使ってわかるCopilot+ PC

第73回

メモリ価格が2カ月で5倍に。PCが欲しいなら今が買い時

来年は高性能NPUを搭載した次世代CPUも登場予定だが……

高性能NPUを搭載した「Copilot+ PC」

いつ買うか?

 2024年6月に「Copilot+ PC」が登場してから、1年半ほどが経過した。PCを2年ほどで買い替える方は、最近はあまり多くはないかもしれないが、バッテリの消耗などを考えて買い替えるヘビーユーザーもいらっしゃるはず。

 PCは2年も経つとCPUの世代が進み、性能の向上や新機能の追加もある。高性能なNPUを搭載する「Copilot+ PC」もその要素の1つである。特にAI分野は進化が早く、AIの利用を重視している方は最新の環境を持っておきたい。

 では次の「Copilot+ PC」をいつ買うかという問題。これが現在、大変悩ましい状況に陥っている。これは「Copilot+ PC」に限らず、それどころかPCだけにも留まらない。現状を把握して、この先どうするかを考えてみよう。

「Copilot+ PC」対応の次世代CPUが登場予定

 まずは次世代CPUについて。現在の「Copilot+ PC」に搭載されているCPUは、Qualcomm製の「Snapdragon X」シリーズ、Intel製の「Core Ultra 200V」シリーズ(開発コードネームLunar Lake)、AMD製の「Ryzen AI 300」シリーズとなっている。

 このうちIntelは、新製品となる「Core Ultra シリーズ3」(開発コードネームPanther Lake)を搭載したPCが2026年前半に登場予定としている。NPUが高効率化されるとともに、現行の「Core Ultra シリーズ2」では「200V」シリーズのみだった「Copilot+ PC」対応が、広く進むことになる。

 Qualcommも、新製品の「Snapdragon X2」シリーズを搭載した製品が2026年前半に登場予定としている。NPUの性能がほぼ倍増の80TOPSに引き上げられ、「Copilot+ PC」の要件を大きく上回るAI性能を発揮する。

 これらの製品が来年早いうちに入手できるとなると、今は新製品の登場を待つ方が得策と考えられる。特に、現行の「Copilot+ PC」をお持ちの方は、アップグレードを考えれば新製品しか選択肢はない。

AI需要でメモリ価格が暴騰中

AI需要でメモリ価格が暴騰中

 ということで、今から「Copilot+ PC」を買おうと思っている方は、来年の新商品発表まで少しだけ待っておくといいだろう。……と言ってまとめたいところなのだが、今に限ってはそうもいかない事情がある。

 その象徴的なニュースが、Crucialブランドの終了だ。

 Crucialは、各種メモリ製品を開発・製造する世界有数の半導体メーカー、Micron Technologyの一般消費者向けブランド。PCのメインメモリやSSDではメジャーなブランドで、自作PCを組む方なら知らない人はいない。秋葉原のPCパーツショップでも、どの店に行ってもほぼ間違いなく取り扱いがある。

 その人気ブランドが、いきなり世の中から消える。その理由は、売り上げ不振ではなく、AIによる需要の急増に対応するためである。

 ここで言うAIは「Copilot+ PC」のような個人向けのものではなく、データセンターなどで扱われるエンタープライズ向けのもの。マイクロソフトで言えば「Copilot」を動かすためのサーバーだ。これを動かすのに、大量のメモリやストレージが必要になる。Micronはそちらに全力をそそぐべく、一般向けのCrucialブランドを閉じるというわけだ。

 半導体の工場は、今日用意して明日できるというものではなく、年単位の時間がかかる。今はAI関連の需要が急増していて、メモリやストレージはあるだけ欲しい状態かもしれないが、1年、2年と経ったら状況が変わっているかもしれない。工場ができた頃には需要が落ちついたり、他社も大幅増産して供給過多になったりというリスクがある。

 それだけAI需要は急激で、先を読みきれなかったということだろう。ここ1~2年のAI利用状況の変化や、各社のAIモデルの進化を見れば、急激な変化は容易に実感できる。

 メモリの価格高騰は、既に秋葉原のショップにも現れている。現在のデスクトップPCで人気の中心となるメモリ製品は、DDR5-5600の32GB(16GB×2)あたりかと思うが、2カ月前の10月頭には1万円程度から入手できたものが、12月頭には3万円台後半まで高騰している。

 さらに数日経った現在、筆者が調べた範囲では、既に4万円台後半から5万円あたりが相場になっている。価格動向から見て、まだ上げ止まる気配もない。尋常でない状況にあることは一目瞭然だ。

価格.comに掲載されているDDR5-5600の32GB(16GB×2)の製品のうち、12月11日時点で最も安価なもののグラフ。ここ1年ほど安定していた価格が異常に跳ね上がっている

 メモリ以外にも、SSDも値上がり傾向。メモリとSSDはデスクトップPCにもノートPCにも共通で必要な部品なので、来年登場する「Copilot+ PC」の価格は、このままだと現状よりぐっと高価になってしまう。

 そして、原因がAI需要である以上、どこで需要が落ち着くのかも見通せない。数年前、暗号通貨のマイニングの需要でGPUが高値になったことがあったが、今回はそれより値動きが激しく、先々の需要が見通せない。Micronのような大企業が一般向け商品を諦めるほどの状況なのだから、すぐに落ち着くということはないのだろう。

「Copilot+ PC」の買い時は間違いなく今

 先日Xに投稿されたマウスコンピューターのツイートも、大きな反響を呼んでいる。ツイートにその理由は書かれていないが、今後の価格高騰を示しているのだと思われる。



 メーカー製PCは、在庫があるものに関しては価格を上げずに対応できる。しかし在庫が尽きた後は仕入れ価格が上がる分、製品価格も上げざるを得なくなる。よって、必要なら今買うべきということになる。「Copilot+ PC」が欲しいなら、今が買い時なのは間違いない。

 ただ悩ましいのは、「Copilot+ PC」なら何でもいいわけではない。特に次世代CPUを搭載した製品が欲しいなら、今買う選択肢はないわけで、この先の価格が少しでも落ち着いてくれることを祈るしかない。32GBのメモリを搭載すると10万円アップ、なんてことになっても文句は言えない。

 次世代CPUが登場した後も、「Copilot+ PC」の要件が変更されたり、「Copilot+ PC 2」のような新仕様が出るという動きは今のところなさそうだ。とにかく「Copilot+ PC」が欲しいなら、PCメーカーの在庫商品がある今のうちに検討した方がいい。

 なお、本連載が「Copilot+ PC」の話題を展開しているのでこういう書き方になっているが、値上げは当然、PC全般に波及する。もっと言えば、メモリを搭載するあらゆる製品に影響が及ぶだろう。スマートフォンやゲーム機なども価格の据え置きは難しくなるかもしれない。その辺りも注視しつつ、賢く買い物をしていただければと思う。

 それにしても、AI PCである「Copilot+ PC」が、AIのせいで入手困難になるとは皮肉な話だ。今はAIと言えばクラウドサービスのイメージが強いが、端末側で処理するエッジAIと併用することで効率的かつ柔軟なサービスが生まれる。その両輪がうまく回るよう、状況が好転することを願う。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/