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「Sleipnir」開発者 柏木泰幸氏インタビュー『技術は手段で、ユーザーが使いたいと思うソフトを作るのが目的である』
(05/10/12)
フェンリル(株)は12日、タブ切り替え型Webブラウザー「Sleipnir」v2.00正式版を公開した。昨年11月の“ソースコードが入ったパソコンの盗難”というショッキングな事件により一時は開発中止を危惧された「Sleipnir」だが、作者である柏木泰幸氏は、翌12月には開発再開を宣言。今年6月にはフェンリル(株)を設立し、この度ついにメジャーバージョンアップを果たした。窓の杜では、v2開発も佳境という時期に柏木氏へのインタビューを行い、新バージョンの狙いや今後の開発予定などをうかがった。
□窓の杜 - 【NEWS】「Sleipnir」「PictBear」の作者のパソコンが盗難に遭い開発中止に!?
「Sleipnir」v2の開発目的やアピールしたい点を教えてください。
新バージョンの特長は、ほとんどすべての機能をプラグインで提供するという仕組みを取り入れたことです。表面的な見た目や機能は旧バージョンの最終版であるv1.66とほぼ同じですが、内部のプログラムは全く異なるものです。つまり旧バージョンは大きな1つのプログラムだったのですが、新バージョンは小さいプログラムが組み合わさってできています。今後もアップデートを提供していくのとv1.66を超えるカスタマイズ性を手に入れるための仕組みを一から作成するのが新バージョンの開発目的です。
プラグインはユーザーが作成することもできるのでしょうか。現在プラグインの仕様や開発者向けインターフェイスは非公開で、今後一般公開するかどうかは検討中です。公開すると誰もがプログラムの深い部分に触れて、動作を変更できるようになるため、セキュリティ上好ましくない部分があります。また、一度公開したインターフェイスを変更するとなるとすでに公開されているプラグインの開発者に迷惑がかかりますが、一方で我々が自由に変更できないと「Sleipnir」自体の開発効率が落ちる可能性があるため、どのタイミングで公開するかは慎重に検討する必要があります。そこで現在、ユーザーのみなさまに直接プラグインを作ってもらうのではなく、「Sleipnir」本体とユーザー製拡張プログラムの“橋渡し”を行うプラグインを提供するという仕組みを開発中です。これならば、「Sleipnir」の内部動作を変更しても“橋渡し”プラグインが開発者向けインターフェイスの違いを吸収し、開発者に迷惑をかけずにすみます。
Windowsの次期バージョンであるWindows Vistaでは「Internet Explorer」のバージョンも上がりますが、IEコンポーネントを利用したWebブラウザーである「Sleipnir」は対応できるのでしょうか。また、今後独自の表示エンジンを開発されるという可能性はありますか?IEはレンダリングエンジンとユーザーインターフェイスが完全に切り離されています。これまでの経緯を見る限り、マイクロソフトは下位互換を大事にしてくれるので、すぐに対応できると思います。独自エンジンについては予定していません。
「Sleipnir」開発の経緯を教えてください。大学生になった頃、ちょうどタブブラウザーが出始めました。当時は私もとあるWebブラウザーのユーザーだったのですが、半年くらい使ったらデザインに飽きて変えたくなってしまったわけです。そこで別のWebブラウザーを探してみたのですが、どれも自分の好みと完全には合いませんでした。それならばいっそのこと、自分に合うようにカスタマイズができるWebブラウザーを作ろうと思ったのが開発のきっかけです。それ以降、“ユーザーが自分の使いやすいようにカスタマイズできるソフトを作る”という開発方針はずっと変えていません。
個人で作られていたソフトは今後どうなるのでしょうか。「Sleipnir」以外の私個人が公開しているソフトにも多くの愛用者がいらっしゃいますので、今後も個人のサイトに残します。とくに「PictBear Second Edition」はRC版で開発を止めていますが、私も使用していますし、どういった形で出せるかは未定ですが正式版を出したいです。
