【第15回】

個人で楽しむ動画配信(後編)
~ブロードバンドへの期待と問題~

(01/06/18)

Windows Media Encoderを使ってみる

 前回のよもやま話では、安価なTVチューナー付きのビデオキャプチャーカードを使って、TV番組を予約録画したり、市販のDVカメラで撮影したビデオ動画をMPEGにする話、さらに動画配信に適したファイル形式などについて書いてきた。今回は実際に動画配信を行ってみて感じた利点や応用、問題点などについてあれこれと書いてみようと思う。

「Windows Media Encoder 7.1」
「Windows Media Encoder 7.1」
 「Windows Media Encoder 7.1」での動画エンコードは、用意されているセッションウィザードを使うのが簡単だ。自分が何を行いたいのかを考えながら、対話式に設定を進めていくだけでエンコードの準備ができる。

 ぼくがとりあえずやってみたのは、手持ちのMPEG-1ファイルをWMVファイルに変換してみる方法だ。ウィザードの最初に[オーディオまたはビデオファイルをWindowsMediaファイルに変換する]という選択肢を選んでファイル変換してみたのだが、どうもうまく変換できなかった。「Windows Media Encoder」のサポートページにあるFAQを読むと、MPEG-1からWMVへの変換は対応しているはずだ。しかし、MPEG-1にもいろいろなフォーマットがあるため、ぼくの持っているビデオキャプチャーソフトが作成するMPEG-1形式には対応していないだけなのかもしれない。

 そこで次は接続したデバイスから直接WMVに取り込むほうを試してみた。ビデオデバイスにTVチューナー付きキャプチャーカードを指定し、作成するWindows Mediaファイル名を入力、さらに[Webサーバーからストリーム配信、またはコンピューター上で直接再生する]という選択肢を選んで、さらに使用するプロファイルとしては[Webサーバー用ビデオ(56Kbps)]を設定。題名や作成者名、著作権者名などを入力して[完了]するとセッション設定が終わる。あとはビデオデッキの外部出力とキャプチャーカードの外部入力の接続を確認してからビデオデッキのビデオテープを再生し、同時に「Windows Media Encoder」の[開始]ボタンを押すと、映像のエンコードが始まる。

WMVファイルをホームページにアップロード

 「Windows Media Encoder」を使ってWMVファイルを作成したら、これをWebサーバーにアップロードし、ホームページのHTMLファイルからリンクを張ろう。通常はこのリンクをクリックすると、Windows Media Playerが自動的に起動して動画がストリーム再生される。視聴者側のPCには「Windows Media Player」のバージョン7以降が必要だが、バージョン6でも自動的に再生に必要な最新モジュールがインストールされて再生できるようになるので安心だ。

 ただし、アップロードするWebサーバー側の設定によっては、うまく再生できないこともあるので注意。この場合はプロバイダーのユーザーサポートに問い合わせるか、プロバイダーがFAQを載せているWebページを探してMIME-TYPEの設定を自分で行う必要がある。

ライブ放送は意外にカンタン

 ただ、いくらWMVファイルの圧縮率が高いとはいえ、放送したい動画が長時間になればなるほど、ファイルサイズは巨大になってくる。そんなときはライブ放送という手がある。「Windows Media Encoder」にはライブ放送のための簡易サーバー機能があり、セッションウィザードに従ってライブ放送用のセッションを作成すれば、簡単にライブ放送を楽しめるようになっているのだ。

 セッションウィザードの最初に、一番上の[接続したデバイスまたはコンピュータの画面から、ライブイベントをブロードキャスト配信する]を選択して、あとはウィザードに従って設定するだけ。このときライブイベントの開始時、休憩時、終了時用に好きなビデオファイルを流す設定も可能。ウィザード設定後に[開始]ボタンを押せば、直ちにライブ放送が始まる。この放送を見るには、「Windows Media Player」の[URLを開く]でサーバーPCのIPアドレスの頭に「http://」をつけて入力すればいい。

実際はどうなのか?

