【第8回】
自動入力がウリの懸賞応募ソフト「aiBAR2000」の作者、みいさん
(01/05/29)
オンラインソフトを使っていて、「なぜこのソフトが産み出されたのだろうか?」という思いをもったことはないだろうか。オンラインソフトには、作者のアイデアや思いやり、使命感などが詰まっている。普段何気なく使っているオンラインソフトの誕生ストーリーを知ると、ますます愛着がわくかもしれない。ということでこの連載では、ソフトを制作した作者自身に会って、ソフト誕生の内幕にスポットライトを当ててみたい。第8回目は、自動入力がウリの懸賞応募ソフト「aiBAR2000」の作者、みいさんを訪問した。
富士山を望む山中湖のほとりで
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みいさん |
「aiBAR2000」の作者、みいさんが住んでいるは富士山のふもと・山梨県の山中湖村。湖のほとりから大きな富士山を望む、とても穏やかで景色のよい場所だ。横浜国立大学工学部の電子情報工学科を卒業したみいさんは、就職の関係で故郷の神奈川県を離れこの地に引っ越してきた。“みいさん”というハンドルネームの由来は、結婚するときに奥さんが呼んでいたニックネームをそのまま使っているそうだ。現在はお子さんがいるため、家庭内での呼び名はすっかり“パパ”に変わったそうだが、何となく“みいさん”という名前の柔らかさに、家庭の暖かさが表れているような気がする。
インターネット懸賞応募ソフト「aiBAR2000」
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aiBAR2000 |
みいさんが公開している「aiBAR2000」は、インターネット懸賞の応募を支援するソフト。IE専用で、インターネット懸賞の応募ページを開いた瞬間に、名前や住所などの個人情報を入力フォームに自動的に入力してくれる。あらかじめソフトに自分の住所や氏名、生年月日、職業といった情報を入力しておけば、応募ページを開いた瞬間に個人情報が入力されるようになっているため、あとは感想などの自由記入欄を書き込んで、送信ボタンをクリックするだけで応募が完了する。
応募ページで、住所や年齢の入力欄が選択式になっていることがよくあるが、「aiBAR2000」を使うと、都道府県の欄がプルダウンメニューになっている場合でも自動的に選択してくれるし、年齢欄が20代や30代といった年齢層で選択するような場合でも、的確に選んでくれる。初心者に操作がわかりやすいよう、起動するとタスクバーのようなウィンドウが画面上端に常駐する。複数人の情報を登録することが可能で、登録した人数分のボタンがバー上に表示され、ボタンをクリックするだけで入力フォーム内の情報を入れなおすことができる。家族全員の情報を登録して全員分の応募をすることもカンタンだ。
自作ソフトを初めて公開!
みいさんはいわゆるパソコン少年だったそうで、中学生の頃からプログラミングに親しんでいた。ただし、「aiBAR2000」を制作する以前は、自作ソフトを広く配布しようと思ったことはないそうだ。それがたまたま一昨年の秋に、公開を目指して何かソフトを作ってみようという気持ちになったという。その時点では、株を扱う個人投資家向けのソフトを作ろうと考えていたそうだが、ある雑誌で著名な懸賞情報サイト「Chance It!」の運営者へのインタビュー記事を読んだときに、インターネットでの懸賞人気を知り、懸賞関係のソフトを制作しようと方針転換した。
方針が決まってからの日々はあっという間だった。すでに同じようなソフトが公開されていないか調べてみたところ、懸賞用と名乗るソフトはあっても、クリップボード経由で入力するソフトばかりで、「aiBAR2000」のように自動入力してくれるソフトはなかったという。昨年の2月に晴れてリリースし、着々とユーザーからの人気を高め、今では10カ所程度の懸賞情報サイトで「aiBAR2000」のカスタマイズ版が配布されているという。筆者が試した限りでは、どのインターネット懸賞の応募ページでも自動入力することができたが、応募ページは運営者ごとに独自に作られているため、まだ一発入力できない応募ページもあるのだという。現在、みいさんの目標は100%の応募ページで「aiBAR2000」からの自動入力を可能にすることだという。
公開後のユーザーからの反響も上々で、寄せられた感想の中には「今まで自分は何をしていたんだろうと思った」というものや、「感動して眠れなかった」など、「aiBAR2000」との出会いを喜ぶものが多い。ただ、画面上端をバーが占有してしまう点については意見が分かれているようだ。熟考を重ねたうえで、初心者ユーザーへのわかりやすさを第一に考え、現在のユーザーインターフェイスに決定したそうだ。実は筆者が「aiBAR2000」に対して一つ要望をあげるとすれば、タスクバー風のスタイルのほかに、タスクトレイのアイコンから利用できるようにしてほしいことだ。
