|
「Lunascape3」開発者 近藤秀和氏インタビュー『新バージョンでは感覚的な使いやすさのためにデザインを見直しました』
(05/09/22)
8カ月ぶりにメジャーバージョンアップした「Lunascape3」を12日に正式公開し、その後も20日にv3.0.1を公開するなど精力的に開発を続けているLunascape(株)。同社代表の近藤秀和氏は、独創的なソフトウェアの開発を支援する“未踏ソフトウェア創造事業”による会社設立というユニークな経緯をもつ。そんな氏に、新バージョンの魅力や開発エピソード、会社やご自身の近況などをうかがった。
「Lunascape」v3のアピールしたい点や、バージョンアップの目的を教えてください。
実際に、使いやすくなったというご意見も多数いただいています。使いやすさというのは感覚的なものなので、ユーザーさんにとっては『理由はよく分からないけど、何となく使いやすい』という感じかもしれませんが、ボタンの配置からメニュー名の分かりやすさまで理論的に追求しています。 また、v2は少し動作が重かったり、Webサイトによっては表示できないという問題がありました。v3ではそういった問題を徹底的になくすことを目的としています。ソースコード自体はv2を引き継いでいますが、全体のコードを見直しました。 開発中の苦労話やエピソードなどはありますか?v3正式版のリリース直前は、4日くらい徹夜していまして、結果的には1週間で10時間しか寝ていませんでした。あれは辛かったですね。今回のバージョンアップ作業では、“設定”サイドバーなどで使う大量のアイコンを作成するのに、実は一番手間がかかっています。実際に使っているアイコンの倍くらいの数がボツになってしまいました。 そのほか、タブが光って見えるようにグラデーション表示するなど、デザイナー側で実現したいデザインがまず先にあって、そのためにプログラミングをして機能を実装した箇所がいくつかありました。これも大変でしたが、おかげでトヨタ自動車(株)さんに提供した「X-Browser」のように、デザインに凝ったWebブラウザーも作れるように仕上がりました。
Windowsの次期バージョンであるWindows Vistaでは「Internet Explorer」のバージョンも上がりますが、IEコンポーネントを利用したWebブラウザーである「Lunascape3」は対応できるのでしょうか。また、今後独自の表示エンジンを開発されるという可能性はありますか?Windows Vistaはまだ実際にテストはしていませんが、もちろん対応していきます。独自エンジンを開発する予定は今のところないですね。今、エンジンを作るメリットというのが、ユーザーさんから見ても、我々から見ても感じられませんから。エンジンを開発すると、おそらくそれにかかりきりになってしまいます。それよりもユーザーインターフェイスなどに注力して、“より使いやすいWebブラウザー”を目指していきたいですね。
「Lunascap3」が今後有料化される可能性はあるのでしょうか?
今後の展開としては、「X-Browser」のように付加価値をつけたり、特別な機能をつけたWebブラウザーを、提携先から有料で配布することはあり得ます。ただその場合でも、我々が提供しているフリーソフトの「Lunascap3」をなくすということは考えていません。 そのほか、「Lunascap3」のウィンドウの一部を広告枠として提供したり、RSS広告なども構想としてはあります。ただ、ユーザーさんが使いにくくなるような変更は絶対にしないというのが大前提ですので、その範囲でどこまでできるかですね。 最初は“Lunascape Home Page”もどのような評価をいただくか不安だったのですが、多くのユーザーさんが使っていただいて、ページの内容に要望が来るくらいになっています。ユーザーさんにとっても便利で、我々としても収益が上がり、それをまた「Lunascape3」の開発に投入できる、というよい循環ができる会社にしていきたいと思っています。
