週末ゲーム

第664回

少女と妖精、ふたりの小さな大冒険!魔法の種を育てるRPG「リリアン・クー」

防御力を削り合うテクニカルなバトルも魅力。自由度の高い探索を楽しめる良作

 『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、魔法の種を育ててキャラクターを強化していくRPG「リリアン・クー」を紹介しよう。

魔法の種を集めてキャラクターを強化。自由度の高い探索が楽しめるRPG

魔法の果樹園で妖精のクーと一緒に暮らしているリリアンは、レヴァリーの依頼により魔法の種を探す冒険に出発する

 「リリアン・クー」は、“魔法の果樹園”で暮らしている少女リリアンと、妖精クーのふたりが主人公のRPG。物語は、ふたりのもとへレヴァリーと名乗る男が訪れたことから始まる。彼によると、果樹園の南の遺跡に封印されていた魔王が解放されてしまったため、再封印のため果樹園に“魔法の種”を植えて“マナ”を増やす必要があるという。レヴァリーの依頼により、リリアン達は魔法の種を集める冒険に出発する。

 “魔王の再封印”というと大仰だが、長年の封印やレヴァリーが力を抑え続けていることで魔王は弱体化しており、それなりに余裕はある状況。『“ピクニック”だと思えばいいのですよ☆』というレヴァリーの言葉もあり、リリアンとクーの冒険は賑やかながら牧歌的なムードで進行する。行く先々で出逢う人々との交流やコミカルな掛け合いも描かれる、明るい作品となっている。

 ゲームの基本的な流れは、果樹園を拠点として各地を冒険し、魔法の種を発見したり、人助けのお礼に貰ったりして果樹園に持ち帰って育てるというもの。育った種を収穫するとアイテムなどを入手できる。その中には探索に役立つものもあり、これによりリリアン達は行動範囲を広げていく。

 種は冒険を進めたり戦闘をすることによりゲーム内時間が進むことで育っていくので、種を植えたら新たな冒険に出かけて戻ったら成長を確認、育ちきっていたら収穫してさらなる冒険へ……といったサイクルで、冒険の進行をテンポよく実感していけるのが醍醐味。序盤から、『今後アイテムを入手したら何かが起きそう』と期待させる場所も多々あり、冒険のワクワク感が演出されている印象だ。密度が濃い分、全体のマップサイズは歩き回っても苦にならない程度のコンパクトさにまとまっており、目標はありつつも気軽に楽しめる、“小さな大冒険”が展開する。

さまざまな場所を探索したり、人々の頼み事を聞きながら冒険を進めていく
種を撒き、しばらくすると収穫が可能となる。肥料をやって成長速度を早めることも可能
さまざまなアイテムを活用して探索を進めていく

 冒険中に敵を倒してレベルアップしても、リリアンとクーのステータスは一切上昇しないのも本作の特徴。HPとMPの最大値は種を収穫することで上がっていく。また、攻撃力にあたる“ATK”と防御力にあたる“DEF”は探索や収穫で入手できる装備品で変動し、レベルが上がるとよりグレードの高い装備品を装備できるようになるという仕組みだ。そのほか探索や収穫によりクーが魔法を習得することでも戦力が強化されていく。

 こうした作りにより、どういった順番で冒険を進めるかの自由度はかなり高い。ラストダンジョンである南の遺跡にどのタイミングで挑むかもプレイヤーの自由となっている(もちろん、それで太刀打ちできるかはまた別の話だが)。

防御力を削り合うテクニカルなバトル。消費型の武具“インヴェントリー”の活用がポイント

戦闘はターン制のコマンド選択型。リリアンとクー、どちらかひとりずつ行動する

 本作の戦闘はターン制のコマンド選択型。敵は必ず1体で、味方の行動はターンごとに物理攻撃担当のリリアンと魔法担当のクー、いずれかひとりずつとなるのでプレイ感としては1vs1に近い。

