オーディオファイル対決 RealAudio, SoundVQ, MP3, MPEG2 AAC(後編)
各オーディオファイル形式の圧縮速度・圧縮率・音質を徹底比較する
(98/10/22)
前編ではエンコードファイルのサイズ比較を行ってみたが、実のところ一番気になるのは音質の差だ。いくらファイルサイズが小さくなっても、そのまま音質も落ちてしまっては意味がない。限られたデータサイズの中で、いかに元の音に忠実なままデータを詰め込むかが一番重要なポイントだ。後編の今回は、各種ファイル形式について圧縮速度と音質を比較した。高速にエンコードでき、なおかつ満足のいく音質が得られるかどうかが、ユーザーの最も重要視するところだろう。
まず始めに、音質の比較に使用するオンラインソフトを紹介しよう。
「WaveTools」
サウンドの出力をリアルタイムにモニターしてくれる4種類のツールが含まれている。音質の比較には、この4種類のツールのうちグラフィックイコライザーのように周波数分布をグラフや波形で表示してくれる「Spectrum Analyser」を用いた。「WaveTools」についての詳細は以下のURLの記事を参照してほしい。
【著作権者】Paul Kellett
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】1.0 (97/11/15)
□ダウンロード
http://www.abel.co.uk/~maxim/
□サウンドの入出力状況をリアルタイムに解析「WaveTools」Version 1.0
http://www.forest.impress.co.jp/article/1998/08/31/wavetools.html
■ エンコード速度を比較
WAVファイルのエンコードにかかった時間を、各エンコードソフトで設定できる全てのビットレートごとに秒単位で計測し、表にした(ハードウェア環境は前編と同じ)。
エンコード時間 [単位… 分:秒]
ビットレート | RealAudio | SoundVQ | MPEG1 Layer-3 | MPEG2 AAC |
16 kbps | - | 1:16 | - | - |
20 kbps | 0:18 | 1:44 | - | - |
32 kbps | 0:23 | 2:26 | 1:35 | 30:31 |
40 kbps | - | 3:15 | 1:36 | 29:50 |
44 kbps | 0:24 | - | - | - |
48 kbps | - | 3:23 | 1:38 | 29:06 |
56 kbps | - | - | 1:37 | 28:28 |
64 kbps | 0:26 | 4:08 | 1:40 | 27:50 |
80 kbps | - | 6:03 | 1:41 | 26:40 |
96 kbps | 0:28 | 6:18 | 1:44 | 25:34 |
112 kbps | - | - | 1:45 | 24:26 |
128 kbps | - | - | 1:46 | 23:21 |
160 kbps | - | - | 1:48 | 18:20 |
192 kbps | - | - | 1:51 | 2:06 |
224 kbps | - | - | 1:56 | 1:50 |
256 kbps | - | - | 1:54 | 2:10 |
320 kbps | - | - | 1:58 | 2:23 |
20kbpsでわずか18秒、最大ビットレートの96kbpsでも30秒かかっていないRealAudio形式が圧勝。MP3はビットレートを変更しても全て2分以内でエンコードが完了した。SoundVQはビットレートを上げるたびにエンコード時間が非常に長くなり、96kbpsではMP3との時間差は3倍以上となった。
MPEG2 AACはビットレート32~160kbpsまで耐えがたいほどの時間がかかっている。ところが、192kbpsにすると突如短時間でエンコードが完了してしまっている。前編の実験でもファイルサイズが192~320kbpsでほとんど変化がなかったことから、これもAlphaバージョンのエンコードソフトということで、参考値としてとらえたほうがよさそうだ。
ところで、MP3のエンコードに使用した「AMP3ENC 2」はMMX対応の設定をオン・オフできるようになっているが、MMXを使用しない設定にしてもエンコード時間に変化がなかったことから、本当にMMXによって高速にエンコードされているのかどうか確認できなかった。しかし、他の大部分のMP3エンコードソフトを使った場合では、同一条件で少なくとも曲の長さと同じ時間程度かそれ以上かかることを考えると、「AMP3ENC 2」に含まれる「Plugger+」は飛び抜けてエンコード速度が速いといえる。
■ 同一ビットレートで音質を比較する
音声ファイルは圧縮することによって高音域が削られてしまうという話をよく聞く。実際にファイル形式によってどう音質が変わるのか調べるため、最後は「Spectrum Analyser」を使って、各ファイル形式ごとに音の変化の度合いを数値で比較した。ここで使用している測定値はそのまま音質を表すものではなく、あくまでWAVファイルとのデータの違いを相対的に表したものだ。今回はこの数値的な差をみて、評価の指針としている。
