【第4回】

元祖“オンライン”ソフトの活躍
~オンラインで使うソフトたち~

(01/02/05)

“オンラインソフト”のもう一つの意味

 オンラインソフトというと、フリーソフトやシェアウェアのようにオンラインでダウンロードして入手するソフトのことを指すのが今は一般的だ。しかし“オンラインソフト”という言葉には、もう一つの意味があるのをご存じだろうか。Windowsが登場するよりずっと前の時代、「オンラインソフト」とは常にネットワークにつながった状態(=オンライン)でデータ処理などを行うソフトのことを指していた。今でも銀行のATMソフトや、駅窓口で指定席を発券するソフトなどは、フリーソフトでもシェアウェアでもないが「オンラインソフト」と呼ばれ、主に業務で使われるものが多い。いわば元祖“オンライン”ソフトだ。

 しかしインターネットの普及によって、こういった元祖“オンライン”ソフトが現在のいわゆるオンラインソフトにもかなり増え、身近なものになってきている。さらにブロードバンド時代の到来により、その形態も少しずつ変わってきているようだ。そこで今回のよもやま話では、ぼくが最近注目している面白い元祖“オンライン”ソフトをいくつか紹介しながら、その可能性と将来予想を書き綴ろうと思う。

オンライン株式投資に見るWebの限界

時々刻々と株価データを更新する「マーケットスピード」v2.1
時々刻々と株価データを更新する
「マーケットスピード」v2.1
 ところで、ぼくは数ヶ月前からインターネットで株式投資を始めている。といっても、低額で買える低位株やミニ株が中心で、儲かってもせいぜい数万円程度の小遣い稼ぎでしかないのだが…。しかも日本の株式市場は昨年12月から平均株価が暴落し、ニュースでも大きく取り上げられたのはご存じの人も多いだろう。案の定ぼくも今のところ収支は大きなマイナスになってしまった。しかし今が底だと思えば、これから株を始めるには悪くないかもしれない。

 それはさておき、ネット証券各社のサービスを見比べてみると、その多くがWebベースでの利用になっているようだ。Webブラウザーで自分の取引店舗番号や口座番号、暗証番号を入力してログインし、Webページ上に表示される株価情報を見ながら銘柄を決めて売買を行う。多くのネット証券では昨年12月から(一部は昨年9月から)“Quick”と呼ばれるシステムによってリアルタイムの株価情報と上下3本ずつの売買気配値を表示できるようになったこともあり、ますますきめ細かい株式投資が可能となっている。

 しかしその一方、株取引をWebベースではなく、専用ソフトを使ってできるようにしている証券会社もある。DLJ direct SFG証券(株)の取引専用ソフト「マーケットスピード」は、株価情報の収集や解析、市況ニュース閲覧、売買注文、資産管理など、株取引に関するさまざまなオンライン処理をこのソフト1本でトータルに行うことができる。同社に口座を持つ顧客には基本的にフリーソフトとして公開されており、口座を持たない人でもダウンロード試用は可能だ。株取引というオンライン処理を行うフリーソフトだから、まさに“オンラインソフトのオンラインソフト”ということになるだろう。株式関係のWebBBSなどを読むと、「マーケットスピード」は個人投資家の間でも非常に高い評価を受けているようだ。

テクニカルチャートも簡単に見られる
テクニカルチャートも簡単に見られる
 このソフトを使うことがWebベースの売買とどこが違うかといえば、最も大きいのはデータの自動更新と解析機能の2点ではないだろうか。このソフトでは、クリック不要で登録銘柄の株価データが時々刻々と更新される。Webベースの株取引ではデータの更新に[更新]ボタンをクリックしなければならず、値動きの激しい銘柄では5~10秒に1回のペースで[更新]ボタンをクリックし続けるハメになることもある。しかし「マーケットスピード」なら、放っておいても勝手に株価情報がどんどん更新されていくのだ。また、テクニカルと呼ばれる複雑な株価チャート解析も、ユーザーが別の表計算ソフトなどにデータ入力することなく、誰でも簡単に行えるようになっている。

 こういった特長は「マーケットスピード」がアプリケーションソフトという形をとっているからこそ実現できた機能と言えないだろうか。もちろん、例えばJava技術を使うことで、Webベースでも同様の機能をある程度実現することができなくはない。しかし、「マーケットスピード」がプログラム本体と同梱DLLで約10メガバイトものファイルサイズであることを考えると、プログラムをその都度ダウンロードするJava技術では、たとえ今後xDSLや光ファイバーなどによるブロードバンド時代がやってきたとしても、かなり無理があるように思える。便利さを追求して多機能化すればするほど、一般にプログラムのファイルサイズは増えていくものだからだ。

iアプリに見るJavaの限界?