みいさんはソフト開発環境として、マイクロソフトの「Visual Basic」と「Visual C++」を使っている。その中でも「Visual Basic」の生産性の高さはピカイチだと評価しており、こんな便利なツールを使わない手はないと、オンラインソフト制作に積極的に活用している。また、普段使っているオンラインソフトを聞いてみると、そのほとんどはソフト制作を支援するものばかりだった。ヘルプ作成を支援する「ヘルプデザイナー」やインストールプログラムを作成する「Begin Setup!」、FTPクライアントの「FFFTP」、圧縮・解凍ソフト「LHMelt」などの名前が挙がった。
ソフト制作でよかったこと、つらかったこと
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山中湖の遊覧船の前で |
次に、個人でオンラインソフトを制作し、よかったことやつらかったことを聞いてみた。よかったことは、自分自身がプログラマーとして満足できるようになったことで、雑誌等で紹介され、少しずつ自信がわいてきたそうだ。そんなみいさんがソフトを制作する際のこだわりは、「みんなが作っているソフトではなく、今までになかったソフトを作りたい」というもの。そのために、既存のソフトの隙間や、全く外側をねらって作成していくつもりだという。確かに「aiBAR2000」には、みいさんの独創的なアイデアが詰まっていると思う。
逆につらかったところは、ユーザーが増えると反響も増えてうれしい代わりに、Windowsの各バージョンの動作環境を用意する必要が出てきたこと。現在は3台のパソコンを用意して各バージョンの動作チェックを行っているそうだ。しかし、たとえWindowsのバージョンが同じでも、インストールしているソフトが違うなど様々な要因によりWindowsの挙動は変化するため、ユーザーから「動かない」という報告があっても、手元で再現できないことがつらいという。フリーソフトとして公開していながら、決して安くはないパソコンやWindowsの各バージョンを複数用意しなくてはならないのは確かに大変だと思う。
そんな状況を踏まえ、フリーソフト作者を代表してみいさんが一言。「フリーソフトを公開してWindowsを使いやすくしているのだから、マイクロソフト社に作者向けのサポートプログラムを用意してほしい」。確かに、フリーソフト作者は自分の意志でソフトを公開しているとはいえ、金銭的負担も少なくない。もし一定の条件を満たした作者に対し、何らかの組織から開発環境やWindowsの各バージョンを提供してもらえるような仕組みがあれば、フリーソフト制作にも弾みがつくはず。Windowsが好きでフリーソフトを公開しているのだから、今後フリーソフト作者が活動しやすい環境が用意されていくことを筆者も期待したい。
オンラインソフトの多くに共通する点として、作者自身は問題なく使えていても、多くのユーザーが問題なく使えるようになるまで修正するのは時間のかかる仕事。みいさんは平日の帰りが遅いらしく、多くのオンラインソフト作者と同様に休日を使ってプログラミングをすることになる。家庭内での時間はできるだけ“パパ”でいることに気を配っているという。ソフトも完成度が上がるにつれて、読者からの苦情は減ったものの、少ない自由時間でソフト制作をしているため、今度は奥さんに「もっと子供の面倒を見て」と言われてしまうということだ。
次回作も毎日使える便利なソフト
ソフト制作に関して今後の展望を聞いてみたところ、「aiBAR2000」のバージョンアップを続けていくのと同時に、次回作を6月中にリリースする予定とのこと。ソフトの内容についてはまだ明かしてもらえなかったが、取材を行った4月15日時点の完成度は半分くらいで、すでにみいさん自身は毎日使っているとのことだった。どんなソフトか予想はつかないが、“毎日使えておトク”なソフトに間違いないだろう。
これまで一人でソフト制作を続けてきたみいさんに、もし協力者が現れるとしたら、どんな才能をもった人がいいかと尋ねてみた。すると「イラストやWeb作成が苦手だからデザイナーと協力して作っていきたい」とのこと。また将来、自分の制作したソフトを使っている人と、いつかどこかで偶然出会えればうれしいとのことだ。
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まだ雪の残る富士山と山中湖(4/15) |
□aiBAR2000 Support Page
http://www.mfi.or.jp/miisan/
□窓の杜 - aiBAR2000
http://www.forest.impress.co.jp/library/aibar.html
(小山 文彦)