使ってわかるCopilot+ PC

第44回

バッテリー換装と958gだけじゃない。最高の使い心地を求めたAIノートPC「dynabook XP9」

「dynabook XP9」

Dynabookの「Copilot+ PC」が登場

 Dynabook株式会社が発売した「Copilot+ PC」、「dynabook XP9」を試用する機会を得た。これまで本連載ではQualcomm製CPUを搭載した製品を扱ってきたが、今回はIntel製CPUを搭載したものとなっている。

 本機の特徴は、958gという軽量であることに加え、ユーザー自身でのバッテリー換装に対応していること。最近のノートPCはそう簡単にバッテリーを交換できない設計になっているものが多いが、本機は「セルフ交換バッテリー(L)」というオプションパーツが用意されており、ユーザー自身が交換できる。

 製品発表時にもこの点が大きくアピールされていたが、本機に実際に触れてみると、日々の使い心地を徹底的に追及していることが感じられる。筆者が特に優れていると感じた部分を中心に紹介していこう。

使い勝手の良さにこそ魅力がある

 まず目が行く点として、電源ボタンがキーボードから独立した位置にある。最近のノートPCでは、特に小型の製品において、キーボードの右上の列に電源ボタンが置かれていることが多い。

電源ボタンはキーボードの右上、枠外に配置

 電源ボタンをキーボード部に組み入れると、見た目はスマートで省スペース化にも貢献する。さらに電源ボタン専用の部材が減ってコストカットにつながる。最近のPCは電源ボタンを押してもスリープに入る程度なので、うっかり押したとしても大問題にはならない。とはいえ、『怖いから他の場所に置いてくれ』という気持ちを抱くのもわかる。

 本機はキーボード右上の独立した場所に配置されている上、ボタンの高さが筐体に対してフラットになっており、誤って押すことがないよう配慮されている。細かいことではあるが、日々使用する際の僅かなストレスがないことは有意義だ。

 次は端子の配置。本機はThunderbolt 4端子が左右にあり、どちら側からでも充電できる。モバイル環境であれば使用する場所によって、充電端子を左右どちらでも使えるのはちょっと便利だ。しかもUSB PDの充電器が使えるので、スマートフォン用の充電機を流用したりもできる(出力によっては充電速度が遅くなる可能性はある)。さらにUSB Type-Aも左右1つずつあり使いやすい。

本体左側面。USB Type-C形状の端子がThunderbolt 4
本体右側面にもThunderbolt 4を搭載。どちらからでも充電できる

 端子部といえば、本機はモバイルノートPCでは今や珍しくなった有線LAN端子も搭載している。端子部の変形機構もなく、ストレートに挿し込める。モバイルノートPCで有線LANを必要とする方も少なくなってきたとはいえ、やはり欲しいと感じる方には重要なポイントだ。

 筐体の角が全て丸いのも昨今では貴重なデザイン。見た目にもっさりした印象を受けてしまうし、薄さを強調するという点でも不利に感じる。しかし手に持った時の感触は格段にやさしく、特にモバイルPCとしての使用感は良くなる。マグネシウム合金製の筐体は、軽量ながら質感もよく、派手さはなくとも高級機らしい丁寧な仕上がりだ。

角がない丸みのある筐体。最近は天面フラットで角がついたものが多い印象

 ディスプレイはタッチパネルではないが、非光沢タイプ。これも好みが分かれる部分ではあるが、こちらの方が実用性が高いと感じる方はいるはず。ディスプレイ上部にあるWebカメラは500万画素と解像度が高めで、物理シャッターも搭載している。Windows Hello対応なのでシャッターを使う人は少ないのではと思いつつ、欲しい人には欠かせない機能だろう。細かいところで高性能かつ気が利く設計だ。

タッチパネルより非光沢パネルが欲しいという声は多そう
高性能Webカメラには物理シャッターも搭載。手でスライドして開閉できる

 バッテリーの換装が本機の大きな個性であることは確かだが、それ以外にも魅力は多い。「細かい部分の使いやすさ」や、「人によっては欲しい機能」がきっちり詰め込まれているのがわかる。ここに価値を見出せるのかどうかで、本機の評価は大きく変わる。

 こういった部分はコストに跳ね返るため、本機は決して安くはなく、万人向けとは言えない。しかし妥協なくこういった仕様を入れつつ、無理なく軽量なモバイルノートPCに仕上げているのは、Dynabookが長年積み重ねた確かなノウハウと技術力の表れであろう。その快適さの上に、AIノートPCとしての新たな体験が加わるわけだ。