 一番の特徴と言えるのが、ステータスのDEFの位置付けだ。本作では基本的にダメージを受けるとまずDEFが減る。DEFは言わば装甲やバリアの残量といった位置付けで、DEFが0になりダメージを吸収しきれなくなって初めてHPが減るという仕組み。ただし魔法など一部の攻撃はDEFを無視してHPに直接ダメージを与えるものもある。リリアン達のDEFの値はあくまで戦闘開始時の初期値でしかなく、魔法や後述する盾などを使って戦闘中に上昇させられるのもポイント。これは敵も同様で、“防御力の削り合い”というのが戦闘における重要な要素となっている。

 ダメージ判定にランダム要素はなく、通常攻撃ではATKの値がそのままダメージ値となる。敵はさまざまな攻撃を仕掛けてくるが、敵のHP/ATK/DEFが画面に表示されているほか、2ターン目以降は敵の行動が画面に表示される。一部の敵は特殊なダメージ計算式の攻撃を仕掛けてくることもあるが、その計算式も攻撃を受けた際に明示される。各ターンは必ず味方側が先攻となっており、敵の出方やステータスを見てこちらの出方を考えるという戦術性の高いものとなっている。

 また、“インヴェントリー”と呼ばれる消費型の武具の存在も特徴。物理攻撃時、インヴェントリーを消費することでATKに補正がかかる。シンプルにATKが上がる剣のほか、ATK補正をかけつつDEFを上げられる弓、逆にATK補正は大きいがダメージを受ける斧というカテゴリに加え、DEF上昇に特化した盾も存在。そのほか武具ではないが、敵に状態異常を与えたりできる魔法の本もインヴェントリーに分類される。

 強力なインヴェントリーを入手してうまく活用できれば、格上のボスとも渡り合えるのが面白い。またゲーム中盤以降は、ザコ戦でもインヴェントリーの活用が前提のゲームバランスとなっている。

 “攻撃でHPまでダメージが通ったらその分の敵HPが回復する”といったドレイン系の攻撃を仕掛けてくる敵などもいて、HPを回復するのかDEFを上げるか、あるいはインヴェントリーを使って押し切るか……といった判断が勝負を分けるシチュエーションが発生するのがバトルの醍醐味。トリッキーな行動パターンを持つ強敵など、任意で挑戦できる歯応えのあるバトルもいくつか用意されている。

 一方で格下が相手ならダメージをDEFで吸収したまま倒せることも多く、ザコ戦で細々とHPを削られる煩わしさがないのも、さまざまな場所を探索する際にうれしい点だ。

インヴェントリーを使うことでダメージを底上げしたり、攻撃しつつDEFを上げたりすることが可能
さまざまな特殊攻撃を仕掛けてくる敵などが登場する

少女と妖精の生き生きとした掛け合いや、過去と現在が収束する物語も魅力

 本作は魔法の種を育てるなどメルヘンチックな趣も魅力の作品だが、クーは結構ちゃっかりしていたり、リリアンもなかなかアグレッシブな所があったりと、存外にお茶目なノリも多め。表情差分が豊富に用意された可愛らしいキャラクターイラストと合わせて、少女と妖精の愉快な旅を生き生きと描き出している。

 シナリオ面では、各地に散りばめられた“メモリーストーン”というアイテムもポイント。使用することにより過去の出来事を回想のように垣間見ることができ、魔王の封印が解かれた経緯や、一見お調子者のレヴァリーが辿ってきた道筋などが徐々に明かされていく。現在のリリアン達と過去の物語が、どのように収束していくのかも本作の見どころだ。

 プレイ時間は公称で約3~4時間ほどとされているが、しっかりと隅々まで冒険した場合はその倍程度はかかる印象だ。新しい場所に行ってみたら敵が急に強くなるようなこともままあり、未知の領域を開拓していく気分を存分に味わえる。一方で、果樹園では進行状況に応じて次に行く場所のお勧めを聞くこともできるので、どう進めればいいかわからない、という場合も安心。進める順番もプレイスタイルも、自由に楽しめるのが魅力のRPGだ。

リリアンとクー、それぞれのキャラクターが生き生きと描かれている
メモリーストーンにより垣間見える過去には重く切ない場面も。明るく楽しい現在の冒険と絡み合い、物語を紡ぎ出していく

ソフトウェア情報

「リリアン・クー」
【著作権者】
T-FTA 氏
【対応OS】
Windows
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
1.0