I MADE IT!
~オンラインソフトの誕生物語~


【第4回】

キーボード切り替えソフト「どこドア」の作者、鈴木 理友さん

(00/01/23)

 オンラインソフトを使っていて、「なぜこのソフトが産み出されたのだろうか?」という思いをもったことはないだろうか。オンラインソフトには、作者のアイデアや思いやり、使命感などが詰まっている。普段何気なく使っているオンラインソフトの誕生ストーリーを知ると、ますます愛着がわくかもしれない。ということでこの連載では、ソフトを制作した作者自身に会って、ソフト誕生の内幕にスポットライトを当ててみたい。第4回目は、手元のパソコンのキーボードとマウスで、隣のパソコンを操作できるようになるキーボード切り替えソフト「どこドア」の作者、鈴木 理友さんを訪問した。

熱烈なフィアットファン

フィアット車がいちばん!
フィアット車がいちばん!
 鈴木 理友さんは、横浜市青葉区に住む37歳の会社員。前回登場したSchezoさんと同じ東急田園都市線の沿線、最寄り駅の青葉台駅から車で10分程度の閑静な住宅街に住んでいる。東京大学大学院を卒業後、現在は会社員とシェアウェア作者の2足のわらじをはいて、日々ソフト開発にいそしんでいる。鈴木 理友という名前はハンドルネームで、以前乗っていた愛車・伊フィアット社の「リトモ・アバルト」が由来。ファンのお叱りを覚悟で簡単に説明すると、「リトモ・アバルト」は、一代前のフォルクスワーゲン・ゴルフのような形のハッチバック車で、「好き好きリトモ」が転じて鈴木 理友となったという。鈴木さんが現在乗っているのも、もちろんフィアット社の車だ。

手元のキーボードとマウスで隣のパソコンを動かす

どこドア
どこドア
 それでは、ここで鈴木さんの代表作について紹介しておこう。もっともユニークな作品で自他ともに認める代表作は、手元のキーボードとマウスで隣のパソコンが動かすことができるソフト「どこドア」だ。たとえば、デスクトップパソコンとノートパソコンを2台並べて使用しているユーザーの場合、デスクトップマシンのマウスポインタをノートパソコン側の画面端に移動すると、たちまちノートパソコンのマウスポインタが操作できるようになる。またこのとき、デスクトップにつながったキーボードをタイプすると、ノートパソコン上のソフト内に文字が入力されていく。1組のキーボードとマウスで3台までのパソコンが操作できるので、机の上がキーボードで埋め尽くされないですむという利点と、種類の違うキーボードを意識して使い分ける必要がなくなるという利点もある。Windowsパソコンを2台並べて使用しているユーザーには、まさに必携のソフトと言えるだろう。

 「どこドア」と組み合わせて役立つソフトが、クリップボードの中身を4台までのパソコンで共有する「LANクリップボード」だ。もともとは、「どこドア」よりも先にリリースされたソフトだが、「どこドア」と操作感覚が変わらず使いやすい。併用すれば、左のパソコンでコピーした文字列を、マウスはそのままで右のパソコンに貼り付けることができる。そのほか、[NumLock]キーで起動する電卓ソフトの「テン卓」、インターネット株価収集ソフトの先駆けである「株窓」などがリリースされている。また、興味深いことに、これらのソフトはマイクロソフトの「VC++」v4.0で開発されている。これは、それ以降のVC++が同一名でバージョンの異なるDLL“MFC42.DLL”を使用しており、VC++のバージョンが新しくなるたびにDLLに変更が加わるのに対し、「VC++」v4.0用の“MFC40.DLL”は変更が加わらないため安心して開発できるからだそうだ。古いDLLを使用しているソフトについて気になるのは、新OSがそのDLLのサポートをやめてしまうことだが、「VC++」v4.0で開発されたソフトが多く残っているからか、Windows MeやWindows 2000といった最新のOSでもサポートされている。

TeamQuickwareの誕生

誰かに似てる!? 鈴木 理友さん
誰かに似てる!? 鈴木 理友さん
 前述したとおり、非常にユニークなソフトを開発している鈴木さんだが、ソフトのリリースする際には鈴木さんの個人名ではなく、“Team Quickware”という開発チームの名前でリリースしている。Team Quickwareは、約3年前にオンラインソフトの制作をスタートしたときに、会社の同僚と鈴木さんの2人が開発担当者となり、もう1人のサポート担当者を加えて3人ではじめたソフト開発チームだ。そして第一弾として、「LANクリップボード」と、「株窓」をはじめとする4本の株価情報取得ソフトを公開した。

 設立当初、大きな野望を抱いていたTeam Quickwareだが、短期的にはうまくユーザーを獲得することができず、結果として2人のソフト開発者は別の道を歩むことになった。鈴木さんとしては、本当はもうちょっと多くの人数でやりたかったというが、このとき、オンラインソフトで食べていくのはかなり難しいなと実感したという。現在では、サポート担当者がシェアウェア登録時のパスワード発行業務をやっている程度で、ほとんど鈴木さん一人で活動している状態だ。また、鈴木さんも昨年は会社の仕事が忙しく、ユーザーサポートだけで手一杯で、あまりソフト開発には踏み込めなかったと振り返っている。

