【第6回】
オンラインソフトの温故知新(後編)
~再び求められるソフトたち~
(01/02/26)
前回のよもやま話では、いつの間にか流行らなくなったり見かけなくなったオンラインソフトをいくつかあげ、その主な原因が利便性の追求やパソコン環境の変化にあることなどを考えてみた。今回はさらに視点を変え、そのほかどんな事情でオンラインソフトの人気がうつろっていくのか、そして古き良きソフトを見直す“温故知新”の意義について、あれこれと思い返しながら書いてみたい。
“早すぎた”ソフト
さて、時代遅れになって世間から忘れられていったソフトとは逆に、その登場が早すぎた… いわば時代を先取りしすぎたために、かえって使われなくなってしまったソフトというものもある。
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“アクティブチャンネル”は プッシュ型配信 |
たとえば、いわゆるプッシュ型のソフトがこれにあたるだろう。「ポイントキャストネットワーク」やIEの“アクティブチャンネル”がかつて大きな期待をもって世間の注目を浴びた時期があったが、それから1年ほどであっという間に利用者は激減し、実際ぼくの周囲でも誰一人使わなくなってしまっている。プッシュ型ソフトが失敗した原因はいろいろと言われているが、やはり最も大きいのは“時期尚早”だったことではないだろうか。
こういったプッシュ型ソフトが最初に注目された時期は、日本ではまだインターネット接続の主流がアナログ回線のダイヤルアップだった1997年だ。コンテンツが定期的に自動配信されるというプッシュ型のソフトは、56KbpsモデムやISDNがようやく広まり始めた時代背景において、ユーザーにはとうてい受け入れられなかった。また、新型パソコンの搭載メモリが32メガバイト程度と少なかった頃でもあり、プッシュ型ソフトの常駐によるメモリ消費やメモリ不足のために、Windowsがメモリスワップで遅くなったり不安定になることを嫌うユーザーが多かったのも、人気がなくなった理由の一つにあるようだ。
OSが機能を取り込む
ちょっと変わった例では、Windows OS自身が類似の機能を取り込んでしまったためにアプリケーションソフトとしては魅力がなくなり、あまり見かけなくなった類のソフトもあるだろう。
たとえばファイル復活系のソフトやディスク圧縮ソフト、デフラグ系のソフトだ。ハードディスクから消去してしまったファイルを復活させる機能をもったオンラインソフトはMS-DOS時代から多数あったものだが、やがてMS-DOSが「UNDELETE」というファイル復活のコマンドを標準でサポートするようになり、さらにWindowsになって「ごみ箱」がデスクトップに登場したため、ファイル復活系のソフトは激減してしまった。Windowsの標準操作としてファイルの削除が一旦ごみ箱を介してから行われるようになり、ユーザーの“うっかり”による削除が防止されるようになったからだ。
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ディスク圧縮するドライブスペースは Windows OSに標準装備された |
ディスク圧縮ソフトも、かつてはオンラインソフトからパッケージソフトまでいろいろなものがあったが、Windowsが「ドライブスペース」を標準サポートしてしまったために、みるみるうちに姿を消していった。デフラグについてもしかり。さらに言えばビデオ会議ソフトも、「ネットミーティング」が登場したおかげでオンラインソフトやパッケージソフトとして開発されることがほとんどなくなってしまったように思われる。
作者の個人的都合
そのほか個別ソフトのレベルで言えば、作者が何らかの個人的理由により開発を中断してしまい、やがて忘れられていったソフトもある。学生だった作者が就職するとともに多忙になって開発の時間がとれなくなったり、Windowsユーザーだった作者がMacやUNIXなど他のOSに乗り換えたためにWindows上での開発をやめてしまったり、ぼくの知る例では作者が急病にかかりそのまま帰らぬ人になってしまったという悲しいケースもある。
こういったソフトでも、ソースコードが公開されているフリーソフトの場合は本人(もしくは遺族)の希望で、有志によって開発を引き継がれることはある。しかし、多くはソフトだけがネット上の転載先でそのまま放置されて忘れられていったり、類似の機能をもつソフトが登場して元祖のほうは使われなくなっていく。もったいないと言っては語弊がありそうだが、それもまた現実なのだ。
技術の進歩で風向きが変わる?
