#モリトーク

第87話

リニューアルの是非を問う2013年

 2013年に本コラムで取り上げた頻度がもっとも高いネタは、「Opera」とそのリニューアルである。「Opera」のリニューアルは、この1年でもっとも注目すべきオンラインソフト界の出来事であり、筆者も仕事としてだけでなく個人的に注目している。

 当初、「Opera」のWebレンダリングエンジンが独自の“Presto”から“Webkit”へ切り替わる計画だった。その後、Opera社が新エンジン“Blink”をGoogle社と共同で開発することになり、事態が急展開する。また、同じくBlinkの採用を決めた「Sleipnir」が、Blink系Webブラウザーの実質的第一号となったことも忘れてはいけない今年の出来事だ。

 「Opera」と「Sleipnir」はWebレンダリングエンジンをBlinkへ変更しただけでなく、タイミングはそれぞれ異なるが、全面的なリニューアルを実施したことでも共通している。「Opera」はWebブラウザーの常識を覆し、ブックマーク機能を廃止したものの、ユーザーにとっては未完成のように映り、最終的にはブックマーク機能が復活することになった。

 一方、これまで多機能で知られていた「Sleipnir」はスリム化を図り、機能美にもこだわったユーザーインターフェイスへと生まれ変わった。筆者の感想は第85話で述べたように好意的だが、従来の多機能性を求める既存ユーザーからは不満の声も多く挙がっている。

「Opera Next 19」
「Sleipnir 5」
「Google Chrome」の“新しいタブ”

 こうしたリニューアルや大きな仕様変更は近年、否定的に受け取られる傾向が強い。たとえば、「Google Chrome」の“新しいタブ”がリニューアルされることを取り上げた第75話は多くの関心を集めた。また、「Google Chrome」の拡張機能がクローズド環境へ移行するニュースも大きく注目されている。ユーザー数に比例して、現状維持を望む声が大きくなるようだ。

 リニューアルといえば、Windows 8についても語るべきだろう。Windows 8はWindows XP/Vista/7からの変化が大きく、既存のWindowsユーザーになかなか受け入れられなかった。そのため、“反省版”とも言えるWindows 8.1が今年10月、前例よりも早めに公開された。しかも、これまでのWindows用Service Packとは異なり、新機能の追加や使い勝手の向上など、多数の改良が施されている。

 リニューアルや仕様変更がユーザーに受け入れられないとき、その製品やサービスの影響力が低下している、もしくはその影響力がピークを過ぎたことを意味するかもしれない。そして、影響力を再び取り戻すためには抜本的な改革が求められ、開発者はそのジレンマに悩まされることになるのだろう。「Opera」と「Sleipnir」は2013年、思い切ったリニューアルに挑戦した。そのことは素直に評価したい。

 近年、大手企業が有償製品並みのフリーソフトを公開するようになった結果、フリーソフト全般に対して有償製品並みのクオリティを期待してしまうことも少なくない。個人作者や小規模企業が制作するフリーソフトでは、その過剰な期待が負担になってしまう。

 そもそもフリーソフトや無料のWebサービスは、たとえそれが「かざぐるマウス」や“Google リーダー”のように有名であろうと、いつ終了しても不思議はない。存続の視点で見れば、リニューアルはとても前向きであり、それが期待通りの内容ではなかったとしても、ユーザーは温かく見守る必要もあるのではないだろうか。

(中井 浩晶)