気が早い話ですが、「Lunascape4」のご予定は?「Lunascape3」は、実は予想以上にユーザーさんの評判がよかったのですが、同時に機能がたくさんあるのでこれ以上複雑になってほしくないという声もいただきました。ですから、さらに機能を強化する意味があるのだろうか、と思うこともあります。もちろん、おもしろい機能がリストアップされてきたらv4として公開するつもりですが、時期についてはまだ、全然決めていない状況ですね。プログラミング歴や、オンラインソフト作者になったきっかけを教えてください。最初にプログラミングをしたのは5歳くらいのとき、カシオのポケコン上だったと思います。右から左へ“A”という文字が動くという程度のプログラムをBASICで作って喜んでいました。小学校ではMSXが流行していて、BASICで主にゲームを作っていました。また、小学生の頃にもらったお年玉を、『10年後には倍になるんだよ』と言いながら親が没収して勝手に貯金してしまったので、じゃあ検証しようと複利計算のプログラムを作ったりする変な小学生でした(笑)。高校生になるとMSXのブームが去ってしまったので、雑誌に投稿したゲームが掲載されたのを最後に、しばらくプログラミングからは離れてバンド活動などをしていました。プログラミングを再開したのは大学に入ってからですね。ちょうど卒業年度が2000年にあたる年の入学だったので、“2000年問題”関係で職に困らないだろうと情報学科に入って、そこで初めてC言語を勉強しました。 大学3年のときに、勉強のためにブックマークを管理する「LinkMaker」というツールを作ったので、ベクターのライブラリへ登録しました。これが初のオンラインソフトになります。その後大学院に行って、ブックマークの研究のために「LinkMaker」をもとに作ったのが「Lunascape」です。初代「Lunascape」に、ブックマークをHTMLファイルとして出力する機能や、ブックマークを「Internet Explorer」や「Netscape」で開く機能など、Webブラウザーとしては変な機能が付いているのはこういった経緯からです。
会社設立の経緯を教えてください。大学を卒業後、開発職として電機メーカーに就職したのですが、サーバーシステムやミドルウェアなどを中心に開発するという仕事でした。ブロードバンドが普及し始めた頃なのでインターネット関連のクライアントソフトウェアを手がけてみたかったのですが機会がなく、その頃に“未踏ソフトウェア創造事業”を知ったのが、会社を作ってみようかと思ったきっかけの1つです。それから、その頃がちょうど日本のネットバブルの時期で、数々のベンチャー企業が立ち上がっていたのですが、プログラマーの眼で見ると、各ベンチャー企業の中核部分はソフトウェア技術ではないように感じました。たとえばアメリカのようにいろいろな会社が、ソフトウェアや技術をもとにベンチャー企業を起こすという事例がもっとあればと考えて、会社設立に踏み切った面もあります。もちろん、僕以外にもソフトや技術を核に起業した方はいますが。
個人で作られていた頃とどういった点が変わりましたか。
現在、開発はチームで行っています。プログラミングは数名、ヘルプの制作やデザインを行う者などを全部合わせると、10人以上ですね。僕自身の仕事は状況で変わってきます。プログラミングもしますが、全くしない日もあります。本当は自分でプログラムを書きたいですけどね(笑)。
日々、どれくらいお仕事をされているのでしょうか。また、気分転換などはどのようにされていますか?10時に出社して、夜はけっこう遅くまで仕事をしています。日曜日くらいはなるべく休むようにしていますが、ほぼ毎日“開発”にかかりきりです。気分転換はランチですね。会社の周りに安くておいしいお店がたくさんあるので、会社のみんなで行っています。大学生の頃はテニスやスキーをしていましたが、今はほとんどやっていません。
これからソフトウェア開発事業で会社を作ろうと思っている若い人にメッセージをお願いします。1つは、別に怖がる必要はないということです。たぶん独立しようという方が躊躇するのは、食べていけるかということだと思いますが、若いうちなら最悪、会社が潰れても、もう一度就職できますから。どんどん挑戦したほうが、長い目で見たら絶対に自分のためになると思いますね。もう1つは、たとえフリーソフトであっても、趣味や研究の成果と、製品や商品では作る側の意識を変える必要があるということでしょうか。僕自身、常に製品や商品として成り立たせるにはどうすればいいかを考えるように気をつけています。言い換えれば、自分本位にならないようにということですね。 また、“ベンチャー企業で働きたい”“世界のソフトウェアの歴史を塗り替えてやる!”などと思われている方で、弊社に興味のある方はぜひご一報ください。
最後に、「Lunascape3」のユーザーさんに向けてのメッセージをお願いします。これからもよりよいものを目指してがんばっていきますので、どんどん要望を言っていただけるとうれしいです。また不具合報告をしていただくときには、「Lunascape3」やWindowsのバージョン、CPU名やメモリ容量なども書いていただけると、よりありがたいですね。
(中村 友次郎)
|
|
|
||||||||||||
トップページへ 特集・集中企画INDEXへ |