【第457回】
同人ノベルゲーム体験版特集
8月の“コミケ”で頒布される新作や制作中の作品の体験版を紹介
(11/07/29)
インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、選び抜いた良作を毎週紹介している『週末ゲーム』。今回は、8月12日から14日にかけて開催が予定されている国内最大規模の同人誌即売会“コミックマーケット”を目前に控え、“同人ゲーム”をテーマとした特集をお届けする。
同人ゲームは、フリーソフトやシェアウェアと同様に個人や趣味のサークルによって制作されているが、発表の場は全国各地で開催される即売会や、専門ショップでの委託頒布が中心となっている。また最近では、ダウンロード販売される例も増えつつある。
今回は、ノベルゲームに的を絞り、体験版が用意されているオリジナル作品4本を紹介する。このうち3本は、8月の“コミックマーケット80”で発表される予定の新作、もう1本は現在制作中の作品だ。ウェスタンからサスペンスまでさまざまなジャンルの作品を紹介しているので、ぜひ自分好みの作品を見つけてプレイしてみよう。
ウェスタン風の架空世界を舞台とした冒険活劇「DEAD END JUNCTION」
1本目は、ウェスタンをモチーフにした冒険もの「DEAD END JUNCTION」を紹介しよう。「DEAD END JUNCTION」は、#1から#4まで4作のリリースが予告されており、本体験版ではその1作目となる“#1 Good day to migration”の序盤部分、30分程度をプレイできる。#1の完成版は8月13日に“コミックマーケット80”で頒布開始予定となっており、委託頒布も予定されている。
物語の舞台となるのは、アメリカの西部開拓時代を思わせる世界だが、獣人族という現実世界には存在しない亜人が存在し、獣人族と人間とで北部と南部に分かれて戦った“国境戦争”など、現実世界とは異なる歴史をもっている。
主人公の“ジョゼット・ジョーストン”は、『この街より西に金なし酒なし法もなし』と冗談まじりに言われる田舎町“カウストンベル”で、カウガールとして暮らしている少女。彼女の父親は戦争で英雄と讃えられた人物だが、幼い頃に彼女を置いて行方知れずとなっている。母も他界していることから、叔父の“ジョブス・キャロダイン”との2人暮らしだ。本体験版では、故郷から旅立ちガンマンとなることに憧れている彼女が、ある出来事をきっかけに旅立つまでが描かれる。
本作は、カットインによるイラストと吹き出しによるセリフ表現、描き文字による擬音表現を次々とテンポよく表示していくという、マンガを強く意識した、しかも動きのある演出が特徴だ。また、哀愁を帯びうらぶれたBGMや吹きすさぶ風の音といった効果音、そして“銃撃戦(ガンファイト)”のように漢字とカタカナ表記された英語の組み合わせといった、ウェスタン気分を盛り上げる演出の数々も見どころだ。
マンガ的な要素を積極的に取り入れることで、アクションや物語の雰囲気がうまく表現されているほか、プレイ時間が比較的短いこともあり、普段小説やノベルゲームを読み慣れていない人でも楽しく読み進めることができる作品に仕上がっている。
- 【著作権者】
- atelier773
- 【対応OS】
- (編集部にてWindows XP/7で動作確認)
- 【ソフト種別】
- 体験版
- 【バージョン】
- -(11/06/30)
月面都市を舞台にした経済モノSFストーリー「WORLD END ECONOMiCA」
2本目は、月面に作られた移民都市を舞台にしたSF作品「WORLD END ECONOMiCA」を紹介する。本作は三部作構成で、1作目が8月13日の“コミックマーケット80”で頒布開始予定。また、14日より同人ショップでの委託頒布も開始される予定だ。体験版では物語序盤の約2時間弱がプレイ可能となっている。
月への移民が落ち着いてから16年後。物語は月で生まれ育った少年“ヨシハル”がネットカフェで目を覚ますところから始まる。彼は現在家出の身であり、ネットカフェでオンライントレードによる株式売買に一日を費やす生活を送っている。なぜなら、彼の夢は人類が次の一歩を踏み出すとき、その最前線で前人未到の地に立つことだからだ。
そのために、世界の富の7割を独占していると言われる、月面都市の中心部“ニュートンシティ”で暮らす限られた成功者たちの一角に食い込む必要があると考えた彼は、すでに種銭の72倍まで資金を増やすことに成功していた。しかしその日は運悪く、家出少年の補導のために巡回する警官がネットカフェを訪れ、取引も早々に逃げ出す羽目となってしまう……。
本作は画面に表示されたキャラクターの立ち絵や、物語の山場で表示される一枚絵などとともに、画面上に表示された文字を読み進めていくオーソドックスなノベルゲームだが、SF作品ならではの背景世界の作り込みが大きな魅力だ。
主人公の株式売買に伴う架空世界での経済活動が大きなテーマとなっており、月面都市や、その時代の地球の現状といった時代背景や社会的な出来事への言及が、物語中にたびたび登場する。さらに、店舗や家屋などで利用されている設備の大部分が月面で採取あるは自足できる木製品や鉄製品に限られているといった設定や、現代との常識の些細な食い違いといった、架空の舞台に現実感をもたせていく細かな描写の積み重ねが、SFならではの楽しさを感じさせる内容となっている。
