杜のVR部

第47回

キャラクターがこちらを意識することで感情も没入させるVRアニメ「Henry」

ひとりぼっちのハリネズミの誕生日の行く末は?

 Oculus Riftの開発を進めているOculus VR社は、VRを活かしたゲームや映像体験などのコンテンツを自社内でも制作している。そうした取り組みの一つであるOculus Story Studioは、VRシネマティック映像という、VRで体験する映像の制作を行っているチームだ。

 すでに「Lost」と「Henry」という2つの作品を制作しており、イベント等で展示している。とくにVRでのキャラクター・アニメーションに挑戦した「Henry」については、9月のOculus Connect 2でも展示されていた特徴的なコンテンツだ。今回は、この「Henry」を紹介する。

ボッチのハリネズミ“ヘンリー”の物語

 この作品の主人公はハリネズミのヘンリーだ。

 彼は友達と仲良くなると抱きついてしまうのだが針があるので傷つけてしまい、みんな怖がって友達になってくれない、そんな一人ぼっちの毎日を送っている。プレイヤーはまず、ヘンリーに友達ができない背景を絵本のような表現で説明され、本編はヘンリーの誕生日のシーンから始まる。

 かわいらしい部屋にいるプレイヤー。そして鼻歌を歌いながら奥の部屋からケーキを持ってくるヘンリー。一人ぼっちの誕生日だが、風船でできた犬たちが現れ、一転して楽しい誕生日に。しかし……。

ハリネズミのヘンリー
風船でできた犬たちが現れ、楽しい誕生日に

 そんなストーリーが7、8分の体験に収められている。Ocuus Connect 2ではOculus Rift製品版で体験できたため、Unreal Engine 4を使って作り込まれたかわいらしい3Dアニメーションの世界観を高解像度、低遅延で非常に快適に体験できた。

 また、体験時には床にラグが敷いてあり、ヘンリーのリビングとまったく同じようにラグに座って体験するというものだった。このラグの存在によってプレイヤーの気持ちが落ち着くと同時に、ヘンリーと同じ空間にいるという感覚を強める役割を果たしている点も興味深い。

ラグに座って体験

想起されるのは“感情の没入感”

 さて、このヘンリーを体験してプレイヤーが感じるのは、“感情の没入感”だ。アニメやドラマ、映画で感情移入をしたことがあるかもしれない。VRで描かれることによって、実際にヘンリーが目の前にいることで、彼が感じている“寂しさ”、“失望”、“楽しさ”、“喜び”といった感情を、プレイヤーも同時に感じやすくなっている。

ヘンリーの寂しげな表情

 まさに、“感情の没入感”とも言える感覚なのだが、プレイヤーを引き込むための演出はいたるところに組み込まれている。最も大きいのは、ヘンリーの目線や仕草。ストーリーにプレイヤーが関わることはないが、プレイヤーに近付いてきた時など、ヘンリーがプレイヤーの方に目を向けることがある。こうしたちょっとした“プレイヤーを意識する”演出でプレイヤーは自分がそこに一緒にいる感覚を強め、ヘンリーを一人のまるで命を吹き込まれたキャラクターのように感じるようになるのだ。

 こういった“プレイヤーを意識する”演出はこれまでも採用されてきた。個人開発者のGOROman氏が開発した「Mikulus」では、初音ミクが目線を合わせてくるという演出にプレイヤーも恥ずかしくなるほどだった。

プレイヤーに役割があるべきかどうか

 ヘンリーは一つのVRアニメーションの形を示している。しかし、体験して少し感じたのは、没入感が高くなっていくと、プレイヤーがストーリーに関わらないと物足りなく感じてしまうということ。傍観者という立場では、どうしても自分の役割が見出しにくくなる。ヘンリーの様子を見ながら『さて、自分は一体この世界でどういう存在なんだろう?』と思うのだ。もちろんヘンリーがプレイヤーを意識する演出が若干、その疑問を和らげてはくれるのだが、プレイヤーはヘンリーの友達でもなく、答えを示してくれるわけではない。

体験者はあくまでも第三者だ

 完全な没入を実現する理想は、VRの世界で自分も役割があること。VRのプレイヤーにも役割があり、よりVR内のキャラクターとの関係性を親密にしたのが、PlayStatation VR向けの技術デモとして有名な「サマーレッスン」だ。女の子に勉強や日本語を教える先生という役が与えられる。そして、女の子の質問に対する自分の反応で、ストーリーが分岐する。その結果、感じる感情は、現実に感じるものと非常に近く強烈だ。

サマーレッスン紹介動画
体験時に筆者が感じたのは”恥ずかしさ”だ

 制作コストなどの現実的な問題もあり、プレイヤーにどの程度役割を持たせるかということは、アニメーションのみならず、今後のVRの映像体験では一つのポイントになるだろう。

 「Henry」では、プレイヤーは傍観者ではあるが、これまでのアニメーションなどとは違う、VRだからこそのキャラクターの見せ方を提示していることは確かだ。

 なお、この本編はRift製品版のローンチタイトルとしてOculus Storeより配信される予定だ。そして、Oculus Shareでは現在そのトレイラー版が公開されておりダウンロードが可能。暗闇からヘンリーが現れ、プレイヤーの動きに追従した目や顔の動きを体験できるというもので、少しではあるがプレイヤーを意識する体験を体験することができる。

動くと、合わせてこちらを見てくるヘンリー

※本編のスクリーンショットは「Henry」のプロモーション動画『Henry Premiere in Hollywood』より引用

ソフトウェア情報

「Henry Trailer」(本編は未配信)
【著作権者】
Oculus Story Studio
【対応OS】
Windows(Oculus Runtime for Windows 0.6以降が必要)
【対応ハードウェア】
Oculus Rift DK2
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
1

Oculus Rift DK2版評価PCスペック(参考)

マウスコンピューター G-Tune NEXTGEAR-MICRO im550PA6-SP2
【CPU】
インテル Core i7-4790K プロセッサー(4コア/4.00GHz/TB時最大4.40GHz/8MB スマートキャッシュ/HT対応)
【メモリ】
16GB PC3-12800 (8GB×2/デュアルチャネル)
【グラフィックボード】
AMD Radeon R9 Fury X(4GB)
【fps】
75fps
【ヘッドホン】
Creative Sound Blaster EVO Zx

(もぐらゲームス:すんくぼ)