ひぐちたかしの新作ソフト紹介


【第100回】

連載100回記念・特別企画

21世紀のオンラインソフトとは? これまでの新作を振り返り、未来を大予想!

(00/10/16)

 10月15日に窓の杜が3周年、メール版も創刊2周年を迎えたが、本連載もおかげさまで今回100回目を迎えることとなった。ここまでなんとか続いたのは読者の皆さんやオンラインソフト作者の皆さんあってのことで、筆者としては感謝感謝の一言に尽きるが、改めてここに筆者の率直な心境を言葉にしておきたい。「つたない文章をいつも読んでいただいて、本当にどうもありがとうございます。」  さて、今回は連載100回記念ということで、いつもの新作ソフト紹介記事とはちょっと趣向を変え、これまで紹介してきた中で筆者の印象に強く残っているソフトをいくつかピックアップしながら、現在までを振り返りたいと思う。将来が楽しみだったあのソフトはあれからどうなったか、現在どう進化しているだろうか。そして最後に、間もなく迎える21世紀、オンラインソフト業界は今後どうなっていくのか、不安と期待をこめて筆者の個人的な予想などを書いてみよう。我々は来年、そして10年後、果たしてどんなオンラインソフトを使っているだろうか。いや、オンラインソフトは存在しているのだろうか?

1998年、新作のキーワードは「自動」と「お手軽」

「マイクロワード」v1.00  1998年といえば、7月にWindows 98がリリースされた年。世間では映画「タイタニック」が大ヒット、長野五輪が開催され日本代表がW杯サッカーに初出場したが、今から思えば世の中は比較的のんびりムードだったように思われる。そんな中、8月下旬から窓の杜で始まったのがこの連載だった。年ごとに共通する何か大きなテーマのようなものを考えながらソフトを取り上げてきたわけではなく、使ってみて面白いと思われたものをむしろ場当たり的に選んできたのだが、結果としてそこには世間の流行や時代が求めた必然性のようなものが見えてくる。1998年に取り上げたソフトを今改めて振り返ってみると、この年は『自動』や『お手軽』という言葉がキーワードとして浮かんでくる。

 第1回で取り上げたソフト「マイクロワード」は、パソコンで何か別の作業をしている合間の時間に英単語を覚えようというものだった。英単語問題の書かれた小さなウィンドウが画面隅に現れては5秒ほどで消えるということを『自動的に』60秒ごとに繰り返し、ユーザーは他の作業で忙しいときは出題を無視すればよく、手の空いている時だけマウスを動かして解答するという使い方をする。これは本来ユーザーが能動的に行うべき「出題ウィンドウを開く」という操作をソフトが『自動的に』行い、ユーザーは“ながら勉強”で『お手軽に』英単語を覚えられる、と言えるだろう。「マイクロワード」はその後まったくバージョンアップしていないが、類似のコンセプトで“ながら勉強”のできるオンラインソフトがいくつか登場している。

 第2回の「フォン太」も、汎用グラフィックソフトでは手間のかかる工程を『自動化』して、サンプルから選ぶだけの『お手軽さ』でフォントを見映え良く加工しバナーやボタンを作るソフトだった。現在はGUIの強化やサンプルの増大など大幅な機能強化が図られ、完成度の高いソフトに仕上がっているが、基本的なコンセプトはこの連載で紹介した当時と変わっていない。第3回の「オートランチャー」はアプリケーションを『自動で』登録してくれるランチャーソフト、第7回の「自動作曲システム」もその名の通り『自動で』作曲してくれるソフトで、イントロやサビのある本格的な作曲はできないものの、民族音楽風や洋楽ポップス風の“それらしい曲”を『お手軽に』作ってくれるものだ。第9回の「王羲之」(おう・ぎし)なども、書道の下手な人でも『お手軽に』見栄えのいい毛筆の字を書くことができるというもので、字をカッコよく整えるという意味では自動化と言えなくもない。

 1998年はWindows 98の登場がテレビや新聞のニュースとなり、Windows 95からの流れを受けてWindowsパソコンが世にいっそう広く普及した年でもある。それはパソコンがなにか小難しい計算をしてくれるものではなく、逆に何でも勝手にやってくれる魔法の箱でもなく、手間のかかる必要な作業だけを手軽にできるようにしてくれる“身近で便利なものである”という認識がごく普通の一般人にも広まった年ではなかっただろうか。特にオンラインソフトは市販のパッケージソフトと違い、小回りのきく『お手軽さ』、全部お任せではない部分的な『自動化』の役割を担ってきたように思われる。そんなオンラインソフトが多く登場したのが1998年だった。

□窓の杜 - 1998年のひぐちたかしの新作ソフト紹介 INDEX
http://www.forest.impress.co.jp/article/shinsaku1998.html
□「マイクロワード」v1.00
http://www.vector.co.jp/soft/win95/edu/se076501.html

