“de:code 2017”レポート

すでに始まった“声”のビジネスを支える“Cortana”

日本マイクロソフトCTOが語る“アンビエントコンピューティング”

日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 榊原彰氏

 日本マイクロソフトが2017年5月23日から2日間、都内で開催した開発者/IT技術者向けイベント“de:code 2017”。本稿では138におよぶセッションから、“CTOが語る! 今注目すべきテクノロジー”の概要をご報告する。日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 榊原彰氏は、『システム開発は“DataDevOps”に移行する』と開発者が直近する障壁を解説した。

次のキーワードは“アンビエントコンピューティング”

 米Deloitteが2015年に発表したテクノロジートレンドの1つ“アンビエントコンピューティング”は、あらゆる場所にデバイスが存在し、必要な時に利用できる形態を指すキーワードである。榊原氏はAmazon EchoやGoogle Home、LINEのWAVEなど各社のスマートスピーカーを指して、『すぐそこに“声”の時代が来ている』(榊原氏)と語る。MicrosoftもパーソナルアシスタントCortanaを搭載した“Harman Kardon Invoke”が2017年秋にリリースされることを表明しているが、ここで重要になるのが後述する「Cortana Skills Kit(スキルキット)」だ。

 既に4億以上のデバイスに搭載し、130億以上の質問に回答可能となったCortanaは、1,000以上のアプリケーションに統合され、毎月1億4,500万人のアクティブユーザーが存在するという。MicrosoftはCortanaの機能を一部OEMパートナーに提供しており、家電メーカーや自動車メーカー、そしてHarman Kardonもその1つである。

 これまでも音声インターフェイスは各社が注力してきたが、榊原氏はCortanaのアドバンテージを次のように語った。『パーソナルアシスタントという生い立ちを持つCortanaは、人の行動を先回りして気付き与える機能を持つ。AmazonもAlexaを各メーカーに提供し、組み込んでもらうためのデバイス開発キットやスキルズ開発キットを用意しているが、我々はデバイスを作る計画はない。あくまでもパートナーのデバイスにCortanaを組み込んでもらう施策を続けていく』(榊原氏)と自社戦略を説明する。

日本マイクロソフトによる各音声インターフェイスの機能比較表

“声”を核としたUIを実現する「Cortana Skills Kit」

 “声”のビジネスはすでに始まっている。米マクドナルドのドライブスルーでは、「Microsoft Dynamics 365」と「Microsoft Cognitive Services」の音声処理APIを利用し、聞き取りにくい環境でも正しく注文内容を分析して、調理担当者へ情報を伝える仕組みを実証実験中だ。例えばピクルス抜きといった細かい注目にも対応し、『ビジネスの鍵は“声”』(榊原氏)と説明も合点がいく。このようにアンビエント=周囲・環境のあらゆるデバイスと人間が対話し、音声やタッチ、ジェスチャーなどのNUI(ナチュラルユーザーインターフェイス)が主流になりつつ、『“子どもの様子を見せて”などSF映画のような世界』(榊原氏)がもう少しで訪れそうだ。

左側は注文者の声をテキスト化した状態。右側は内容を分析してオーダー表を作成。細かく見るとサイドメニューやドリンクなども細かくピックアップしている

 さて、その“声”を核としたUIを実現するのが、前述した「Cortana Skills Kit」である。Microsoftが2016年11月に発表した「Cortana Skills Kit」は、人間がCortanaに話しかけるとSkillsが必要なサービスに接続し、音楽のダウンロードやスケジュール管理、レストラン予約などを教え込むというもの。

 現在選択できるスキルとして、“Native Skills”“Pre-defined/Extensible Skills”“Custom Skills”“Interaction Model”が用意されている。Cortanaに含まれるスケジュール確認やフライト予約といった基本的な機能であれば“Native Skills”、コンテンツの取得など好みに応じて機能を拡張する際は“Pre-defined/Extensible Skills”、同じくカスタマイズを用いるが業務アプリケーションに音声機能を組み込む場合は“Custom Skills”が向いている。そして、さらに高度な処理が必要であれば“Interaction Model”を選択するという。“Interaction Model”に関する詳しい説明は割愛していたが、「Microsoft Cognitive Services」を使用してユーザーとの相互作用を実現するような場面に用いるようだ。

Collectionスキルキットの概要

システム開発はデータ戦略主導

 『現在のビジネスは“データ収集ゲーム”』(榊原氏)だ。例えばポイントサービスを提供する企業は、収集したデータをビッグデータとして機械学習や分析に利用し、そこから得た知見を自社ビジネスへフィードバックしている。もちろんプライバシーは配慮されているはずだが、分析結果からは消費行動などが得られるため、新たなビジネスチャンスにつなげることも可能だ。

 ここで重要になるのが前述したアンビエントコンピューティングである。我々の身近に存在するデバイスが“無限のデータ収集環境”となり、各家庭から得られるデータエントリーはデータ収集の貴重な機会となるため、注目している企業が多い。一見すると違和感を覚える話だが、その結果としてアンビエントコンピューティングに我々の生活行動を認識させ、帰宅時にはエアコンを付ける、シャワーの準備を行うといった先回りの行動を可能にし、結果的に我々のクオリティ・オブ・ライフ向上につながる。

『戦略がなければビッグデータは“宝の山”とならない』(榊原氏)

 さらに今後はプログラムやアルゴリズムよりも、データの内容や分析、評価が重要になると榊原氏は語る。Microsoftはパラメトリックな手法でアルゴリズムを開発してきたが、これからはAI(人工知能)に代用させ、そのAIに学習させるためのデータの方が重要になるため、『システム開発はデータ戦略ドリブンであるべき』(榊原氏)だと今後の課題を掲げた。

 これらの思考をもとに学習モデルの開発を“学習アルゴリズムの準備”“学習データを用いた予測モデル構築”“検証用データを用いたモデル評価”をPDCAサイクル的に回していくのが重要だと榊原氏は語る。続けて、『ビジネスを小さく産んですばやく回すリーンスタートアップを重視すべき』と説明した。プロセスイノベーションでは、最小ロットで回して上手くいったら拡張し、失敗したら修正する方法が革新につながるため、せっかく生み出した新技術を活用するために、開発者の意識も変える必要があるのだろう。

 その上でデータ戦略主導を実現するには、『前後に多くのプロセスが発生する。アンビエントコンピューティングの世界に移り変わっても、戦略がなければビッグデータは“宝の山”とならない』(榊原氏)と警鐘を鳴らしつつ、“DevOps”というキーワードは“DataDevOps”となると直近の未来を語った。

新技術をビジネス化するまでの注力ポイントも説明
プロセスイノベーションを起こすためのキーポイント