、高画質だが計算に時間がかかるといわれている。Blenderはレイトレーシングに対応していないが、シャドウマッピング[*7]や環境マッピング[*8]といった手法を用いることによって、高速かつ高画質なレンダリング画像を得ることができる。シャドウマッピングや環境マッピングはレンダリング時間に対する画質のパフォーマンスが高く、何枚もの静止画をレンダリングする必要がある動画制作にはなくてはならない機能だ。このほか、動画向けのレンダリング設定としては、テレビへの出力に適した画像を生成するフィールドレンダリングや、テレビ画像で使われる縦長ピクセルへ対応ができる。出力可能な画像形式は、3D CGソフトや動画編集ソフトでよく使われるTARGAのTGAファイル、JPEGファイル、IFFファイル、動画形式はAVIファイル、SGIファイルだ。

 このほか、光の干渉をシミュレートしてリアリスティックな画像をつくるラジオシティレンダリングや粒子アニメーションを行うパーティクルシステム、レンダリングによって生成されたムービーファイルに対し、場面転換や色調変化などの特殊効果を加えるポストプロダクションなどの機能が、たった2.5MB(EXEファイルとDLLファイル各1個の合計)に詰まっている。キーボード主体の操作性やオンラインマニュアルが付属しないこと、日本語ドキュメントの少なさなど難点も多いが、機能面、価格面でヘビー級の市販ソフトに手を出しにくい人やWindowsとLinuxの両方の環境で3D CGをつくりたい人に向いたソフトだ。なお、非公式ページ「Blender - Unofficial Japanese Site -」では、日本語によるFAQや掲示板が掲載されているのでチェックしてみよう。

【著作権者】Not a Number
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】1.80a(00/06/24)

□Blender, freeware 3D software
http://www.blender.nl/
□Blender - Unofficial Japanese Site -
http://www.dims.or.jp/~saito/blender/blender_jp.html


[*1]インバースキネマティックス
 階層構造になったオブジェクトで、子にあたるオブジェクトを動かすと親にあたるオブジェクトも連動して移動するように設定されている状態とその機能。

[*2]パーティクルシステム
 炎や噴水のような粒子アニメーションを作成する機能。

[*3]ラジオシティレンダリング
 すべての光源のエネルギーの拡散をモデル化した手法。ある部屋の室内を表現するとき、直接照明から照らされていないオブジェクトの面を、反射した光によって色と明るさを決定する。

[*4]スプラインパッチ
 曲線をつむぎ合わせて、その上に面を貼ることにより3Dオブジェクトを構成する手法。ちょうど凧の竹ひごの上に紙を貼ったような状態になる。曲線にはB-スプライン曲線やベジェ曲線などが使われる。

[*5]NURBS
 Non Uniform Rational B-Splineの略。B-スプラインを拡張したもので、正確な形状が表現できる。CADでよく使われている。

[*6]レイトレーシング(光線追跡法)
 ものが見えるということは、光源から発せられた光線が物体の表面に当たり、それが反射して目に届いていることである。レイトレーシングでは、光線の方向とは逆に目から物体、光源を追跡することにより色と明るさを決定する。

[*7]シャドウマッピング
 光源から見てオブジェクトにさえぎられて見えない部分を計算し、そこを暗くすることによって影を表現する手法。レイトレーシングに比べて高速に柔らかな影が生成できるメリットがある。

[*8]環境マッピング
 金属や鏡などに周囲の風景が写り込んでいるような表現を、レイトレーシングやラジオシティを使わず、擬似的に表現する手法。あらかじめ周囲の風景画像を用意しておき、それを物体の表面に貼りこむことによって実現している。

(望月 貞敏)

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