- 【著作権者】
- Spicy Tails
- 【対応OS】
- (編集部にてWindows XP/7で動作確認)
- 【ソフト種別】
- 体験版
- 【バージョン】
- -(11/05/16)
幽霊少女との同居生活?ちょっとしんみりとするコメディ作品「クリアレイン」
3本目は、独り暮らしを始めた大学生が出会ったちょっと不思議な出来事を、ボロアパート“苑馬荘”に住む賑やかな住人たちの日常を交えて描いた自称“幽霊的モラトリアムノベル”「クリアレイン」を紹介しよう。8月13日の“コミックマーケット80”で頒布開始が予定されており、体験版では1話完結型の全5章構成のうち第1章、約2時間分を丸々遊ぶことができる。
五名山大学の二回生“千崎 凪(ちさき なぎ)”は、念願の独り暮らしを始めたばかりにも関わらず、毎日のように同じアパートの住人にして、高校以来の親友で同じ大学の二回生“蓮水 アリス(はすみ ありす)”の部屋に入り浸ってばかり。というのも、引っ越したばかりの自室には女の子の幽霊がおり、日常が壊れるのを恐れて逃げ回っていたのだ。しかし、意を決して話しかけてみると外見だけでなくしぐさもとても可愛らしく、あっさりと問題解決することに。
しかし、問題の幽霊少女“霞(かすみ)”は、声を出すことができず、凪以外の人には見ることもできなかった。部屋にあったサインペンとスケッチブックを使って筆談を交わすふたり。そして、凪はアリスや、同じアパートに住む大学の先輩“奈良原 空(ならはら そら)”へ霞の友達になってくれるように頼むのだった。新たな友人としての霞との関係に満足する凪だったが、霞の心にはある想いが降り積もっていき……。
本作は、基本的な画面構成こそオーソドックスなノベルゲームの作りながら、キャラクターの会話はマンガ風の吹き出しで立ち絵の横に表示され、主人公視点のモノローグ部分といった地の文章が、画面下部のメッセージ領域に表示されるスタイルが印象的。本作ならではの賑やかさの演出に一役買っている。
また、個性的な登場人物が多いのも特徴だ。体験版に限定しても、上記のキャラクターに加え、主人公の隣室に住み主人公を全面的に嫌っている大学二回生の“不動 紫(ふどう ゆかり)”や、大学の後輩で酒屋の息子“江渡 将太(えわたり しょうた)”、外見はまるっきり幼児ながらアパートの管理人を勤め、住人からは“エンマさん”と呼ばれる謎の人物などが登場し、アパートでの賑やかな生活を彩ってくれる。コメディ系ながら、ホロリとさせられる作品が読みたいという人にオススメしたい作品だ。
- 【著作権者】
- 宴
- 【対応OS】
- Windows 2000/XP/Vista/7
- 【ソフト種別】
- 体験版
- 【バージョン】
- -(11/04/08)
重厚で重苦しい雰囲気が魅力の西洋ロマンサスペンス作品「ファタモルガーナの館」
最後に紹介するのは、住む人に不幸をもたらすと言われる呪われた館を舞台とした、サスペンス作品「ファタモルガーナの館」。今回紹介している作品のうち、本作のみ今夏の完成予定ではなく、現在制作中の作品となっている。体験版では、物語中で語られる1番目の物語を丸々楽しむことができ、プレイ時間は2時間半程度となっている。
“あなた”はふと気付くと、暗闇に包まれた屋敷でロッキングチェアーに揺られており、その傍らにはあなたを“旦那さま”と呼ぶ青白い顔をした生気のない女中がたたずんでいた。しかし、あなたはその女中のことはもちろん、自分が何者であるのかすら覚えていない。そんなあなたに女中は、この屋敷の歴史を知ることで記憶を思い出すことができるはずだと告げ、あなたのことを屋敷の歴史が眠る場所へと導いていく。
最初に案内されたのは、ぼろぼろで色あせた中庭への扉。そこからは子供の笑い声が聞こえており、扉を潜ったあなたは、この館がかつて“薔薇の館”と呼ばれていた時代を目にすることになる。そこにはさまざまな薔薇が咲き誇る美しい庭と、そこで戯れる幼い兄妹の姿があった……。
本作は西洋ロマンサスペンス作品と銘打たれており、この屋敷に関わることで不幸になっていく人々の姿や、記憶を失っている“あなた”とは一体何者なのか、そして“あなた”が見せられる過去の時代の舘においても、今と変わらぬ姿でいる女中の正体は何なのか……といった謎が、重苦しくも重厚な雰囲気の背景やキャラクターイラストと共に展開していく。また、ゲーム起動時にヘッドホンの利用を推奨する案内があるほど音響面に力が入っているのも本作の魅力だ。本作オリジナルの楽曲に乗せて流れる西洋の声楽作品を思わせる歌声や効果音が、物語の雰囲気や緊張感を大いに盛り上げてくれる。
なお、本体験版ではあまりグロテスクな描写などはないが、ゲーム開始時には全年齢対象作品ではあるものの、流血や暴力・精神的不安を煽る描写が存在する旨、警告が表示される。完成版ではショッキングなシーンも登場する可能性が高いので注意が必要だ。
- 【著作権者】
- ノベクタクル
- 【対応OS】
- Windows 2000/XP/Vista
- 【ソフト種別】
- 体験版
- 【バージョン】
- 1.20