会社を設立されて、個人で作られていた頃とどういった点が変わりましたか。納期です。個人の趣味で作っていた頃と違い、事前に立てたβ版や正式版の公開スケジュールを守る必要があります。ただ、1年間社会人として仕事をしていましたので、とくに影響はありません。社会人として働いて得たものは大きかったと思います。あと、複数人での開発という点がすごく大きいです。私は以前から「技術は手段で、ユーザーが使いたいソフトウェアを作るのが目的である」という考えで、技術にこだわりはもっていません。「Sleipnir」ユーザーに満足してもらう機能を実装するために、必要になれば技術を身につけていくのがプロだと思っています。フェンリルではそういう考えのもと、チームで開発しています。そういう意識でチーム開発できるのがすごく楽しいです。
日々、どれくらいお仕事をされているのでしょうか。また、気分転換などはどのようにされていますか?会社設立前から、朝から寝るまで仕事をしています。毎週110時間労働かもしれません。たまに仕事の関係で飲みに行きますが、その後も帰宅してから開発です。会社最寄り駅の終電の都合で帰宅は早いのですが、自宅でも開発して、翌朝各開発メンバーによるソースコードの変更箇所を統合しています。今は開発する時間が1分でも惜しいので、予定がなければ土日も開発しています。開発以外の仕事もすごく増えています。忙しいですが、辛くはありません。一日も早く「Sleipnir」を愛用してくださっているユーザーのみなさまに新しいバージョンを提供するという目標があるからです。気分転換は、電車の中での読書や、静かな空間での瞑想くらいです。
新バージョンの公開で開発も一段落されるかと思いますが、時間ができたら何をしたいですか?「Sleipnir」v2.00正式版を公開してもそこで終わりだとは思っていません。新バージョンでは旧バージョンと同等機能の再構築をテーマに、「Sleipnir」ユーザーのみなさまから実装してほしい機能をメールで募集し、みなさまに納得してもらえるメジャーバージョンアップを目指しています。ですから、それが完了した「Sleipnir」v2.00正式版がスタート地点で、そこから新しいことができると考えています。例えば、プラグインやスタイル切り替えの仕組みを使って、新しいユーザーインターフェイスの「Sleipnir」を提案したいですし、ビジネス面でもやりたいことがたくさんあります。また、具体的な計画はまだありませんが、多言語対応もやってみたいことの1つです。英語圏にも「Sleipnir」ユーザーはいらっしゃるようで、『「Sleipnir」v2.00の英語版は出ないのか』と問い合わせも来ています。そのために新バージョンでは、メッセージなどの文字列を設定ファイルとして本体と切り離しています。もちろん内部動作は多言語対応も考慮し、すべてUnicodeベースで開発しています。『「Sleipnir」を全世界へ』、これは私がずっと前から掲げている目標です。
これからソフトウェア開発事業で会社を作ろうと思っている若い人にメッセージをお願いします。何のために会社を作るのか。それが一番大切なことだと思います。技術力向上が目的であれば、組織の一員として身につけることができます。軽い気持ちで独立し、会社が潰れ、提携していた企業や多くの人々に迷惑をかけたりするのだけは絶対に避けるべきであると思っています。私は、フェンリルに人生をかけていると言っても過言ではありません。やるならすべてをかけて、そうでなければよい環境で、というのが私の考えです。関係する人や企業のことをよく考える必要があります。あくまで一個人としての考えですので、参考程度にしていただければ幸いです。話は変わりますが、フェンリルでは現在人材を募集しています。実績、経験は問いません。『これなら人に負けない!』というものを1つでもお持ちの方がいらっしゃいましたら連絡してください。フェンリルは何か1つでも人に負けないものをお持ちの方を必要としています。
最後に、「Sleipnir」ユーザーのみなさまに向けてのメッセージをお願いします。これからも「Sleipnir」は「Sleipnir」ユーザーのみなさまと共に成長していくソフトであり続けます。みなさまからのご意見を大切にし、末長く愛される製品を提供し続けることを約束いたします。
(中村 友次郎)
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