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【第2回】
QuickTime Playerでムービーファイルを編集しよう
Pro版のQuickTime Playerに秘められた編集機能に迫る
(02/09/12)
フリー版「QuickTime」の「QuickTime Player」を起動すると、シェアウェア版の「QuickTime Pro」にアップグレードするようにうながすスプラッシュ画面が表示されることがあるが、今回は「QuickTime Pro」にアップグレードするとどんなことができるようになるのか? を紹介してみよう。
「QuickTime Player」=“QuickTime Editor”?
「QuickTime Player」はその名の通り「QuickTime」ムービーファイルの再生ソフトだが、「QuickTime Pro」の「QuickTime Player」は“QuickTime Editor”とでも言うべきムービー編集機能を備えている。
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タイムスライダーのところにある三角形のマーク |
ムービー編集の基本は「いらない部分は切り、必要な部分をつなげる」という、いわゆるカット編集だ。Pro版の「QuickTime Player」(以下、ただし書きのない場合はPro版のPlayerを指す)でのカット編集の基本は[編集]メニューの[コピー][カット][ペースト]で行う。タイムスライダーのところにある三角形のマークで範囲選択をしてコピーまたはカットされたムービーの1部分は、ペースト先のタイムスライダーのあるところに挿入される。ひとつのムービーファイル内で不要な部分を削除したり、カット&ペーストでムービー内の順序を入れ替えたりするのはもちろん、ほかのムービーファイルからコピー&ペーストすることも可能だ。
また、同じく[編集]メニューにある[追加][拡大・縮小して追加][置換]では[ペースト]とは違った貼り付け方ができる。[追加]はコピー・カットしたものを元からあるムービーのデータ(トラック)を壊すことなく“かぶせる”ことができる。通常、[追加]をした直後は音声がダブって聞こえるが、これは元からある音声トラックがそのまま生きているということの証拠だ。[拡大・縮小して追加]は追加先の選択範囲にコピー・カットしたものの長さを合わせて“かぶせる”ことが可能。追加先の選択範囲がコピー・カットしたものよりも長ければスロー再生に、短ければ早回し再生になる。[置換]はその名の通り選択範囲をコピー・カットしたもので置き換えてくれる。
場面転換効果(トランジション)やテロップなどを使わない単純なカット編集のみならば上記のメニューだけでできてしまう。選択範囲の開始点(IN点)と終了点(OUT点)をキッチリ指定する必要があれば、三角形のマークをクリック後にキーボードの矢印キーで左右へ動かすこともできる。
メディアコンバーターとしての「QuickTime」
編集したら次はムービーファイルの保存だ。フリーソフト版の「QuickTime Player」の[ファイル]メニューにはムービーを保存するための項目がないが、「QuickTime Pro」では[保存]や[別名で保存]メニューで編集結果を保存することができる。注目すべきは[別名で保存]を選ぶと“通常保存”と“独立再生方式で保存”という2種類の保存形式が選べる点。前者はムービー本来の映像や音声データをもたずに編集情報だけを保存するもので、素材となるムービーにはリンクのみが張られている。そのためファイル容量が非常に小さくなる。
[保存]以外に[書き出し]というメニューもある。これはムービーの圧縮方式(コーデックの種類や圧縮率)を変えたり、別のファイルフォーマットへの書き出しをする。[書き出し:]欄で[ムービーからQuickTimeムービー]を選べばコーデックやフレームレート、圧縮率などの変更ができる。また、タイムスライダーのある位置の映像をBMPやPICTといった静止画にしたり、[ムービーからイメージシーケンス]を選択することによってムービー全体を連番の静止画ファイルにすることもできる。連番静止画ファイルにする場合はPNG/TIFF/TARGA/Photoshopなどのファイル形式を選択できるため、特定のファイル形式の連番静止画ファイルしか読み込むことのできない一部の3D CGソフトを使う場合などに重宝する。逆に連番静止画ファイルをムービーとして読み込む場合は[イメージシーケンスを開く]メニューを使う。
また、AVIへの書き出しも[書き出し]メニューから行える。サポートするコーデックの種類は少ないが、DVコーデックの「QuickTime」ムービーをDVコーデックのAVIファイルに画質を劣化させることなく変換できる。MacintoshでキャプチャーしたDVムービーをAVIファイルの編集ツールで編集したい場合などに有用だと言えるだろう。
テキストをムービーとして扱う
ここまで述べてきたことは、実は「QuickTime Pro」にアップグレードしなくても、「QuickTime」に対応した市販のムービー編集ソフトを使うことで実現できる。また、「QuickTime」ムービーファイルの読み込みに対応したVFAPI(読み込み可能なファイルフォーマットを増やすためのムービー編集ソフト用プラグイン)があるので、「QuickTime Player」以外でも「AviUtl」や「TMPGEnc」などのVFAPI対応ソフトでは「QuickTime」ムービーファイルを素材としたムービー編集が可能だ。
では「QuickTime Pro」ならではの機能は何か? というと、テキストやMIDIといった通常ムービー編集ソフトでは取り扱わないようなメディアをムービーファイルのトラックとして取り込めることと、各トラックの情報を見たり、設定を変更したりできる点にある。
では、テキストのムービーへの取り込みから見てみよう。たとえば、
インプレス
窓の杜
