【第7回】

オンラインソフトコミュニティ
~ソフト作者との交流という楽しみ~

(01/03/05)

探すだけが能じゃない

 数多くのオンラインソフトが公開されるようになった昨今、面白そうなソフトを次から次へとダウンロードし、より便利で使いやすいものを探せるというのは、ユーザーにとって幸せなことだ。例えばランチャーソフトというジャンルひとつをとっても、窓の杜の厳選ライブラリだけで現在11ソフト、インターネットで入手できる日本語ランチャーは実に600を超えている。選択肢が増えるのは自分に合うソフトを選びやすくなったということだが、逆に言えば最適なものを選ぶのに一苦労ということでもある。

 しかし選択肢が多いからといって、ちょっと使ってみて何か気に入らない部分があると、そのソフトを捨ててすぐ別のソフトを試してみてはいないだろうか。それではオンラインソフトの魅力の半分も味わっていないことになる。オンラインソフトが市販パッケージソフトと最も違う点は、自分の感じた要望や改良点を作者に伝えることで、それを簡単にかなえられる場合があるということだ。さらにメールやBBSで作者と、またはユーザー同士で意見を交換しあうことで、人の輪が生まれるという楽しみもある。今回のよもやま話は、そんなオンラインソフトならではの醍醐味について、あれこれと書き綴ってみようと思う。

1通のメールからはじまる

“作者に感想や不具合報告のメールを送ろう
作者に感想や不具合報告
のメールを送ろう
 最近こんなことがあった。とあるシェアウェアのソフトを使ってみて非常に気に入ったものの、『こんな使い方もあるんじゃないか?』というアイデアがひらめいたのだ。今の機能のままではちょっと無理だが、原理は同じなので実現は難しくなさそうに思える。しかし本来の用途とは違ってくるため、作者がどう思うかはわからない。さらに自分はまだ送金すらしていないお試しユーザーだ。ちょっと躊躇しながらも作者にメールをしてみると、「大変面白い、考えてみます」という返事をもらい、わずか3日後にはその機能を搭載した新バージョンが公開されたのだった。

 あのときぼくがメールをためらっていれば、そのソフトは今とはまったく別のソフトになっていたかもしれない。もちろんぼくがメールしなくても誰かが、もしくは作者自身が同じアイデアを考えて、いずれ実現されていた可能性はあるだろう。けれど、自分の意見を採用してもらえるというのは、何度経験しても感激するものだ。ちなみにあのときのメールは「ひぐち たかし」ではなくいつも使っている別のハンドル名とプライベート用のメールアドレスで送っていたことを付け加えておく。ぼくが窓の杜に記事を書いていることを作者が知っていて特別扱いしてくれたわけではない。

ソフト開発に携わるユーザーの輪

 オンラインソフトの中には、正式公開前の最新バージョンを特定のユーザーにテストしてもらい、作者と密に連絡を取り合って不具合やバグ出しを行うというシステムを採っているものがある。こういったユーザーのことを“βテスター”などと呼び、個人ベースで開発をしているオンラインソフトでは、主に開発初期から熱心にメールをくれるユーザーや、作者の近しい友人などで構成されることが多い。公開前の最新版を試せるというだけでなく、自分の意見を反映してもらいやすいとか、より近いところで作者の人柄に触れることができるなど、βテスターの楽しみは大きい。

 ぼくもかつて、いくつかのソフトのβテスターになっていたことがある。βテスターはできる限り多様な環境での動作チェックと素早い報告が必要なので、時間に余裕のあった学生の頃にやっていたのだが、βテスター専用のメーリングリストに参加していろんな情報を交換しながら、とてもアットホームな雰囲気で開発のお手伝いをさせていただいた。作者とはお互いに顔も知らないネット上だけのやりとりだったが、あるとき初めて東京でβテスターと作者が集まっていわゆる“オフ会”が開かれたときは、参加してとても楽しい時間を過ごすことができ、感激したものだ。オンラインソフトが人と人との交流の中で育まれるのだということを強く実感する経験だった。

 もちろんβテスターにならなくとも、ユーザー同士が交流する機会は作者が運営しているサポートBBSや、オンラインソフトについての一般のBBSなどさまざまにある。またちょっと変わったところでは、チャット仲間からオンラインソフトの共同開発に発展したという話も聞いている。オンラインソフトを介した“コミュニティ”の形成には、ソフトをただダウンロードして使っているだけでは味わえない大きな喜びがあるのだ。