パスワード流出事件

 2000年2月ごろ、「Team Quickware」から「どこドア」や「LANクリップボード」の登録ユーザーあてにパスワードの変更メールが届いた。新しいバージョンから、従来のパスワードが使えなくなるため、新しいパスワードに変更してほしいというものだ。実はこのとき、重大な事態が起こっていた。一部の悪質な登録ユーザーによって「どこドア」や「LANクリップボード」のパスワードが、インターネット上で公開されてしまったのだ。事態に気づいた鈴木さんは、いろいろ悩んだ結果、パスワードを変更することを決め、ユーザー全員にメールを発送することにしたのだ。

 筆者はこの行動をとても勇気のある英断だと評価したい。パスワードを変更すると、手間がかかるのはきちんとシェアウェア登録したユーザーだ。しかし、パスワードが公開された状態を野放しにすると、悪質なユーザーを助長することにもなるし、なによりもちゃんとユーザー登録した人が損をする。鈴木さんもパスワードを変更するという結論を導くまで相当悩んだに違いない。幸いなことに、このパスワード変更についてユーザーから不満や反論の声は一切なかったとのことで、鈴木さんの英断は見事成功に終わった。ただし、パスワード再発行業務が未だに残っているため、ソフト開発の負担になっているらしい。パスワードが流出して優秀なシェアウェアの開発を妨げることのないよう、各ユーザーが自覚をもたなければならない。

海外進出失敗?

 「どこドア」も「LANクリップボード」も、パソコンを2台並べて使っているユーザーには使い始めると手放せないソフトだ。しくみとしてもハードウェアよりだから、英語版を作ってしまえば海外でも人気が出るのでは? と鈴木さんに伺ったところ、実はすでに英語版を作成して海外進出を試みたことがあるそうだ。その結果はどうだったかと尋ねると、海外ではほとんど登録がなかったとのこと。鈴木さんは登録数が伸び悩んだはっきりとした理由はわからないが、日本国内のように省スペースという目的がないからだろうかと話していた。あるいは、「どこドア」は「VNC」のような別マシンのデスクトップをウィンドウ表示してリモート操作するソフトとよく勘違いされるそうだが、海外ではインターネット回線をとりまく状況が日本国内と異なるために、リモート操作ソフトが普及しており、キーボード切り替えソフトの必要性が理解されなかったためだろうか。

「どこドア」マルチプラットフォーム化作戦

愛用のVAIOもどこドアで操作
愛用のVAIOもどこドアで操作
 実は今回の取材には、インタビュー以外に筆者が個人的に鈴木さんにお願いしたいこともあった。それは、ぜひMacintosh版やLinux版など、別のOSで動作する「どこドア」もリリースしてほしいということだ。パソコンを2台並べて使うユーザーの中には、Windowsの隣でMacintoshを利用しているWebデザイナーは少なくないだろうし、数台のWindowsやLinuxを並べて使用しているシステム管理者は、WindowsからLinuxを操作したいと考えているのではないだろうか。筆者の希望は、いずれはこれらのOSすべと双方向で、「どこドア」の全機能が使いたいということ。ただ使用頻度から考えれば、Windows以外のOSはサーバーとしてプログラムを起動し、Windows側から操作できるのでも十分かもしれない。

 この点を鈴木さんに伺ってみたところ、Windowsパソコンを操作できる台数を現在の2台から増やしてほしいという要望はとても多いとのこと。鈴木さんが「どこドア」の切り替えを左右2台に制限しているのは、「ディスプレイを並べるのは左右だけだろうから、左右だけ切り替わるようにしている」というユーザーインターフェイス上のこだわりだけで、接続数を増やすことは容易だという。また、SunのワークステーションやLinuxのユーザーからも、「どこドア」を利用したいという要望がきているそうだが、「どこドア」のソースコードはWindowsにかなり依存しているのと、鈴木さん自身はWindows以外のOSを利用していないため、今のところ計画はないらしい。

いっしょにやりませんか!?
いっしょにやりませんか!?
 それでも強く要望したが、Windows以外のOSとなると一から開発環境をそろえなくてはならないため、簡単に“はい”とは答えられないようだ。ただ「誰か一緒にやってくれる人がいればいいんだけど」と、協力者がいればマルチプラットフォーム化には取り組んでみたい様子。というわけでここで、「Team Quickware」公認で「どこドア」マルチプラットフォーム化作戦の協力者を大募集します。応募資格は、Windows以外のOSでソフト開発の経験がある人で、そのOSに「どこドア」を移植してみたい人!一緒にTeam Quickwareのメンバーとして「どこドア」を開発してみませんか。興味のあるの方は鈴木さんに直接メールで連絡してください。

 というわけで、共同開発者が登場すれば「どこドア」のマルチプラットフォーム化が実現し、他OS版が登場することになる。チームワークがうまくいけば、ひょっとすると複数OSで動作する新たなソフトがほかにも登場するかもしれない。今年は新生Team Quickwareの動向に注目したいところだ。

□Team Quickware Home
http://member.nifty.ne.jp/ritmo/quickware.htm
□窓の杜 - どこドア
http://www.forest.impress.co.jp/library/dokodoor.html
□窓の杜 - LANクリップボード
http://www.forest.impress.co.jp/library/lanclip.html

(小山 文彦)

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