背面。バッテリの脱着はネジ2点を外す必要があり、うっかり外してしまう心配はない

軽量モバイルに充実の機能を搭載

 せっかくなのでベンチマークテストも試してみた。まず本機のスペックの確認から。

スペック
CPUCore Ultra 7 258V(8コア)
GPUIntel Arc 140V(CPU内蔵)
NPUIntel AI Boost(47TOPS)
メモリ32GB LPDDR5x
SSD512GB(PCIe 4.0)
ディスプレイ14型非光沢液晶(1,920×1,200ドット)
OSWindows 11 Home
汎用ポートThunderbolt 4×2、USB 3.2 Gen1×2
カードスロットmicroSD
映像出力HDMI×1、Thunderbolt 4×2
無線機能Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4
有線LANGigabit Ethernet
電源65W USB PD
その他500万画素カメラ(Windows Hello対応、シャッター付き)、ヘッドセット端子、デュアルマイクなど
本体サイズ約312×222.5×18.7~18.9mm
重量約958g
価格29万円台前半(実売予想価格)

 CPUの「Core Ultra 7 258V」は、開発コードネーム「Lunar Lake」として知られる製品。CPUのパッケージにメインメモリを実装しているのが特徴で、型番の「V」の1つ手前にある数字でメモリ搭載量がわかる。本機の場合は8なので32GB。6だと16GBになる。

 Intel製CPUで「Copilot+ PC」の要件である40TOPS以上のNPUを搭載しているのは、2025年5月時点では「Lunar Lake」、製品名では「Core Ultra 200V」シリーズのみとなっている。型番の最後が「V」ではないものは、現状では「Copilot+ PC」ではないということになる。

 価格の29万円台前半というのは、製品発表時に実売予想価格として発表されたもの。執筆時点だと家電量販店で29万円強だが、10%ポイント還元としているところが多い。また同社の直販サイトでは、本機と同等のオリジナルモデル「XPZ」シリーズを展開しており、会員登録すれば割引価格で購入できる。

 ではベンチマークテストの結果を見ていこう。

「PCMark 10 v2.2.2737」
PCMark 106,632
Essentials9,926
Productivity8,947
Digital Content Creation8,912
「3DMark v2.31.8385 - Speed Way」
Score488
「3DMark v2.31.8385 - Steel Nomad」
Score764
「3DMark v2.31.8385 - Port Royal」
Score1,794
「3DMark v2.31.8385 - Solar Bay」
Score14,401
「3DMark v2.31.8385 - Time Spy」
Score3,661
Graphics score3,453
CPU score5,571
「3DMark v2.31.8385 - Fire Strike」
Score7,402
Graphics score8,443
Physics score16,363
Combined score2,696
「3DMark v2.31.8385 - Wild Life」
Score22,282
「3DMark v2.31.8385 - Night Raid」
Score26,821
Graphics score37,013
CPU score10,476
「3DMark v2.31.8385 - CPU Profile」
Max threads5,407
16-threads4,052
8-threads4,204
4-threads2,886
2-threads1,956
1-thread1,125
「CINEBENCH 2024」(10 minutes)
CPU(Multi Core)455pts
CPU(Single Core)120pts
MP Ratio3.81

 全体として、グラフィックスの性能はかなり優秀。強力なGPUを内蔵しているのも「Lunar Lake」の特徴の1つで、軽めのゲームや一昔前の作品であれば十分動かせる性能がある。

 CPU性能はシングルスレッドではとても高い性能を見せるが、マルチスレッドではクロックが制限され、8コア搭載の割には控え目な結果になった。軽量モバイルノートPCなので、発熱や消費電力を抑えるチューニングがなされている結果だろう。それでもこれだけの性能が出ているなら、モバイル環境で力不足を感じるほどのことはないはずだ。

 バッテリー交換という独自性を強調したPCではあるが、実際に使ってみるとモバイルノートPCとしての使い心地を追求したリッチな製品であることが伝わってくる。軽量でありながら、拡張端子は充実していて配置も優れている。一般的なノートPCとして不満を感じる点は見当たらない。

 本機は派手さはなく落ち着いたデザインで、それでいて安っぽくもない、どちらかといえばビジネス向けの製品と言える。「Copilot+ PC」を使ってみたくて、なおかつモバイル環境の実用性を追求した製品を求めている方にはうってつけの1台だ。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/