 Javaで思い出すのが、先月から始まったNTT DoCoMo“iモード”の新サービス“iアプリ”だ。iアプリは、ダウンロードしたJavaプログラムを(機種にもよるが)最低3本以上保存することができるという。一度ダウンロードして保存すれば、使うたびにダウンロードする必要はない。これは現在のiモードが9,600bpsという低速な回線スピードであるための、一種の苦肉の策なのだろうが、逆に言えばJavaが“オンデマンドでプログラムをその都度配信する”という本来の威力を、低速のネット環境では発揮しづらいことの証明になるだろう。

 iアプリの規格には、同じく低速環境ゆえにJavaプログラムサイズの制限があり、プログラマーたちの頭を悩ませていると聞く。ならば、Windowsのインターネット環境においても、Webベースでオンライン処理の高機能化を図るためにJava化を行えば、回線速度に相応したプログラムサイズでなければならないという事実上の制限、つまりiアプリ同様の問題が発生するのも自明の理ではないだろうか。

オンラインバンキングのバックボタン問題

 一方で、セキュリティの問題もWebベースではやっかいなことの1つにある。いや、インターネットをデータ通信の手段として利用する限り、それがWebベースだろうがアプリケーションベースだろうが、セキュリティ上の問題は同じという意見もあるだろう。けれどぼくは、ユーザーの視点で使い勝手における問題点をここでは考えてみたい。

[戻る]ボタンで前画面に戻れる七十七銀行のオンラインバンキング
[戻る]ボタンで前画面に戻れる
七十七銀行のオンラインバンキング
 オンラインバンキングやショッピングなどを利用したことのある人なら、誰でも一度は経験したことがないだろうか。前のページに戻ろうとしてついWebブラウザーのバックボタンを押してしまい、「もう一度ログインし直してください」といったメッセージが表示されてびっくりしてしまうことだ。セキュリティページには最初から「Webブラウザーのバックボタンは押さないでください」と注意書きしてあるサイトもある。SSLを使ったセキュリティサイトでは、基本的にバックボタンが使えない。これはSSLの性質上しかたないことなのだが、いわばWebブラウザーがセキュリティページ専用のソフトではないために、普段は便利に使えるはずのバックボタンというユーザーインターフェイスに制限がかかってしまう。一見些細なことのようだが、初心者ユーザーへの配慮という意味ではかなり“いただけない”機能制限だろう。

 一方、オンラインバンキングの中には、無料配布しているオンラインバンキング専用ソフトを使ってオンライン処理を行うシステムを採用している銀行もある。実はぼく個人が利用しているメインバンク(七十七銀行)でも、オンラインバンキングのメニュー選択はWebで行うが、オンラインでのバンキング処理そのものはアプリケーションベースになっている。この場合、ソフト自体が専用に作られているため、途中で[戻る]ボタンを押してもエラーになるようなことはない。

 つまり、オンラインサービスをなにもかもWebベースで統一しようとすれば、それがかえってプログラム開発における自由度を失うことになったり、ユーザーの混乱を招いたりすることになる場合もあるのだ。そこに、元祖“オンライン”ソフトがオンライン処理であえて単独のアプリケーションソフトウェアという形をとる意義が生まれてくる。

これからの元祖“オンライン”ソフト

 このように考えてくると、本格的なブロードバンド時代を迎えるまでの少なくとも今後数年間においては、一個の独立したアプリケーションという形でハードディスクにダウンロードして利用するオンラインソフトという形態が、特にオンライン処理の分野で注目もしくは見直されてくるんじゃないかとぼくは思っている。

 ネット証券にオンラインバンキングにオンラインショッピング。今やインターネットを使ったオンラインサービスは百花繚乱と言っていいほど乱立し、激しく競合している状態だ。これらが自然淘汰へと向かうなかで、少しでも利用者数を確保し、たくましく生き残っていくためには、手数料を下げるといった直接的な利用者サービスだけではなく、さまざまな面で差別化を図っていく必要があるだろう。そのためには、今まで主に業務用だった元祖“オンライン”ソフトのオンラインソフト化、すなわちオンライン処理を行うオンラインソフトを企業が率先して顧客向けに開発・提供していくというのも、一つの戦略になるのではないだろうか。

 といったところで、今回のよもやま話は終わりにしよう。


【ソフト名】マーケットスピード
【著作権者】DLG direct SFG証券(株)
【ソフト種別】フリーソフト(口座開設が必要)【バージョン】2.1

□DLJ direct
http://www.dljdirect-sfg.co.jp/


□NTT DoCoMo Net
http://www.nttdocomo.co.jp/

□<七十七>インターネットバンキング
http://www.77bank.co.jp/inb/index.html

(ひぐち たかし)


お詫びと訂正:記事掲載時に、 DLSという記述が文中にございましたが、 xDSL の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
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