週末ゲーム

第539回

敵の正体を推測し、暴いて倒す純和風RPG「九十九神」

他にはないバトルシステムと、作品全体から溢れる和のテイストが秀逸

 『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、正体当て和風RPG「九十九神」をご紹介する。

 なお、本作は同人ゲームとして頒布されており、執筆時点では委託販売店や通販、ダウンロード販売などで購入可能。公式サイトでは体験版も公開されている。

敵は和を感じる日用品達

オープニングより。九十九神が闊歩する京の都が舞台

 九十九神とは、長く使われた道具や長生きした生き物に霊や神が宿ったもの。日本では“八百万の神”と言われるように、あらゆるものに神が宿るという考え方がある。九十九という言葉にも、『色々な』『様々な』といった意味があり、身近にある何気ないものにも神が宿っているという考えから九十九神が生まれた。

 本作はその九十九神をテーマとし、いにしえの京の都が舞台となるRPG。主人公の女流剣士“英(はなぶさ)”は、都やその周辺を荒らしている九十九神を退治するため、特別な力をもった刀“五魂刀”を振るって戦う。

 バトルでは、英と九十九神が1対1で戦う。基本的には攻撃と防御を選ぶコマンドバトルだが、英が攻撃や防御をしている間に、九十九神からの攻撃が割り込んでくる。攻撃された瞬間、画面には“防御”のアイコンが現れるので、すばやくクリックすると、九十九神からの攻撃をノーダメージで防げる(キーボードやゲームパッドでも操作可能)。さらに防御から一拍置くと今度は“反撃”のアイコンが出るので、これをクリックすると追加で攻撃を仕掛けられる。

 単なるコマンド方式ではなくリアルタイム要素が強く、九十九神からの攻撃に集中してしっかりカウンターを取っていく、というのがバトルのポイントになる。これを繰り返して九十九神と戦うわけだが、実はこの九十九神達は、ただ攻撃していても倒せない。倒すためには、ある手順が必要になる。

主人公の英。“五魂刀”を操る可憐な女流剣士
フィールドはマス目に区切られている。クリックしたところへ英が歩く
フィールド上のもやに当たるとバトル開始。モヤモヤとした九十九神と戦う
九十九神の攻撃をすばやく防御、そして反撃するのがバトルの基本だ

九十九神の正体を見破れ!

まずは一の玉“魂分つ”で九十九神の正体に至るヒントを得る

 バトルに登場する九十九神は、いずれもモヤモヤとした雲のような姿をしている。これはその九十九神の正体がわからない状態で、正体がわからなければダメージを与えることすらできない。その正体を知るためには、英が持つ“五魂刀”の力を借りることになる。“五魂刀”には名前の通り、5つの玉が埋め込まれている。

 まずはモヤモヤした状態のまま攻撃すると、ダメージは与えられないものの画面下にある玉のうち一番左(一の玉)のゲージが増えていく。満タンになったらこの玉をクリックすると一の玉の力“魂分つ”が発動し、九十九神の正体に関する情報が1文字飛び出してくる。文字は漢字ならその九十九神にまつわるヒント、ひらがななら九十九神の名前の中の1文字となる。これを何度か繰り返してヒントを増やしていくわけだ。例えば“ろ”と“と”と“明”という文字が現れたら、その正体は“とうろう(灯籠)”だろうか? と考えて答えを導き出す。

 そうして九十九神の正体に思い当たったら、次は“魂縛り”で正体を見破る。左から2番目の玉(二の玉)は、防御をするとゲージが溜まっていく。満タンになった時に玉をクリックすると、名前の入力画面が出てくるので、ここで先ほど思い至った九十九神の名前をひらがなで直接入力する。また付喪帳(九十九神のリスト)を入手していれば、一覧から選ぶことも可能。

 “魂縛り”で見事に成功を引き当てれば、『正体見破ったり!』というボイスと書き文字の演出に合わせて、九十九神が真の姿を現す。このクイズを解いたような感覚が実に気持ちよく、達成感を得られる。……と言ってもバトル自体はまだ半分なのだが。

“魂分つ”で出てくる漢字は、正体から連想される文字だ
正体が思いついたら“魂縛り”で名前を入力する
付喪帳に書かれた名前から探してもいい
見事に正体を言い当てれば、演出とともに九十九神が姿を現す

九十九神を味方にして使いこなせ!

