【第5回】

オンラインソフトの温故知新(前編)
~失われゆくものを求めて~

(01/02/19)

“いつの間にか見なくなったソフトたち

 昔を懐かしむのは年とった証拠と言われるが、世間でも例えばビートルズのベスト盤が大ヒットし、太ベルトや厚底靴のように懐かしい'70年代風のファッションが街をかっ歩しているご時世だ。“時代は繰り返す”とはいえ、こうしたリバイバル現象は懐古趣味というよりも、行き詰まりを打破するために時代が必要とするステップの一つなのだろうかと思ったりする。

 そんなことを考えているとオンラインソフトの世界にも、そういえばいつのまにか流行らなくなったソフトや、使われなくなったユーザーインターフェイス(UI)などが多々あることに気がつく。消えゆこうとしているからには当然それ相応の理由があるのだが、その中にはもう一度見直されてもいいんじゃないかと思えるものや、現に見直されて再び火が付き始めているものもあるようだ。今回のよもやま話は、そんなオンラインソフトの“温故知新”を求めて、あれこれと書いてみたい。

“より便利なソフト”を求めて

Windows 98のWindowsフォルダ内にもある「ファイルマネージャ」
Windows 98のWindows
フォルダ内にもある
「ファイルマネージャ」
 流行が変わる理由にはさまざまあるが、オンラインソフトの場合、その最たる理由は“より便利なものの登場”だろう。より使いやすいもの、よりわかりやすいものが注目されて脚光を浴びると、旧態依然としたソフトやUIは急速に魅力が褪せてしまう。

 そもそもにおいて、WindowsのOS自身が“より便利なOS”を求めて現れたものだと言える。WindowsはMS-DOSやUNIXに代表されるコマンド入力中心のCUIから、グラフィカルなアイコンやボタンをマウスで操作するというGUIへ変わるものとして、Mac OSに続いて登場したOSだった。MS-DOSと互換性を保つことでMS-DOS用のソフトが動くとはいえ、Windows上ではコマンド(命令文)となる文字列をキー入力するCUIタイプのオンラインソフトは少数派になり、マウスで操作するGUIタイプのソフトが急速に広まっていった。

 しかし急激なUIの変化には拒絶反応も起こる。例えばWindows 3.xではファイル管理に「ファイルマネージャ」というGUIのファイラーが標準でついていたが、MS-DOSから移行してきた多くのヘビーユーザーはマウス操作に慣れず、DOSプロンプトを開いて直接MS-DOSのコマンドを叩いたり、MS-DOS上で当時定番だった「FD」というフリーのファイラーソフトを使っていた人が多かったようだ。「FD」はファンクションキーをはじめとするキー操作だけでファイル管理のすべてを行えるのが特長のファイラーだ。やがてOSがWindows 95やWindows 98になって標準ファイラーが「エクスプローラ」になっても、「WinFD」のように「FD」そっくりの外観と操作性をもつファイラーが一部のユーザーから熱い支持を得たのは“新しいものよりも手に馴染んだもののほうが使いやすい”という理由からだろう。

FD風のファイラーソフト「WinFD」
FD風のファイラーソフト
「WinFD」
 とはいえ、パソコンを新しく始める人にとっては、今まで“手に馴染んだもの”がないのだから最初からOSに標準でついているファイラーを使うことになる。やがてエクスプローラ対応の支援ソフトやエクスプローラ風の外観・操作性をもつ便利なソフトが増え、周囲にもエクスプローラを使う人が多くなり、ぼくもいつしかエクスプローラをファイラーとして使うようになっていた。もちろん今でも“FD風”のファイラーを愛用している人はいるだろうし、ここでそれを良いとか悪いとか言うつもりは毛頭ない。FD風ファイラーの代表格である「WinFD」の開発は現在も続いていて、作者にはある種の敬意すら覚える。しかし、今や「FD」の名前すら知らない世代が圧倒的多数になっていることも事実なのだ。FD風のファイラーは確かに一時代を築いたが、今ではあの頃ほどの人気ぶりはなく、FD風という表現自体が“過去のもの”になってしまったと言っても過言ではないと思う。

