I MADE IT!
~オンラインソフトの誕生物語~


【第2回】

簡単解凍ソフト「解凍レンジ」の作者、白川 泰洋さん

(00/11/21)

 オンラインソフトを使っていて、「なぜこのソフトが産み出されたのだろうか?」という思いをもったことはないだろうか。オンラインソフトには、作者のアイデアや思いやり、使命感などが詰まっている。普段何気なく使っているオンラインソフトの誕生ストーリーを知ると、ますます愛着がわくかもしれない。ということでこの連載では、ソフトを制作した作者自身に会って、ソフト誕生の内幕にスポットライトを当ててみたい。第2回目は、DLL不要でさまざまな形式の圧縮ファイルを解凍できるフリーの簡単解凍ソフト「解凍レンジ」の作者、白川 泰洋さんを訪問した。

広島駅で待ち合わせ

広島市内のファミリーレストランで
広島市内のファミリーレストランで

 解凍レンジの作者である白川 泰洋さんが住んでいるのは、平和宣言都市として知られる広島市。白川さんは広島市内に勤務する会社員のため、土曜日にインタビューすることになった。そしてインタビュー当日、筆者が東京から新幹線で移動するため、広島駅の北口で待ち合わせる約束をした。実はこの日から約3か月前に、筆者は一度だけ白川さんと会って話をしたことがある。6月に開かれたオンラインソフト大賞の席だったが、出身県が隣り同士だったこともあり、妙に身近な話で盛り上がった。ちなみにそのとき、別の作者も交えて新しい解凍ソフトのアイデアを話し合ったのだが、いまだ実現されないままとなっている。

 まずは広島駅と白川さん宅の間にあるファミリーレストランでインタビューすることになった。会ったことがあるとはいえ、やはり緊張する瞬間だ。最初に、解凍レンジのターゲットユーザー層を聞いてみたところ、圧縮ファイルを解凍する全ユーザーに使ってほしいとのこと。あれだけ使いやすいシンプルなソフトなだけに、てっきり初心者向けだろうと筆者が思い込んでいたが、確かに解凍レンジは、対応する圧縮ファイル形式が多く解凍スピードも速いなど、ヘビーユーザーにも欠かせないほどの実力をもっている。

「解凍レンジ」ってどんなソフト?

解凍レンジ(インストール画面)
解凍レンジ(インストール画面)
 ここで、白川さんの代表ソフトを紹介しておこう。フリーでDLL不要の簡単解凍ソフト「解凍レンジ」、デスクトップのアイコン切り替えソフト「IconMan」や、IE4のころに重宝した「IE PowerTools」などがあげられる。その中でもっとも有名なのは、やはり解凍レンジ。先ほども軽くふれたが、本年度のオンラインソフト大賞の入賞作品で、ユニークで覚えやすい名前もさることながら、見た目にわかりやすいアイコンと、難しい設定なく誰でも使える親しみやすさが特長だ。解凍スピードの速さもウリで、オンラインソフトユーザー必須のLZH形式とZIP形式に加え、圧縮率と普及度が高いバランスを保つCAB形式に早くから対応していたほか、UNIXでよく使われるTAR形式やGZ形式を含む計11種類の圧縮ファイルを解凍することができる。

 解凍レンジがリリースされる以前は、Windowsの解凍ソフトといえば「Lhasa」の独壇場だった。しかし、Lhasaが一時的にバージョンアップしなくなり、解凍できないファイルが出てきて困っていたときに、Lhasaと同様にフリーでDLL不要、さらにCABにも対応した解凍レンジが登場したのだった。その後、このジャンルに数多くのソフトが登場し、Lhasaと解凍レンジを中心に簡単解凍ソフトの戦国時代に突入したのは、窓の杜の読者ならご存じのことだろう。

□窓の杜 - 簡単操作の解凍専用ソフト「解凍レンジ」v1.0が公開
http://www.forest.impress.co.jp/article/1999/02/17/range.html

オンラインソフト作者になったきっかけ

もとは無類の車好き
もとは無類の車好き
 白川さんがパソコンを使うようになったのは、5年ほど前からだという。勤務先の会社でMicrosoft Accessを使って顧客管理をするようになったのが最初で、それから少しずつパソコンにハマっていったそうだ。その後、もともとMacintoshユーザーだった白川さんの友人から、「Windowsはなぜアイコンが変えられないのだろう」という疑問を投げかけられたときに、VBを使って作り始めたのがIconManだった。そしてIconManの新バージョンにインストーラーを採用する際、オリジナルの自己解凍形式にしたいと思い、圧縮・解凍アルゴリズムについて色々と調べて勉強していくうちに、圧縮・解凍という分野に関心が移っていったそうだ。