ゲームを進めると、“魂降し”など新たな力を使えるようになる

 正体を暴いた九十九神は、攻撃すればダメージを与えられる。このまま倒してしまっても差し支えないのだが、ゲームを進めていくと三の玉以降の機能が解放され、九十九神を捕まえることができるようになる。

 三の玉には、“魂降し”という力がある。正体を見破った後、攻撃か防御をすることで三の玉のゲージが溜まる。九十九神にある程度ダメージを与えた状態で“魂降し”を使うと、その九十九神を刀に宿らせることが可能。宿らせた九十九神の種類に応じて、刀が劣化しにくくなったり(攻撃すると刃こぼれするので研がねばならない)、空腹度が上がりにくくなったりする(移動するごとに腹が減るので食事が必要)。

 三の玉のゲージが満タンになった状態で防御すれば四の玉のゲージが溜まり、攻撃すると五の玉のゲージが溜まる。四の玉は“魂祀り”、五の玉は“魂奮い”といい、溜まると刀に宿らせた九十九神の力を使うことが可能。概ね“魂祀り”は補助系、“魂奮い”は攻撃系と分かれており、1体の九十九神に1つずつ“魂祀り”と“魂奮い”の力をもっている。

 “魂祀り”と“魂奮い”は、能力強化や回復をしながら、大ダメージを与える手段となる。ただし宿らせることができる九十九神の数はゲームの進行度によって変わり、最大でも5つまで。本作には装備品の概念がなく、英自身の成長要素は経験値によるレベルだけなので、ボス戦ではどの九十九神を宿らせるのかが攻略の鍵になってくる。九十九神の力には組み合わせ次第でシナジー効果を得られるものもあり、カードゲームでデッキを組むような楽しみがある。

 一見便利に見えるのだが、この九十九神の扱いが意外と厄介。まず許容数を超えて“魂降し”をした場合、刀に宿らせたもののうち最も古い九十九神が押し出されて失われる。新しい九十九神を宿したい時は、不要な九十九神を事前に外しておくのがベターだ。また敵の九十九神が英ではなく玉を狙ってくることがあり、これを食らうと刀に宿した九十九神が抜け落ちてしまう。キーになる九十九神を落とすと戦いが一気に厳しくなるので、雑魚戦でもなかなか気が抜けない。

九十九神の力は、陰の“魂祀り”と、陽の“魂奮い”
“魂祀り”は補助系の技が多い。敵を弱くしたり、英を強化したりする
“魂奮い”はより直接的な攻撃を加える技が中心となっている
攻撃や防御でゲージを溜めつつ、九十九神の力を使って敵を倒していく

とことん和風に仕上げられた上質な作品

作品全体で昔の日本を感じさせてくれる

 さて、ここまでバトルの話に終始してきたが、本作の魅力はそこだけではない。何といっても九十九神というテーマに違わぬ、日本の中世で統一された世界観はプレイヤーをゲーム世界に引き込んでくれる。

 キャラクターは水彩画のような優しい色遣いで描かれ、イラストも素朴で癖がない。UIには筆で書いたような文字を使用している。九十九神も妖怪のように描かれているが、それがちょっと可愛らしく見えたりもする。名前の通り数十種類の九十九神が登場するので、それらのビジュアルを見るだけでもなかなか楽しい。

 音楽もいい。和楽器を巧みに使った楽曲は、お囃子のようでいて古めかしくはなく、クライマックスシーンでは厚みのあるBGMでしっかり盛り上げてくれる。戦闘時の掛け声といったボイスは同じ場面でも複数のパターンがランダムに再生されるようになっており、1対1の構図で単調になりがちなバトルをさりげなくフォローしている。すでにゲームとは別にサントラが発売されているくらいで、聴きごたえがある。

 そして忘れてはいけないのが物語。九十九神が暴れ出した理由や、陰謀渦巻く将軍家のお家騒動、刀鍛冶を目指す少年の淡い恋心、さらには英自身の出生の秘密など、いくつもの物語が絡み合って結末へと向かっていく。サブキャラ達にもそれぞれしっかり見せ場があり、素朴ながらも個性をしっかりと発揮している。結末はハッピーエンドと言い切れないものが待ち構えているが、この物語だけでも十分に堪能する価値があると思う。

 惜しいところは、一部の章のゲーム進行。いったん進むと街に戻れないシナリオがあり、準備不足でボスに勝てないと、セーブデータを遡って章の頭からやり直すしかなくなる。ここは何か救援策がほしいところ。プレイ時間はゆっくり進めた筆者でクリアまで約25時間となったが、ボスが倒せないので古いデータをロードしたり、キーになる九十九神が落とされたのでリセット……というのも多かったので、実際はこの1.5倍程度はかかっていそうだ。

 特殊なバトルシステムが最も目を引くゲームであることは確かだが、プレイ後は作品全体から感じられる和の雰囲気を堪能できたことの方が印象深かった。バトルで掴んで、中身でも楽しませる、といった感じだろうか。ちょっと変わったRPGを遊びたい人、また歴史物の作品が好きな人は、ぜひ一度、体験版からでも遊んでみていただきたい。

物語はよく練られていて、サブキャラも魅力的で飽きさせない。読み物としても作品の雰囲気も、それぞれに和のテイストを感じさせ、楽しませてくれる
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ソフトウェア情報

「九十九神」
【著作権者】
TORaIKI
【対応OS】
Windows XP/Vista/7
【ソフト種別】
ダウンロード販売 1,500円(税込み)など(体験版あり)
【バージョン】
-

(石田 賀津男)