#モリトーク
第57話
Webブラウザーの英語力
(2013/5/21 10:27)
窓の杜が先週の記事で紹介した「Ginger」は、「Google Chrome」および「Firefox」用の拡張機能として動作するほか、「Internet Explorer(以下、IE)」上で利用可能な単体のアプリケーションも用意されている英文スペルチェッカーだ。その特長は、文脈に応じてスペルミスを訂正することであり、詳しくは下記のレビュー記事を参照してほしい。
主要なWebブラウザーにはもともと、スペルチェック機能が標準で搭載されている。つまり「Ginger」を導入すれば、その機能がカブることになる。それでは、「Ginger」が各Webブラウザーのスペルチェック機能と比べて、どう優位なのか、それとも劣っているか、確認してみよう。
一般的な英文スペルチェッカーは、スペルの正誤を単語ごとに判定し、間違っている場合はそれを指摘すると同時に、複数の訂正候補を提示する。「Firefox」に搭載されているスペルチェック機能がまさにそれであり、比較の基準となる。
「Google Chrome」のスペルチェック機能も「Firefox」のそれと同等だったが、今年3月公開のv26で強化された。ただし、強化版のスペルチェック機能は標準で無効化されており、有効化するにはテキストエリアの右クリックメニュー[スペルチェックのオプション]から[候補を表示する]を選択する必要がある。そして、強化版のスペルチェック機能が働く「Google Chrome」では、Google検索の“もしかして”機能に相当する効果を得られる。
たとえば『Thank you for having me.』が正しい英文である場合に、『Than you four having me.』と書き間違えたとする。このとき、強化版のスペルチェック機能が無効化されていると、各単語のスペルをチェックするだけなので、スペルミスがない『Than you four having me.』では何も指摘されない。一方、強化版が有効になっていると、“than”と“four”のミスをグレーのアンダーラインで指摘してくれる。
これは、「Ginger」にも通じる柔軟なスペルチェック機能だが、“もしかして”機能の応用ということからもわかるように、正しい単語と間違えた単語のスペルが似ている場合に威力を発揮するようだ。文脈を考慮する「Ginger」では、『Thank you of having me.』といったように前置詞を根本的に間違えても訂正される。
IEのスペルチェック機能は意外にも歴史が浅く、IE10でようやく搭載された。IE10を標準搭載するWindows 8では、そのスペルチェック機能がシステム全体をカバーする形で実装されている。そのため、今月7日から自動アップデートが開始されたWindows 7用のIE10が、スペルチェック機能を搭載した最初のIEであるとも言えるかもしれない。
IE10のスペルチェック機能は、「Firefox」のそれと同じく一般的なもので、「Ginger」や「Google Chrome」のような柔軟性はないが、ほかに見られない特長がある。それは、英単語の入力を確定した直後、つまりスペースやピリオドを入力した直後に、赤いアンダーラインや訂正候補を表示することもなく、スペルミスを自動で修正してくれる点だ。
もし意図しない訂正が自動で行われた場合は、[Ctrl]+[Z]キーで直前の自動修正をキャンセルできる。なお、自動修正の対象は間違いやすい単語に限られ、それ以外のスペルミスは赤いアンダーラインで指摘される仕組みになっている。
「Ginger」「Google Chrome」「Firefox」「Internet Explorer 10」の中で、文法の訂正を謳っているものは「Ginger」だけであり、“三単現のs”の付け忘れや、複数形・時制の矛盾を指摘・訂正するのも「Ginger」だけなので、「Ginger」がほかよりも数歩先を進んでいる。けれども、「Ginger」が文法ミスを訂正する精度は文章によって大きく左右され、日本人が犯しがちな典型的なミスを見逃すことも少なくない。
筆者個人の見方では、「Ginger」もスペルミスを訂正するだけであり、その範囲が広いと捉えている。しかし、代わり映えのしなかったスペルチェック機能がここにきて進化したことは、今後のイノベーションを期待させる。とくに日本人にとって課題となるのは、日本語を英語へ直訳しまうような“英語らしくない表現”なので、それをも訂正するスペルチェッカーの登場を期待したいところだ。