1999年は“衝撃的”な年だった

「Iria」v1.06  1999年、つまり去年は、JCOの臨界事故や警察不祥事、ハイジャックなど世の中に衝撃的な事件の多い年だった。インターネット業界ではiモードが産声をあげ、携帯電話でのインターネット利用が広まり始めたのもこの年だ。年末にかけては2000年問題が大きな社会不安となったのも記憶に新しい。

 オンラインソフトの世界では実にさまざまな分野の作品が登場し、いわばソフト豊作の年だったように思われる。本連載で取り上げたソフトも、あまりに多様すぎて何らかのキーワードや共通点を見出すことは難しいのだが、その中でも衝撃的に印象深いソフトが、第45回でとりあげた和製ダウンローダー「Iria」だ。「Iria」が登場するまで、日本でいわゆるダウンローダーといえば「GetRight」か「ReGet」で、いずれもオリジナルは海外で開発されたものだった。もちろん「Iria」以外にもダウンロードを支援する和製ソフトはないわけではなかったが、「GetRight」や「ReGet」に取って代われるレベルのものは「Iria」が初めてではなかっただろうか。このソフトはのちにこの年の「窓の杜大賞」を読者票トップで受賞し、素晴らしいソフトとして広く世に認められたのは皆さんもご存じの通りである。現在の最新版ではブラウザーとの連動性をはじめ多くの点が改善されており、非常に完成度の高いソフトになっている。

 また、個人的に衝撃を感じたソフトはもう一つある。それは1999年最後の第64回でとりあげた「Tenkai」だ。このソフトは3Dポリゴンのモデルをペーパークラフトにできるというソフトだが、このソフトが他のソフトと大きく異なる点は、このソフトはパソコンの中だけで完結せず、最終的な目的が紙工作ということだ。ダウンローダーにしてもメールソフトにしてもランチャーにしてもビューワーにしても、ほとんどのパソコンソフトはパソコンの中だけで目的から結果までが完結してしまう。ポスター制作や名刺作成ソフトのようにプリンターを使うものであっても、出力先がCRT画面ではなく紙であるというだけの違いで、基本的にはパソコンの中だけでほとんどの処理が終わる。しかし、「Tenkai」は紙に出力したものをハサミで切り取って糊で貼り付けて組み立てるという、パソコンの外で行う行為にメインの面白さがあるのだ。小学校時代の工作を思い出してちょっと懐かしくもあり、また新鮮な驚きもあった。

 そのほかにも、この年に取り上げたソフトは1年経った今振り返ってみてもユニークなアイデアで面白いソフトばかりだったように思う。もしまだチェックしていない読者の方がおられるようなら、1年前に紹介されたソフトだからと敬遠したりせず、ぜひバックナンバーを読んでみていただきたい。

□窓の杜 - 1999年のひぐちたかしの新作ソフト紹介 INDEX
http://www.forest.impress.co.jp/article/shinsaku1999.html
□「Iria」v1.06
http://gaogao.tripod.co.jp/

2000年は携帯電話の活用がカギ

「ちょbit 3D」v1.3  そして西暦2000年、ミレニアムイヤーの今年は有珠山や三宅島での火山噴火や鳥取地震といった天変地異も起こるなど、世紀末を象徴するような事件が多発する一方で、政府によってIT革命が景気回復のカギとして叫ばれるなど、パソコン業界も21世紀を目前に大きな変革が始まったと言えそうだ。携帯電話によるインターネット利用、特にiモードユーザーが爆発的に増えたことは、これらの活用を視野に入れたソフトの登場という形でオンラインソフトの世界にも大きく影響している。

 記憶に新しいところでは第90回の「ちょbit 3D」のインパクトが忘れられない。人物の顔写真をもとに3Dアニメで動く爆笑モノの2頭身キャラクターを作成できるというこのソフトは、作成した3Dアニメをパソコンで見ることができるだけでなく、ホームページ素材としてインターネット上に公開でき、さらにiモード携帯電話でも楽しめるよう作られている。さすがシャープ(株)の作ったソフトだけあって“目のつけどころがシャープ”という印象だ。個人的には2000年を代表するソフトと言ってもいいと思えるほどだ。「ちょbit 3D」はその後バージョンアップし、本体の機能は変わっていないがホームページをもっていない人でも作成した3Dアニメを友達などにパソコンで見てもらうことができるようになっている。