まず「Spectrum Analyser」を以下のように設定。エンコードファイルの再生と同時に[Run]させ、1分後に[Stop]。メニューの[Edit]からクリップボードデータとして取得できる計測値を利用している。
Freq | Max | 20kHz [Lin] |
Resolution | 43Hz |
Level | Max | 0dB [Max] |
Range | 120dB [dB] |
Time | Ave | 2 [Exp] |
Display | Curve [Grid] |
元のWAVファイル、RealAudio、SoundVQ、MP3、MPEG2 AACの各ファイルで測定した43.1Hzごとの周波数分布を「低音域」「中音域」「高音域」「全音域」の4つに分け、WAVファイルで測定した周波数分布を中央値とし、それぞれの音域での標準偏差を算出した。元のWAVファイルと比べ音データが変化しているものほど数値は大きくなるので、グラフが短いほどエンコードファイルのデータは変化が少ないことになる。
なお、測定に用いたファイルは、WAVファイル以外の全ての形式でRealAudioとSoundVQで設定できる最高のビットレート96kbpsに統一した。
【低音域 43.1Hz ~ 990.5Hz】
| 標準偏差 | 高音質 ←---------------- 標準偏差 ----------------→ 低音質 |
RealAudio | 1.9115 | |
SoundVQ | 4.8187 | |
MPEG1 Layer-3 | 2.7967 | |
MPEG2 AAC | 3.0910 | |
【中音域 1033.6Hz ~ 4995.7Hz】
| 標準偏差 | 高音質 ←---------------- 標準偏差 ----------------→ 低音質 |
RealAudio | 7.1435 | |
SoundVQ | 9.8118 | |
MPEG1 Layer-3 | 4.9319 | |
MPEG2 AAC | 12.1782 | |
【高音域 5038.8Hz ~ 22050.0Hz】
| 標準偏差 | 高音質 ←---------------- 標準偏差 ----------------→ 低音質 |
RealAudio | 14.2636 | |
SoundVQ | 25.9054 | |
MPEG1 Layer-3 | 51.4462 | |
MPEG2 AAC | 327.6551 | |
【全音域 43.1Hz ~ 22050.0Hz】
| 標準偏差 | 高音質 ←---------------- 標準偏差 ----------------→ 低音質 |
RealAudio | 12.3949 | |
SoundVQ | 22.0014 | |
MPEG1 Layer-3 | 40.7378 | |
MPEG2 AAC | 255.2791 | |
この比較においても全体的にRealAudioが優秀で、データの変化が少ない。低音域はどのファイル形式もほとんど差がなく、中音域はMP3がややリード。高音域はどのファイル形式でもデータがかなり変化しているが、特にMPEG2 AACは最悪であった。MPEG2 AACはエンコードソフトの性能がまだこなれていないこともあり、今後高性能化されていくことに期待したい。
■ はっきり性格の分かれた各ファイル形式を用途別に考える
今回の比較結果ではRealAudioが好成績を収め、Webのストリーム再生に多用されている実績を裏付ける結果となった。ただし、「RealEncoder G2」では96kbpsまでのビットレートにしか対応していない。ストリーム再生とは別により高音質を目指したい場合は、やはり 320kbpsまでのビットレートに対応しているMP3やMPEG2 AACを利用するしかないだろう。「SoundVQ Encoder」はRealAudioと同じく96kbpsまでのビットレートにしか対応していないことや、RealAudioより特別音質で優れている点もないことから、有効な使い道を見つけるのは難しいところだ。
結局、音質を重視するなら320kbpsまでの幅広いビットレートに対応しているMP3。エンコードソフトがAlphaバージョンであったことから、いまだ実力は未知数の部分もあるが、とにかくファイルサイズをできるだけ小さくしてディスク容量を稼ぎたいのならMPEG2 AAC。ストリーム再生などネットワークを介した音声のやり取りを行うなら、エンコードが高速で手軽に扱える上、再生ソフトもIE4.0に付属するなど一般的になってきているRealAudioが最適ということだろう。
音声データ圧縮の技術は日進月歩。形式の種類ばかりが増えるのも困りものだが、今あるものを有効に利用し、用途に合ったファイル形式を選択して利用するのが賢いやり方だろう。今回の特集がその一助になれば幸いである。
□オーディオファイル対決 RealAudio, SoundVQ, MP3, MPEG2 AAC(前編)
http://www.forest.impress.co.jp/article/1998/10/19/audiofiles1.html
(日沼 諭史)