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【第355回】

中編アドベンチャーゲーム「かげろうは涼風にゆれて」

初回プレイ時はセーブ不可! “実験”の裏に隠された真実に迫るSFホラー作品

(08/10/17)
タイトル画面
   

 『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、選び抜いた良作を毎週紹介していく。今回は、限られた期間の中で選択肢を選びながら物語の真相へと近づいていくアドベンチャーゲーム「かげろうは涼風にゆれて」を紹介しよう。

孤島を舞台に2人の少年少女が“実験”の不可解な謎を解き明かしていく

画面右の人物が主人公の少年“陽ノ原”。左が今回の実験を計画した“涼炎寺博士”
画面右の人物が主人公の少年“陽ノ原”。左が今回の実験を計画した“涼炎寺博士”
 「かげろうは涼風にゆれて」の物語は、主人公の少年“陽ノ原(ひのはら)”が、夏休みを利用して孤島を訪れるところから始まる。彼がこの島を訪れたのは、恩人の“涼炎寺(りょうえんじ)博士”が行う、一定サイズの空間内で長期間過ごす“閉鎖実験”の被験者となるため。そんな彼を港で迎えたのは、博士の娘で実験中のパートナーとなる少女“青海(あおみ)”だった。2人は実験のための投薬を受け眠りに就くが、翌日機材のトラブルにより実験内容が変更になったことを伝えられる。新たな実験は、定められた期間内にあらかじめ選定された島内3カ所のスポットを訪れ、どのスポットが最も美しいと感じるかをアンケート形式で調べるというものだった。

 物語には、主人公たちのほかにも、博士の研究所で警備を担当する“木田”や、研究所の建物や土地の前の持ち主である“谷浦(たにうら)”といった人物が登場し、重要な役割を演じることとなる。


実験の間主人公が滞在することとなる“涼炎寺施設研究所”。画面の人物は実験中のパートナーとなる少女“青海”   主人公たちは10日間をかけて島内3カ所のスポットを巡り、主人公にとってどの場所が一番美しく感じるかを調査することになる
実験の間主人公が滞在することとなる“涼炎寺施設研究所”。画面の人物は実験中のパートナーとなる少女“青海”   主人公たちは10日間をかけて島内3カ所のスポットを巡り、主人公にとってどの場所が一番美しく感じるかを調査することになる

初回プレイ時はセーブ不可などの特殊なシステムがゲームの緊張感を演出

実験期間中は、1日に1回その日の行動を選択することでゲームを進めていくこととなる
実験期間中は、1日に1回その日の行動を選択することでゲームを進めていくこととなる
 本作は、画面上に表示される文章をマウスクリックで読み進めていくノベルタイプのアドベンチャーゲームだ。ゲーム中にはいくつもの選択肢が用意されており、この選択によって物語の展開や結末がさまざまに変化していく。物語の焦点となる“実験”は8月11日から21日までの10日間となっており、基本的に1日1回その日の行動を選ぶことでゲームは進行していく。SFホラー風の内容だが、童話に多い“よく考えてみると怖い”タイプの話なので、ホラー作品は苦手という人でも問題なく楽しめる作品になっている。

 ゲームを開始するには、タイトル画面の[最初から]をクリックしよう。途中でゲームを中断した場合はプレイ中のデータが自動的にセーブされるので、次回からは[続きから]を選べばよい。なお本作には、初回プレイ時は任意のタイミングでの手動セーブが行えない“ファーストタイム・ノーセーブ”と、[最初から]が選択できなくなる“ファーストタイム・ノーリトライ”という特殊なシステムが用意されているため、何らかのエンディングを迎えるまでは、途中のやり直しが一切出来ず、緊張感のあるプレイが楽しめる。

 さらに、一度物語の結末を見たあとは、タイトル画面に[エンドリスト]と[プレイログ]が追加される。プレイログには、実時間の何月何日何時何分に初回プレイを開始し、どんな結末を迎えたのかといった情報が記録されていく仕組み。これにより、ゲームの謎をいかに早く解き明かして真のエンディングにたどり着くかという、アドベンチャーゲームの“ゲーム”としての側面をうまく演出しているのが特徴だ。

 ほかにも、主人公が記憶しているこれまでの出来事を箇条書き形式で参照できる“記憶の確認”や、特定の条件を満たすと追加される“運命の俯瞰”など、物語の全体像を把握するための手助けとなる仕組みが設けられているので、ゲームの攻略に役立てていこう。


初回プレイ終了後タイトル画面に追加される[プレイログ]画面。新たなエンディングを見たり、新たな機能が追加されるたびに日時が記録されていく   [記憶の確認]画面。主人公が記憶している事柄をプレイ中にチェック可能だ。時系列の整理に役立てよう
初回プレイ終了後タイトル画面に追加される[プレイログ]画面。新たなエンディングを見たり、新たな機能が追加されるたびに日時が記録されていく   [記憶の確認]画面。主人公が記憶している事柄をプレイ中にチェック可能だ。時系列の整理に役立てよう

プレイヤーの手で一歩ずつ真相に近づく過程が楽しめる

研究所の奥にある謎の扉。立ち入り禁止の扉の向こうには一体何が待ち受けているのだろうか
研究所の奥にある謎の扉。立ち入り禁止の扉の向こうには一体何が待ち受けているのだろうか
実験期間中、毎日のように表示される謎のシーン
実験期間中、毎日のように表示される謎のシーン
 本作は、最近では少数派になりつつある、ゲームの課題をクリアする楽しみに主眼を置いた、ファミコンやマイコン時代に一世を風靡したコマンド選択型のアドベンチャーゲームに近い内容の作品だ。ストーリー重視の作品を読むような感覚で漫然と選択肢を選んでいるだけでは、ゲーム中に登場する“記憶喪失”という仕掛けも手伝って、同じ文章を繰り返し読まされているような気分にさせられてしまう。しかし、物語の真相を推理しつつ目的意識をもって選択肢を選ぶことで、新たな事実が明らかとなっていく。閉塞していた物語が一気に流れ出したときの喜びや、エンディングを迎えたときの達成感を味わえるのが最大の魅力だ。

 このように書いてしまうと、敷居の高いゲームだと思われるかもしれないが、本作はこの種のゲームとしては比較的難易度が低いうえ、ゆっくり読んでも1周あたり小一時間程度と短く、一度読んだ文章を高速にスキップする機能も用意されているので、この種のゲームは苦手という人でも気軽にチャレンジできるので安心だ。

 また、本作には派手な演出やキャラクターイラストなどはなく、一見すると地味な印象を受けるが、予想外の真実が次々と判明していく展開や、キャラクターの心情を考えさせられるような内容のおかげで、謎解きゲームにありがちな無味乾燥さはあまり感じられない。純粋に物語として見た場合でも、十分に楽しめる作品に仕上がっているのも魅力と言えるだろう。

 適度な難易度とプレイ時間で、アドベンチャーゲームの初心者にお勧めできるのはもちろん、推理物などが得意という人でも早解きに挑戦できるなど、幅広いゲームファンにお勧めできる作品と言えそうだ。


【著作権者】KaTana
【対応OS】Windows 98/Me/2000/XP
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】2.00(08/08/14)
【ファイルサイズ】16.5MB

□言ノ葉迷宮
http://homepage2.nifty.com/wp/kotonoha/

(霧島 煌一)




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