 また、第79回でとりあげた「ページ見る」も印象深いソフトだ。こちらは「ちょbit 3D」の楽しさや面白さとは対照的に、実用面でのユニークさがある。定期的にホームページの更新をチェックしてその更新内容をメールで送信するソフトで、株価のチェックや掲示板での迅速なやりとりなど応用範囲も広い。特に携帯電話のメールと組み合わせて使えば大きな威力を発揮するのだが、できれば常時接続のインターネット環境で使いたいソフトで、現在のiモードのようにメールの受信文字数に制限があるとちょっと使いにくい面もある。そういう意味では、常時接続が普及し携帯電話のメール機能も拡張されていくであろうこれからの時代に活用されるソフトと言えるだろう。「ページ見る」はその後のバージョンアップでメールの着信チェックと転送ができるようになり、IEの“お気に入り”も更新チェックできるようになるなど機能アップが図られている。

 ほかにも第82回の「smdEd」などは、携帯電話の着メロが3和音や4和音に対応してすぐ登場し、時代を象徴していると言える。ただし着メロの和音化によりデータ量が増える一方で有料の着メロダウンロードサービスが充実してきたため、自分で着メロデータを入力するタイプのソフトは今後利用されることは少なくなるはずだ。これはサービスがソフトにとって代わった例といえる。そのほか、第73回の「i-BRO artchips」や第85回の「PIM-face」なども、携帯電話を強く意識したソフトだった。もちろんそれらを意識的に記事として取り上げたのは筆者なのだが、今年は携帯電話関連ソフトを抜きにしては語れない。オンラインソフトが豊作だった前年の反動でややもするとソフトのアイデアが出尽くした感もあるなか、目立って元気だったのが携帯電話関連のソフトだったように思われる。

□窓の杜 - ひぐちたかしの新作ソフト紹介 INDEX
http://www.forest.impress.co.jp/article/shinsaku.html
□「ちょbit3D」v1.21
http://www.spacetown.ne.jp/mebius/lib/t-bit3d/chobi.html

21世紀のオンラインソフトはこうなる!?

 ではこういった世の中の流れを受けて、来たる21世紀のオンラインソフトはどうなるだろうか。以下はあくまで筆者の大胆予想だが、まず数年先くらいまでの比較的近い将来を予想すると、Windows MeやWindows 2000の次のバージョンが登場するまではそれほど急激に状況が変わることはないだろう。携帯電話でのインターネット利用がますます進み、携帯電話と連携したパソコンの活用がさらに充実すると思われる。

 例えば第85回の「PIM-face」のように、携帯電話から参照するスケジューリングサービスをメンテナンスするためのソフトといったものが多数出てくるだろう。もちろんスケジュール管理以外にも、携帯電話とパソコンで共有する情報にはテキスト、画像、動画、音声などいろいろ考えられる。それらのメンテナンスを、Webなどインターネットを介して行うものが、今後オンラインソフトとして色々と登場しそうな気がする。また、画像処理や音楽の分野では、次世代携帯電話の仕様と深く関わり、例えば携帯電話のカラー画面で見られるアルバムソフトや、次世代携帯電話のPCMサウンドで再生したりダウンロードできるパーソナルユースの音楽配信ソフトといったものが登場してくるように思われる。

 一方、5年から10年先の少し遠い将来になると様相はがらりと変わることが予想される。タッチパネルと音声入力をベースとしたOSが普及し、今のようにユーザーがダウンロードしてインストールするソフトウェアアーカイブの配布形態はなくなっていくだろう。現在のソフトウェアが担っているすべてのサービスは無線などのオンラインで提供され、まさに“オンラインで使う”という意味の“オンラインソフト”が普及しそうだ。たとえば、画面に表示された窓の杜のようなソフトライブラリに向かって、「暇つぶしになるシューティングゲームを出してくれ」と唱えると、無線のLANで2~3秒のうちに必要なプログラムが供給されて直ちに起動し、画面には仮想3Dの宇宙空間が広がってゲームを楽しめる、といった具合。必要な時に必要なプログラムが供給されるというこのシステムは、現在でもJavaアプレットやActiveXコンポーネントという形で徐々に実現されてきており、また音声認識システムやキーボードレスのPDAなどもすでに普及し始めていることからも、もう決してSF映画の話ではないのだ。オンラインソフトの世界にも、ソフトウェアアーカイブからオンデマンド型オンラインサービスへという波は、いずれ必ず、確実に訪れることが期待される。

 もちろんそういう便利な未来がやってくるまでには、セキュリティシステムの構築や配信技術の向上など越えるべきハードルはいくつもある。だが、今から考えてもなかなか面白い未来になることは間違いなさそうだ。その頃には筆者も、時代に即して進化した「窓の杜」の中で、ワクワクするような新しいソフトやサービスを読者の皆さんに紹介していることを期待したい。残すところあと2カ月半となった20世紀、そしていよいよ迎える21世紀。これからも引き続きご愛読をよろしくお願いします。

(ひぐち たかし)

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