【第3回】
慶應義塾大学のゲーム制作サークル「Keio Digital Vertex」
(00/08/03)
インターネット経由でダウンロードして手軽に使えるオンラインソフト。パッケージソフトと違って手作り的な部分も多いが、それを日夜一所懸命制作している作者の姿はなかなか見えにくい。そこで窓の杜は、学校のサークルや有志によるオンラインソフトの制作現場を訪ねてみることにした。
第3回目は、カラーボールを組み合わせる対戦アクションパズルゲーム「ARCADIA~それって色物!?~」と、アリ同士が戦う戦略シミュレーションゲーム「すも~る giANT!!」という2つの個性的なゲームを制作した、慶應義塾大学のゲームソフト制作サークル「Keio Digital Vertex」を訪問した。
大学に入ったらゲーム制作サークルを作ろう
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慶大・日吉キャンパス |
「Keio Digital Vertex」(以下KDV)は、横浜市港北区にある慶大・日吉キャンパスで活動しており、発足してまだ1年ちょっとのフレッシュなサークルで、メンバーはすべて2年生と1年生で構成されている。現在サークルの生徒代表を務める清水くんたち2年生が入学してすぐに、KDVは結成された。サークル結成時は7名だったメンバーも、今では実質的な活動メンバーだけでも25名を数えるほどになった。
KDV結成メンバーの7名は、全員が慶應義塾高校出身。実は高校当時から「TEAM SD」の名でゲーム制作を始めていたが、実際にゲームをリリースするには至らなかった。そこで、大学に入ったらゲーム制作サークルを作ろうと約束していたのが結成のきっかけ。アクションパズルゲーム「ARCADIA~それって色物!?~」では、高校時代に作成したキャラクターなどの素材が流用されているため、かなり開発期間を短縮できたという。ちなみに、「TEAM SD」のなごりはKDVのホームページのタイトルロゴにまだ残っている。
大学公認サークルへ
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KDVの部室にて |
先ほど述べたとおり、KDVはまだ結成してたった1年の新しいサークルだ。サークルにメンバーが集まったというよりは、友達関係がそのままサークルになったようなもの。そんな彼らも、この春にはじめて新入生の勧誘を行ったそうだが、その結果は散々だったという。少ない部費のほとんどを費やして、ポスターやビラを作成したにもかかわらず、残念ながらポスターやビラを見てサークルに入ってきた人が全くいなかったという。
それでも、学内の全サークルを一覧できる新入生向けのパンフレットを見た新入生や2年生が新しくサークルに入り、順調にメンバー数も増えてきている。現在のKDVの悩みはプログラマーが2名しかいないことで、現在メンバーの中から3人目のプログラマーを養成中とのこと。さらに、3Dグラフィックとサウンドの制作希望者が予想以上に多く集まり、2Dグラフィック制作者が少ないそうだ。新メンバーも随時募集中だそうで、代表の清水くんによると「ゲームソフト制作にどれだけ関わるかは本人の自由で、自分がやりたいチームに所属できる」とのことだ。
昨年からの地道な? 活動が認められたのか、晴れて大学公認のサークルとなり、相部屋ながら部室もできた。KDVのメンバーはこの部室で顔を合わせたり、サークル全体のメーリングリストや制作チームごとのメーリングリスト、あとはチャットなどを活用して日夜ゲームソフト制作に励んでいる。そこで、ゲーム制作に使っているパソコンを見せてほしいとお願いしたら、メンバーのカバンの中から次々とノートパソコンが出てきた。中にはスキャナーまでカバンに入れて持ち歩いているメンバーもいて、これにはオドロキ。
