#モリトーク

第83話

Sleipnirが物語るBlink効果

 Google社が今年4月、Webレンダリングエンジン“Blink”の開発を発表すると、すでにWebkitへの切り替えを決断していたOpera社や、「Sleipnir」を開発するフェンリル社もBlinkの採用を表明。その翌月には、Blinkを搭載した「Google Chrome 28」のベータ版が公開された。

「Sleipnir 4 for Windows」Blink Engine Preview Build

 注目すべきは、本コラムの第58話でも取り上げたように、Blinkを搭載した最初のWebブラウザーが実質的に「Sleipnir」だったこと。また、Blinkの影響・恩恵をもっとも受けているWebブラウザーが「Opera」であり、「Sleipnir」であるということだ。

 オリジナルのWebレンダリングエンジンから脱却した「Opera」は、Blink搭載を機にゼロから再スタートした。旧シリーズと比べたら機能がまだまだ不足しているものの、着実に前進しており、その過程を楽しむだけでもオンラインソフトとしての存在価値は大きいだろう。

 もともとIEコンポーネントを採用するWebブラウザーだった「Sleipnir」はバージョン3.5から、メインのレンダリングエンジンをWebKitへ切り替え、「Google Chrome」互換となった。そして、先週公開された最新版の「Sleipnir 5」ではIEコンポーネントの“Trident”エンジンが非対応になると同時に、Blinkへ一本化された。

 「Sleipnir 5」での変化はそれだけではなく、「Opera」と同様、Blink搭載をきっかけに完全な新製品として生まれ変わった点も見逃せない。フォントをなめらかに描画するアンチエイリアス機能や、ユーザーインターフェイスの大幅改良など、その完成度は「Opera」のそれを圧倒する。

 旧バージョンからの「Sleipnir」ユーザーは、変化の幅が大きい「Sleipnir 5」を否定的に受け取るかもしれない。しかし、筆者がBlinkや「Opera」に期待していたことはまさにこれであり、“Blink効果”なのだ。近年のWebブラウザーはコモディティ化が進み、拡張機能が普及したこともあって、どのWebブラウザーを選んでも大きな違いはなかった。乱暴に言えば、退屈だったのだ。

「Sleipnir 3 for Windows」v3.5
「Sleipnir 5 for Windows」

 プラットフォームとして見たWebブラウザーでは、できるだけ変化を感じさせないほうがよい。たとえば、Googleサービスとの親和性が高く、ユーザー数も多い「Google Chrome」の場合、“新しいタブ”のデザイン変更や、拡張機能の規制強化などが発表・実施されると、反対の声が多く挙がる。主役がWebブラウザーではないため、こういった意見や感想は当然のことだろう。

 一方、オンラインソフトとして見たWebブラウザーには、使う楽しさだけでなく、新機能が搭載されたときのワクワク感も期待したい。筆者が本コラムで「Opera」を頻繁に取り上げる理由もそれであり、Blinkはそのきっかけとなる可能性を秘めていた。日本のオンラインソフト界を代表する「Sleipnir」の変わらない姿勢を確認できたこともまた、“Blink効果”のひとつだと言えるかもしれない。

(中井 浩晶)