という2行からなるテキストファイルを作り、それを「QuickTime Player」の[ファイル]-[読み込み]メニューで読み込む。すると“インプレス”“窓の杜”という文字が2秒ずつ表示されるだけのムービーファイル(サンプルムービー:quicktime6pro2_movie1.mov)ができあがる。このムービーでテキストは“テキストトラック”というトラックに取り込まれ、映像や音声と同じような編集が可能になっているのだ。テキストデータは画像としてラスタライズされているわけではなく、フォント名、文字の大きさ、文字色、行揃え、表示時間、テキスト本体などの情報が格納されるので、ファイル容量は非常に小さくなる。1行のテキストが表示される秒数を変更したい場合は、[ファイル]-[書き出し]メニューで開くダイアログの[書き出し:]欄で“テキストからテキスト”を選択し、オプションで“テキスト、ディスクリプタ、時刻の表示”をチェックして書き出す。すると文字色や背景色などの情報、そしてテキストが表示される時間が記されたテキストファイルが作られるので、それをテキストエディターで編集後に再度読み込ませると、表示時間が調節されたテキストのみのムービーファイルができあがる。
さらにこのテキストトラックは映像や音声を含んだムービーのチャプター(章)として利用することができる。まず、テキストトラックのみのムービーを全選択し、映像や音声を含んだムービーに[拡大・縮小して追加]しておく。そして[ムービー]-[ムービーの特性を見る]メニューを選択してダイアログを開いた後、左のプルダウンメニューでは[テキストトラック]を、右のプルダウンメニューでは[チャプタ作成]をそれぞれ選ぶ。[チャプタのオーナートラックを設定]ボタンをクリックし、“ビデオトラック”か“オーディオトラック”のどちらかを選んで[OK]ボタンをクリックする。するとタイムスライダーの横に“インプレス”という文字が現れる。この文字をクリックすると“窓の杜”という文字も現れ、どちらかをクリックすると、その文字が表示される先頭の時間にタイムスライダーがジャンプして、チャプターのしおりのような役割をするのだ。
各トラックの詳細を表示・設定する
一方この[ムービーの特性を見る]メニューは、「QuickTime Player」でトラックの設定を行ううえで大きな役割を果たしている。フリーソフト版とシェアウェア版(Pro版)との違いがもっとも実感できるのもこのメニューだ。前述したテキストトラックの設定のみならず、ビデオトラック、オーディオトラックなど、すべてのトラックの情報表示や各種設定が行える。
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レイヤーの合成方法は[グラフィックモード]で設定 |
たとえば[編集]-[追加]で映像や音声を追加したムービーは、ビデオトラックやオーディオトラックが2つ以上存在することになる。ビデオトラックはレイヤー状に重なって表示されるので、どちらのトラックが上のレイヤーになるかでムービーの見え方が異なる。レイヤーの上下順を決定するのには右のプルダウンメニューで[レイヤー]を選び、レイヤーの番号を小さくするほど前面に表示されるようになる。また、重ね合わせたレイヤー同士をどのように合成するかという情報は同じく[グラフィックモード]で設定する。上下のレイヤーをブレンドして表示したり、レイヤー内の特定の色を透明にして下のレイヤーが透けて見えるような設定もできる。
「QuickTime」ではコントロールパネルで標準の言語を設定したり、「QuickTime Player」の[ムービー]-[言語を選択]によって再生中のムービーの言語を切り替えて表示することもできる。この機能で力を発揮するのが“代替トラック”という仕組み。たとえば、Aという言語が指定された場合はトラック1を再生、Bという言語が指定された場合はトラック2を再生するというように、トラック単位に言語によって入れ替え可能な情報を付加することができるのだ。
ここで、日本語で話している人物のムービーに英語の吹き替えを追加して、言語設定によって音声を切り替えた2カ国語ムービーを例に説明してみよう。まず、元になる日本語で話す人物のムービーと、英語の吹き替え音声を用意する。英語の吹き替え音声を「QuickTime Player」で開いた後、全選択して[コピー]し、人物のムービーに[追加](または[拡大・縮小して追加])する。この時点でムービーは日本語の音声と英語の音声が重なって再生される。次に[ムービーの特性を見る]で日本語の音声[サウンドトラック1]の[代替]で、[言語:]欄で“日本語”を、[代替:]欄で英語の音声である[サウンドトラック2]を指定する。同様に、[サウンドトラック2]の[代替]で[言語:]欄に“英語”を、[代替:]欄に[サウンドトラック1]を指定する。この状態でムービーを保存すれば、日本語と英語の音声が切り替えられるムービーの完成だ。
参考までに音声を切り替えるムービー(サンプルムービー:quicktime6pro2_movie2.mov)を作ってみた。2カ国語ではないが、日本語、英語の言語選択でBGMを変更できるムービーだ。Webブラウザー上で見ると言語設定をするのにコントロールパネルを開く必要があって面倒なので、自分のハードディスクにダウンロードした後、「QuickTime Player」で開いて再生してみてほしい。もちろん、フリーソフト版のプレイヤーでも再生は可能だ。
このほかにも[ムービーの特性を見る]では、ビデオトラックにマスクを追加して映像の一部のみを見せるようにする機能や、映像の縦横の大きさを変更する機能、映像の品質切り替え機能などが備わっている。これらの機能の中でもよく使うのが映像の品質切り替えだ。「QuickTime」に関してよくある質問のひとつに、DVでキャプチャーした映像がきれいに見えない、というものがある。これはビデオトラックの[高品質]項目の[高品質で再生する]チェックボックスをチェックすれば、DV本来の画質で再生されるようになる。
さて、次回は話題のMPEG-4ファイルを「QuickTime」を使って作る課程を紹介する。
(モッティ)