大学のサークルということで、他サークルとの交流について聞いてみたところ、学内のサークルとの交流は少ないらしい。KDVのメンバーは、学外のサークルといろいろゲーム制作の裏話などについて話し合ってみたいと言っていた。ただ、共同製作についてはあまり関心がないらしい。というのも、以前他のゲーム制作サークルと一緒にゲームソフトを作ろうという話があったそうだが、シェアウェアにするかフリーソフトにするかなど、ゲームソフト制作に対する姿勢の違いからうまくいかなかったそうだ。KDVについては、公認サークルは営利活動ができないことも含めて、当分シェアウェアにするつもりはないそうなので、これからも良質のゲームがフリーソフトで提供されるのはユーザーとしてはうれしい限り。
じっくり作り込まれた個性的なゲームソフト
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ARCADIA~それって色物!?~ |
ここで、KDVがこれまでにリリースしてきた2本のゲームソフトを簡単に紹介しよう。どちらも時間をかけてじっくりと作り込まれたユニークなソフトだ。最初にリリースされた「ARCADIA~それって色物!?~」は、カラーボールを組み合わせて別の色のカラーボールを作り、陣地を広げていくという斬新なアイデアの対戦アクションパズルゲーム。オセロ盤のような3Dステージ上で、三頭身のキャラクターが自分よりも大きなカラーボールを押したり持ち上げたりする姿がとてもかわいい。
もう一つの「すも~る giANT!!」は、アリ同士が戦いを繰り広げる戦略シミュレーションゲーム。ネーミングから感じる強いこだわりが、そのままゲームにも凝縮されている。数十匹から数百匹のアリで編成されるユニットを操作して、コンピューターが操作する敵ユニットを退治する。3つのステージが用意されており、敵ユニットを全滅させたり、エサになる砂糖を一定以上集めたりと、ステージによってクリア条件が変化する。
どちらのゲームソフトも、半年以上の期間をかけてじっくり作り込まれているうえ、さすが大学生と感じさせるほどオリジナリティにあふれている。KDVのメンバーは、「ぜひ感想を送ってほしい」と言っていたので、プレイした感想をKDVにメールしてみてはいかがだろうか。
コミックマーケットに出展
立て続けに2つのソフトをリリースしたうえに、大学公認サークルにもなり、ここまで順風満帆なKDVに次回作の予定を聞いてみた。KDVではメンバーが増えたこともあり、現在は3チームに分かれてゲーム制作を進めているそうだ。最初にリリースされる予定なのが、1人プレイのカードゲーム。そのほか、1年計画で進められている3DアクションRPGと、1年生が中心に制作しているノベルゲームを鋭意制作中とのことだ。
このうちカードゲームは、今月東京ビッグサイトで開かれる「コミックマーケット58」で配布される予定。東京近郊で時間のある人はのぞいてみてはいかがだろうか。KDVの最新作をリリース当日にKDVのメンバーと一緒にプレイすることができるかもしれない。なお、KDVのコミックマーケット出展日は2日目の8月12日(土)で、同人ソフトエリアの「東カ09A」という区画に出展することになっている。
現在カードゲームのリリース目前ということで、制作は急ピッチで進められており、ちょうど1週間の追い込み合宿中。コミックマーケットでソフトがリリースされた後も、山形県米沢市でソフト制作のための長期合宿が予定されている。カードゲーム以外でも、ノベルゲームが冬ごろに、3DアクションRPGが来春から来夏にかけてリリースされる予定なので、ゲームファンには目が離せないところだろう。
公認サークル祝賀コンパ
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居酒屋で祝賀コンパ |
インタビュー後、KDVが大学公認サークルとして認められたことを祝うコンパが開かれ、筆者も一緒に参加させてもらった。大学近くの居酒屋でさんざん飲み食いしたあと、日吉の名物ラーメン店の「らすた麺」で大盛りラーメンを食べたところで筆者はリタイヤ。とても現役学生にはついていけず、KDVのメンバーはその後も二次会に突入していった。まだまだ元気が有り余っているKDVのこと、今後リリースされるゲームソフトにも十分期待できそうだ。
□Keio Digital Vertex
http://genesis.harukaze.net/
(小山 文彦)
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