パソコンの世界は日進月歩で技術が進んでいくため、ソフトは開発が止まるとどんどん使えなくなっていく傾向にある。OSがバージョンアップするたびに、それにあわせてアプリケーションソフトも新しいOSに最適化されたものが登場し、昔流行したソフトが再び注目されるチャンスは少なくなる。Windows 98の上でWindows 3.1時代の16ビットソフトを使ってみれば、実際まったく動かなかったり、さまざまな使いにくさが目立つことも多い。しかし、かつて流行した頃とはパソコン事情が変わり、いわば“風向きが変わった”ために、今になって欠点が克服されたり見直す価値が出てくるソフトもあるはずだ。
例えば先にあげたプッシュ型ソフトの場合なら、まさにこれから迎える常時接続とブロードバンド環境の普及によって、見直されることは確実と言っていいだろう。現にiモードのような非パソコン環境でも、天気予報データをインターネットから定期的に取り込んでお知らせするiアプリが話題になっており、プッシュ型は今後も注目されてしかるべき技術と言える。ポイントキャストやアクティブチャンネルがかつてとまったく同じままで再ブレイクするかどうかはともかく、同じコンセプトの新しいソフトはこれからも登場してくるように思う。
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1通のメールを1つのファイル で保存する「AL-Mail32」 |
ほかにも、標準的なハードウェア環境がかわって短所が軽減されるソフトもある。たとえばぼくが使っている「AL-Mail32」というメールソフトは、1つのメールを1ファイルに保存するという方式が採られているため、かつてヘビーユーザーの間では酷評されていたことがある。これはハードディスクのクラスターサイズの関係で、使用するディスク容量に無駄が多くなってしまうためだ。しかし、今や大容量ハードディスクとFAT32システムの普及により、この無駄は相対的に軽減されている。たとえ1通平均2キロバイトのメール1万通をため込んで、合計で20メガバイトあるところが10倍の200メガバイトほど無駄になっていても、ディスクの空き容量が20ギガバイトくらいあれば、もうほとんど気にならないわけだ。
同様に、以前は処理の重かったソフトがCPUの高速化によってサクサク動くようになっていたり、メモリ消費量が大きくて敬遠されていたソフトがRAMの大容量化によって何ら問題がなくなるといったことは、たくさんあるんじゃないかと思う。
古き良きソフトの魅力
窓の杜のオンラインソフトニュースを毎日見ていると、新しいソフトやバージョンアップしたソフトにばかり、ついつい目が行きがちになる。けれど、若いソフトはさまざまなユーザー環境で使い込まれていない分だけ、一般に新たな不具合も見つかりやすいというリスクがある。一方、バージョン番号が大きく最終更新日の古い、いわば良い意味で“枯れた”といわれるソフトには、新しいソフトほどの新鮮味や面白味は少ないかもしれないが、不具合も出尽くしていて安心して使えるというメリットがある。そういった“枯れた”ソフトはもちろん、かつては一世を風靡したのに今や忘れ去られているようなソフトも、再び探し出して使ってみれば意外に今でも、いや、今だからこそ使えるソフトになっている可能性はあるかもしれない。
また、猫も杓子も似たり寄ったりの操作性では、個性がなく面白味がないということもある。流行に逆らってみるのも発想転換法の一つだろう。最近のソフトにはなんとなく物足りなさを感じている人や、これからソフトを作ろうという人でアイデアに煮詰まっているような人は、視点を変えて昔使ったソフトを引っ張り出して使ってみるといいだろう。もちろんそっくりモノマネをしろと言ってるわけではないが、ユーザーインターフェイスや画面デザインなどに思いがけない発見やヒントになるものがあるかもしれないのだから。
といったところで、今回のよもやま話は終わりにしよう。
(ひぐち たかし)