 実は白川さん、パソコンを始める前は無類の車好きで、ここ数年で10台もの車を乗り換えているのだという。なお、今乗っているトヨタ車以外はすべて日産車で、広島に本社のあるマツダ車には乗ったことがないらしい。パソコンを始める5年前までは家にいることがほとんどなかったという白川さんだが、パソコンとプログラミングにハマって以来、暇があればパソコンの前に座ってユーザーあてのメールを書いたり、プログラミングにいそしんでいるのだそうだ。話も盛り上がってきたところだったので、筆者が失礼にも「結構好き勝手やってたんじゃないですか?」と聞いてみたら、「広島にしてはおとなしいほう」とのお答え。広島にしては…っていうのが少し気になるところだ。

解凍ソフトへの深いこだわり

解凍ベンチでテスト計測
解凍ベンチでテスト計測
 こんな白川さんだが、“解凍”に対するこだわりは並々ならぬものをもっている。とにかく、中途半端であることが嫌いで、「解凍レンジ」についてはとくに解凍速度とバランスにこだわっている。自分にできる工夫と、プログラムの最適化だけは徹底的にやっているそうだ。その証拠に、白川さんは解凍ソフト制作のために「解凍ベンチ」というソフトを制作している。「UNLHA32.DLL」を使って解凍するソフトや、DLL不要ソフトの解凍作業を監視し、同じ圧縮ファイルを解凍する際にかかった時間を計測するソフトだ。

 もちろん他のソフトと比較というよりは、このソフトで解凍レンジを徹底的に早くするのが目的なのだろう。ソースの一部分を変えたら解凍時間を計って…というのを繰り返しては、解凍レンジのブラッシュアップが図られている。解凍のアルゴリズムについては、「InfoZIP」や「LHA」などの有名な圧縮・解凍ソフトのソースを参考に作ったのだそうだ。そのほか、他の解凍ソフトのバージョンアップの動きも、ある程度気を配っているのだという。

 ところで、最近の白川さんには困った問題が起きている。最近はパソコンを使っている時間の約八割がユーザーから来たメールの返事を書いているとのことで、平日は全くプログラミングに取りかかれないそうだ。それだけに、サポートの責任がより大きくなるシェアウェアのリリースについては今のところ全く考えていないらしい。ただ、これまでに数多くの公開ソースや作者ホームページに世話になったので、もっとプログラミングに自信がもてれば、オープンソース化についても考えたいとのことだ。

オンラインソフト作者でよかったこと

白川さんの制作環境(自宅)
白川さんの制作環境(自宅)
 解凍ソフトに強いこだわりをもつ白川さんに、オンラインソフト作者になって良かったことを聞いてみた。白川さんによると、良かったことが二つあるそうだ。まず第一に、パソコン誌の付録CD-ROMに解凍レンジが収録されて見本誌が送られてくるようになり、自分でパソコン誌を買う必要が少なくなったこと。もう一つが、オンラインソフトを作成する過程で何人かの人と知り合えたことだそうだ。広島でほとんど一人でソフトを作成している白川さんにとって、オンラインソフト制作の過程で知り合った人たちが、進んでテストをしてくれたり、開発過程での悩み相談に乗ってくれたのが強い力になったという。こうした人たちの存在こそ、解凍レンジが定番ソフトの地位を獲得した本当の理由かもしれない。

 こんなまじめな白川さんに、これからプログラミングを始めたい人に向けてひとことくださいとお願いしたら、プログラミングは車の運転と似ているといっていた。ただ単に「動けばOK」とか、原因を追及せずに「大丈夫だろう」と考えるのではなく、ユーザーの予想外の操作や、ソフトが起こす副作用の可能性を十分考えることが大切だと教えてくれた。確かに、圧縮・解凍ソフトはオンラインソフトのダウンロード時だけでなく、データのバックアップにも使われているわけだから、白川さんの肌身で感じた言葉には大きな重みを感じた。

今後の展開と次回作について

IconMan新バージョンの画面
IconMan新バージョンの画面
 筆者が白川さんを訪ねたとき、「IconMan」の新バージョンを見ることができた。現在白川さんのホームページで配布されている「IconMan」v2.0 プレビュー版は、Windows 95/98用でリリース日からすでに2年がたっている。もちろん他のOSでも動作はするのだが、肝心の変更したいアイコンがリスト表示されない場合がある。しかし最新版では、Windows 2000にも対応するとのことで、デスクトップのアイコンを思う存分変更することができそうだ。

 さらに本格的な圧縮・解凍ソフトの制作にも関心があるほか、時間があればメールソフトにも挑戦したいそうだ。フリーソフトであるにも関わらず、「ユーザーからのメールにはできる限り返事を書くようにしている」と語る、本当にまじめな白川さん。メールソフトが公開されるのはずいぶん先になりそうだが、きっとこだわりの逸品が誕生するに違いない。リリースされたらすぐに試してみたいところだ。

□とりあえずホームページ
http://www2s.biglobe.ne.jp/~yyyy/
□窓の杜 - 解凍レンジ
http://www.forest.impress.co.jp/library/kaitorange.html

(小山 文彦)

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