#モリトーク
第69話
オープンなフォント
(2013/8/20 15:19)
窓の杜でも頻繁に登場する“オープンソース”という言葉の意味は、それを促進する組織“Open Source Initiative”などによって詳しく定義されている。簡単に言うと、ソースコードの入手と派生版の開発が認められた環境のことであり、それと組み合わせるライセンスの内容によって決まってくる。
同組織によれば、Webブラウザー「Netscape」のソースコードを公開する際に考案した用語がオープンソースの起源であるとのことなので、「Firefox」がもっともわかりやすいオープンソースの例であろう。最近は、大企業が主力製品をオープンソースで開発するケースもあり、当初の目的とは異なる部分も出てきているかもしれない。
さて、今週の本題はフォントでのオープンソースだ。フォントの場合、TrueType形式などのファイルをそのまま改変用のデータとして利用できるため、オープンソース向けのライセンスを採用しているかどうかという話になる。
本コラムの第16話でも述べたように、フォントのライセンスはアプリケーションのそれに比べると格段にややこしい。フォントは印刷物やロゴ画像へ姿を変えたりと、デザインとして機能することが多いからだ。それもあってか、オープンソースを謳うフォントはそれほど多くない。
オープンソース化されたフォントでもっとも有名な「IPAフォント」は、“Open Source Initiative”によって認定された独自のライセンスを適用している。そのほかにはAdobe社製フォントの「Source Sans Pro」と「Source Code Pro」が、フォント用のオープンソースライセンス“SIL Open Font License”を採用し、オープンソースを謳っている。
ただし、一般に認知されたオープンソースライセンスを採用していなかったり、オープンソースとは謳っていなくても、ライセンスの内容がオープンソースの概念に近いものを含めれば、該当するフォントは増える。その代表が「M+ FONTS」であり、公式サイトの説明で下記のように書かれた、独自かつシンプルなライセンスが採用されている。
M+ OUTLINE FONTS はコンピュータなどでの個人利用をはじめ、商業目的での利用、フォント内容の改変、改変後の再配布にも制限の無い、自由なライセンスで公開しているアウトラインフォントです。
つまり「M+ FONTS」は、オープンソース向けのライセンスを採用しておらず、オープンソースという言葉も使っていないが、それに相当するフォントであることは間違いない。実際、そのオープンな精神は派生版のフォントにも引き継がれており、「自家製 Rounded M+」の誕生秘話がそれをよく物語っている。
「自家製 Rounded M+」は、「M+ FONTS」の丸ゴシック版に当たる「Rounded M+」を復刻したフォントであり、「M+ FONTS」の派生版でもあるほか、「Rounded M+」の制作工程も再現している。これは、「Rounded M+」の作者が制作工程を詳細に公開していたためで、フォントデータだけでなくデザインの知識も引き継がれた結果だ。
また「自家製 Rounded M+」の作者サイトでは、制作工程を実際に再現したときに気付いた注意点や問題点も合わせて記録されている。もし、別の第3者がさらなる派生版を制作しようと考えたときには、これらの情報がきっと役に立つだろう。
このように、オープンソース向けの既存ライセンスに頼らなくても、オープンな環境を築き上げることがある。もっとも、オープンなライセンスはその精神によるところが大きいので、細かい定義などは関係ないのかもしれない。そう考えると、「M+ FONTS」の例はその偉大さを改めて認識させられる出来事であり、こうした理想的な連鎖を生み出す製品はまさにオンラインソフト界の宝だ。