 というわけで実際にWMVファイルをアップロードして公開する方法と、ライブ放送で映像を直接公開する方法の両方を試してみたのだが、ぼくがやってみて簡単に感じたのはライブ放送のほうだった。やはりWMVファイルをいちいち作成したりサーバーにアップロードするのは手間も時間もかかる。ライブ放送ならその必要がなく、すぐにでも始められる。ブロードバンドの常時接続環境があって、PCにかかる負荷を気にしなくてすむだけの設備が整っていれば、ライブ放送を試してみることをオススメしたい。

 一方、まだインターネットへの接続環境がISDNやアナログモデムであったり、自前でサーバーを運営するにはPCが非力だとかセキュリティの不安があるといった場合なら、ビデオ動画をWMVファイルとして作成し、ホームページにアップロードするという方法が適している。最近のプロバイダーの中には、低額な月額料金で25メガバイトとか50メガバイトといった大容量のホームページスペースが使えるところもある。そうしたサービスを活用するのも方法の一つだ。

特定少数に向けた放送が実用的

放送中のイメージ
放送中のイメージ
 さて、ブロードバンド環境にして、ビデオ入力端子からの映像をそのままリアルタイムに放送するライブ放送がこんなに簡単にできるとなれば、いろいろな応用が考えられる。例えば、家族旅行で撮影したビデオを遠く離れた実家の両親に見せるとか、同窓会で撮ったビデオを、遠距離で来られなかった同窓生に見せるのもいいだろう。ビデオテープを送る場合は毎回発送の手間や送料もかかるが、ライブ放送ならほとんど手間いらずで、固定料金の常時接続環境なら余計なお金もかからない。あらかじめ放送時間を打ち合わせし、自分たちがビデオデッキでビデオを見るのと一緒に動画配信でもビデオを見てもらいながら電話やチャットをすれば、話もはずむ。

 ただ、ブロードバンド環境になった個人が動画配信を楽しむのは、不特定多数に向けて放送するというよりも、家族や友達など特定少数に向けて放送することのほうが実用的かもしれない。最近注目されているADSLやケーブル接続など安価なブロードバンド環境は、受信は1.5Mbps程度でも送信は512Kbpsや128Kbpsといった非対称の通信速度になっていることが多い。例えば送信が512Kbpsの場合でも、動画としてある程度“鑑賞”に堪える画質と言える300Kbps程度のストリーム放送をするなら、たった2人の視聴者が接続すればもう回線帯域は満杯だ。たとえISDNなみの64Kでつないでもらうとしても、それでもせいぜい同時接続8人が限度ということになり、不特定多数への公開という意味では無理がある。

 実際のところ、現在ぼくが個人契約している128Kbpsの常時接続環境でライブ放送をしているときに、ISDN 64Kbpsでつないでいる友人3人が同時にアクセスしたところ、すぐにルーターが落ちてしまった。これを将来ADSLに変更したとしても、3人が8人になったところで同じようにルーターが落ちる可能性は高い。

 しかし、最初から1人とか2人といった特定少数に「今夜○時から放送するから見てね」と伝えて放送するなら、送信512Kbpsでも十分に実用的だろう。見てもらう一人一人に放送時間をずらして伝えておけば、家族や親しい友達を合わせて5~6人に十分な回線速度で見てもらうことができる。もちろん見せる相手を特定できるので、放送した動画を知らないところで二次利用されてしまうといったトラブルも起こりにくく、プライバシーも守りやすい。

こんな使い方は大丈夫?

 ただ、こうした個人間の動画配信については、ブロードバンド環境が本格的に広まる今後、これまでの低速環境では起こらなかった問題が起こってくる可能性はある。動画配信が簡単にできるからといって、やっていいことと悪いことを安易に判断するのはよくないだろう。

 例えば、テレビ番組を動画ファイルに録画して自分のホームページで勝手に公開することは著作権上の問題があるが、ビデオテープに録画したテレビ番組を自分一人で見て楽しむのは一般に著作権法に触れることはない。ならば、テレビ番組をそのままライブ放送し、それを自分一人で楽しむ場合はどうなるのか。地元でしか放送していないローカル番組を、出張先でもリアルタイムに見たいために、自宅でライブ放送をセットしておき、その放送URLは公開せず、出張先から自分だけがアクセスして放送を楽しむ、といった“自分だけのテレビ番組ライブ放送”は、法律に抵触しないのだろうか。

 少し調べてみた限りでは、現状だと著作権者の公衆送信権や、放送事業者がもつ著作隣接権の“テレビジョン放送の伝達権”などに抵触する可能性が高いようだ。いくら自分だけしかアクセスできないようにしていても、放送をそのままリダイレクトしていると解釈できそうだからだ。しかし、ある地方でしか見られないローカル番組が、出張先でもどこでも楽しめるようになるというのは、技術的にはとても夢があると思う。ビデオテープに録画して個人的に楽しむことは認められているのだから、こうした利用が個人使用においては認められるよう、将来は放送局などがガイドラインを示したり、法律を整備してくれることを願いたい。

 といったところで今回のよもやま話は終わることにしよう。

(ひぐち たかし)

トップページへ
ひぐちたかしのオンラインソフトよもやま話 INDEX


Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.
編集部への連絡は mado-no-mori-info@impress.co.jp まで