#モリトーク

第59話

Operaに期待すること

 先週の第58話にて、各社のWebブラウザーが新Webレンダリングエンジン“Blink”を採用するに至った経緯、とくに「Opera」の動向をまとめた。執筆時、Blink採用のWebブラウザーは「Google Chrome」と「Sleipnir」の2つだったが、偶然にも掲載日と同じタイミングで、Blinkを採用した初の「Opera」である「Opera Next 15」も登場した。Blinkの話題を語る上で「Opera」の存在は欠かせないため、これで役者が揃ったことになる。

 既報の通り、「Opera Next 15」にはお馴染みの“Speed Dial”機能に加えて、“スタッシュボックス”“ディスカバー”といった新機能が搭載され、ユーザーインターフェイスも一新されている。しかし一方で、ブックマーク機能やサイドバーなどが未実装であったりと、その第一印象はWebブラウザーと呼べるだけの機能がまだ揃っていないというもので、落胆した「Opera」ファンも多いかもしれない。それでも、今後を期待させる機能や、Blinkを採用したことで得られた利点もある。そのひとつが「Opera」固有のデータ圧縮技術だ。

「Opera Next 15」の“データ圧縮モード”

 「Opera」のデータ圧縮技術は、閲覧対象のWebページをOpera社のサーバー上で事前に圧縮し、その読み込み速度を向上させる機能で、従来の「Opera」や「Opera Mobile」に“Opera Turbo”の名称で実装されている。また、「Opera Mini」は同様の技術でのみ動作する仕組みになっており、“Opera Turbo”よりも圧縮率が高い。そして、Blink採用の「Opera Next 15」と、Webkit採用の「Opera 14 for Android」には「Opera Mini」のそれをベースにした“Off-Road mode(データ圧縮モード)”が搭載されている。

 2009年9月公開の「Opera 10」から搭載されている“Opera Turbo”は、これまであまり注目されていなかった。なぜなら、同技術は通信状態が悪いほど活きるため、高速で安定したインターネット回線を用意できるデスクトップ環境ではほとんど意味がないからだ。

 しかし、スマートフォンでのテザリング環境が整った今、その価値は高まるはずであり、見直されるべきだろう。同技術には、Webページの読み込み速度を向上させるだけでなく、受信するデータのサイズを削減できるというメリットもあり、テザリングの帯域制限を回避するためにも役に立つ。そして、「Opera」がここ数年でもっとも注目されている今こそ、同技術の魅力を宣伝するにはベストなタイミングだとも言える。基本機能よりも同技術を優先したくらいなので、Opera社もそれを狙っているのかもしれない。

マルチプロセスで動作する「Opera Next 15」

 「Chromium」のWebkit/Blinkを採用したことで得られた利点としては第一に、マルチプロセスの導入が挙げられ、より安定した動作を期待できる。「Opera Next 15」のプロセスである“opera.exe”をタスクマネージャーで確認すれば、タブの分だけ増えていく様子がわかる。ちなみに、「Opera」よりも先に「Chromium」のWebkit/Blinkへ移行した「Sleipnir」もマルチプロセスを実現している。

 第二の利点は、リリースサイクルの短縮だ。3つのリリースチャンネルを用意し、「Chromium」を追従するとのことなので、「Opera」も高速リリースを導入するのだろう。これをデメリットと捉える人もいるかもしれないが、「Opera」が失速した理由のひとつはスピード感の欠如と、それに伴う露出度の低下だと思われるため、筆者は高速リリースが最大の利点になると考えている。

旧バージョンとの互換性がない「Opera Next 15」の拡張機能

 「Google Chrome」の高速リリースは、新機能の追加よりも、基本性能のブラッシュアップに重点を置いている。そのため、高速リリースへの慣れも加わり、「Google Chrome」のバージョンアップにはワクワク感がなくなってしまった。だからこそ、レンダリングエンジンの開発から解放された「Opera」はそれを真似ることなく、新機能の追加に注力してもらいたいし、期待しなくてもそうなるであろう。

 たとえば、「Opera Next 15」は拡張機能に対応しているが、それ以前の拡張機能との互換性はない。「Sleipnir」がそうであるように、「Google Chrome」の拡張機能にそのまま対応させる道もあったはずだが、「Opera Next 15」はそうならなかった。この方針からは、「Google Chrome」の資産に頼らずに、「Opera」らしい機能を追及し、コミュニティも維持しようとする姿勢が垣間見える。また、「Opera」の開発者は『クローン製品にはならない』『使命も変わらない』とブログで約束しているので、大いに期待したい。

(中井 浩晶)