作者としてユーザーの意見を聞く喜び

 さらにぼくの話で恐縮だが、まだ窓の杜ができるずっと以前、Windowsのバージョンが3.1で、インターネットよりもパソコン通信が主流だった時代のこと。ある草の根パソコン通信ネットでぼくは、そのネット専用のオートパイロットソフトをフリーソフトとして公開していたことがある。そのネットのアクセスポイントが東京にしかなく、地方に住んでいたぼくは電話料金を減らすため必要に迫られて自作したのだが、メールや掲示板の読み出しとカキコミをオフラインで予約したり、メンバーの検索機能やログビューワー機能、ファイルの予約アップロード・ダウンロード機能をつけるなど、手前味噌ながらそこそこ凝ったものを作って公開していたものだった。

 フリーソフトとして公開すると、使ってみたという人から次第にたくさんのメールをもらうようになる。そのメールの読み書きやソフトの頻繁な改良とアップロードのために以前より余計に電話料金がかかるようになったのは苦笑ものだが、それでも多くのユーザーとメールのやりとりをするのが楽しく、また難しい要望にも苦労しながら改良を重ね、ユーザーからの反応がダイレクトに届くことが、さらに次のバージョンアップへの糧(かて)となっていた。そのソフトは最終的には開発を終了し、今はあのパソコン通信ネットがまだ存在するのかどうかさえ知らないぼくだが、はじめてオンラインソフト作者として経験した喜びは10年近く経った現在でも忘れられずにいる。

 おそらくほとんどのオンラインソフト作者も、より多くの人に使ってもらってユーザーからの反応を感じることで、ソフト開発の喜びを味わっているのではないだろうか。もちろんオンラインソフトの作者にはさまざまな人がいるだろうし、純粋に商売や事業としてシェアウェアを公開している人もいるだろう。それでもユーザーとの交流があるからこそオンラインソフトを公開しているという作者のほうが圧倒的に多いはずだ。

マナーに気をつけよう

メールする前にヘルプ等の記述を確認しよう
メールする前にヘルプ等
の記述を確認しよう
 ただ、先に触れたようにオンラインソフト作者にもいろんな考え方の人がおり、作者によってはのっぴきならない事情でメールを受けられない場合など、必ずしもユーザーからのメールを歓迎していないこともあるのは事実だ。いくらヘルプに書いてあっても、それを読まずに初歩的な質問や、ソフトには関係ないWindowsの操作について質問を送ってくるユーザーにウンザリしている作者もいるかもしれない。ソフト作者に感想や要望などのメールを送る場合は、最低限、同梱されているREADMEやヘルプファイルなどの説明書を読んで、作者がサポートをどこで受け付けているのか、また質問ならそういった説明書に“既知の不具合”や“FAQ”などとして書かれていないかどうか、確認するのがユーザーとしてのマナーであることを忘れてはならない。Windowsに関する質問なら、Windowsの入門書を読んで自分で調べるなり、購入したパソコンショップやマイクロソフトのサポート窓口に聞くのが筋というものだ。

 逆にソフト作者の人にも、ユーザーが戸惑わないようなサポート体制をここで改めてお願いしたい。同じ質問メールが何度も何度も来るのは困るからとか、サポートは保証できないからといって、連絡先を記載しなかったりサポートは一切しないと宣言してしまうといった“門前払い”の姿勢では前向きとは言えない。ユーザー同士で意見交換できるようなBBSを用意するとか、FAQ集を同梱しておくとか、わかりやすいヘルプ作成を心がけるといった簡単なことでいいのだ。マナーのなっていないユーザーからのメールに怒る前に、そういうメールがなぜ来てしまうのかを考え、来ないようにするには何が必要かという一種の“お膳立て”を作者側で用意することも、オンラインソフトを公開していく上で必要な知恵であり、配慮だろう。

ネット時代だからこそ大切にしたいもの

 フリーソフトやシェアウェアといった特有の配布形態のために、オンラインソフトの世界では作者とユーザーの責任や立場についてあれこれと問題になることがある。ぼく自身、「GNUの精神とは…」などと周囲の友達と熱く語った時代もある。けれど、長くオンラインソフトに親しんできた今になって思うのは、オンラインソフトが人と人との交流の産物であることを忘れなければ、トラブルを回避することはたやすいということだ。目の前に誰かが我を忘れて怒鳴り込んできても、なだめる方法はいくらでもある。同じようにオンラインソフトの世界でも、責任とか権利とか裁判とかを持ち出す以前に、人としてトラブルを予防する方法がいくらでもあるのだ。その意味でも今のネット時代に、オンラインソフトをめぐる“人と人の交流”は、いっそう大事にしていく必要があるだろう。

 といったところで、今回のよもやま話は終わりにしよう。

(ひぐち たかし)

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