 こうして最初は突然の大きな変化に拒否反応を示したユーザーたちも、時間が経つにつれて、より便利で新しいものを受け入れ、古いものはどんどん過去の記憶の中へ置いていくことになる。

パソコン事情が変わって利用価値が薄れる

 一方、どんなに便利であってもPCのハードウェア環境やソフトウェア環境が変わったために利用価値があまりなくなってしまい、使われなくなったり忘れられていったソフトもある。

 たとえば、RAMディスクを作成するオンラインソフトがこれに含まれるだろう。RAMの一部をハードディスクのようにファイル保存スペースとして使えるようにするというソフトなのだが、RAMの読み書きにはモーターを動かすといった物理的な動作を伴わないためHDDの読み書きよりも速く、MS-DOSやWindows 3.1の時代にはこの手のオンラインソフトが大流行したものだった。しかしその後、Windowsの速度向上には少しでも多くのプロテクトメモリーが必要になったことや、ハードディスクのアクセス速度が格段に向上したこと、RAMディスクに入りきらない巨大ファイルを扱うことが多くなったことなど、RAMディスクを使うメリットがなくなってしまったため、RAMディスクを作成するソフトはどんどん使われなくなっていった。

フロッピーやMOのサイズにファイルを分割「Jydivide ファイル分割」
フロッピーやMOのサイズに
ファイルを分割
「Jydivide ファイル分割」
 また、ファイル分割系のソフトも環境変化により使用の機会が減ったソフトと言えるだろう。フロッピーディスクのようにディスク容量の小さい外部メディアに対し、圧縮しても収まり切らないような巨大ファイルを分割して保存するソフトは、容量が100メガバイトくらいのハードディスクが主流だった時代にはよく使われたものだ。しかしその後、CD-Rをはじめとする安価で大容量の外部メディアが普及し、ハードディスクの大容量化に比べてフロッピーディスクの容量がもはや小さすぎてファイルのバックアップ保存用にはほとんど使われなくなくなったことなどが、ファイル分割ソフトの活躍の場を狭めてしまった。もちろん、MOやCD-Rのような大容量での分割に対応した「Jydevide ファイル分割」などのファイル分割ソフトは今でも使われているようだが、今後ブロードバンド時代の到来によりファイル交換が高速ネットワークを介して行われることが当り前になってくれば、ますますファイル分割ソフトの出番は少なくなることだろう。

老兵は死せず ただ消えゆくのみ?

 一時代を築いたソフトが次第に世間から忘れられていく理由には、このほかにもさまざまなものがある。しかしそうして消えゆこうとするソフトたちは、本当にもうその役目を終えてしまったのだろうか? より便利で新しいUIをもち、パソコン環境に見あう性能をもつソフトだけが結果的に残り、“優れたソフト”と称されていくのだろうか? 古いソフトに利用価値はないのか? いや、結論から言ってしまえば答えはもちろん「NO」だ。

 新しいOSの操作性が100%完璧なUIであるとは言えないなら、新しいOSと同じ操作性をもつソフトが必ずしも使いやすいソフトではない。パソコン環境の変化によって使われなくなるソフトがあるように、パソコン環境の変化によって再び見直されるソフトもある。忘れられていったオンラインソフトたちが、音楽やファッションのように再び陽の目を見る可能性は、ちゃんと残っているのだ。

 次回のよもやま話では、そういったオンラインソフトの“リバイバル”の可能性について、あれこれ考えてみたいと思う。といったところで今回はこの辺で。


【ソフト名】WinFD
【著作権者】高橋 直人 氏
【ソフト種別】シェアウェア 1,500円
【バージョン】1.05b 正式版(99/07/21)

□WinFD Home Page
http://www.starseed.ne.jp/winfd/


【ソフト名】Jydevide ファイル分割
【著作権者】J-Y 氏
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】3.09(00/06/26)

□窓の杜 - Jydivide ファイル分割
http://www.forest.impress.co.jp/library/jydivide.html

(ひぐち たかし)

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