使ってわかるCopilot+ PC

第69回

「フォートナイト」がSnapdragon X搭載PCに対応 ~ついに「EAC」のArm対応が始まる

Arm版Windowsのゲーム対応が広がるきっかけになるか?

「フォートナイト」のゲーム画面

「フォートナイト」がSnapdragon X搭載PCに対応

 今回は「Copilot+ PC」の中でも、Snapdragon X搭載PCに関する話をしていく。数カ月前になるが、「フォートナイト」がSnapdragon X搭載PCに対応するという話題をお伝えした。

 この情報が、公式サイトで11月3日にひっそりとアップデートされた。追記されたのはたったの1行。

 『Fortnite is now available for Windows on Snapdragon devices.(「フォートナイト」がSnapdragon搭載のWindows PCに対応した)』

 年内に対応するという話を守っただけの話なのだが、前の記事でも書いたとおり、今後のWindowsを考える上でそれなりに大きな話題なのだ。もうちょっとアピールしてくれても良さそうなものなのだが、Arm版Windowsを搭載したゲーミングPCがない現状を鑑みれば、世間の反応が薄いのも仕方ないとは思う。

 このあたりの話を改めて整理し、実機でテストした上で現状をお伝えしていく。

重要なのは「EAC」の対応

 少し前までは、「フォートナイト」を起動すると、直後にネットワークエラーというウインドウが表示されていた。そこには『ARM64 CPUは現在このゲームでサポートされていません』と書かれており、ゲームの起動すらできなかった。

対応前の8月頃に「フォートナイト」を起動した時の画面

 これは「フォートナイト」ではなく、Epic Gamesが提供するチート対策プログラムの「EAC(Easy Anti-Cheat)」が表示したものだ。「フォートナイト」には「EAC」が一体として提供されており、ゲーム起動時には必ず「EAC」も起動する。

 「EAC」は強力なチート対策プログラムで、カーネルレベルでの動作を要求する。しかしArm版Windowsに搭載されているx64エミュレータ「Prism」は、カーネルレベルの動作はエミュレートできない。そのため「EAC」は動作せず、ゲームは動かないという流れだ。

 つまり今回、「フォートナイト」がSnapdragon搭載PCに対応したというのは、より正確には、「フォートナイト」についてくる「EAC」がSnapdragonに対応したということだ(合わせてゲーム側も対応作業、あるいは動作確認はしているだろう)。

 そして重要なのは、「EAC」は「フォートナイト」以外にも、多数のゲームに採用されているという点。今までは「EAC」を搭載したゲームは、Snapdragon X搭載PCでは絶対に動作しなかったが、今後は動作するゲームが増えていくだろう。「フォートナイト」1タイトルだけの話ではないのである。

 ちなみに「EAC」などのチート対策プログラムがなければ、悪意あるユーザーが自分のキャラクターを無敵にしたり、攻撃が必ず当たるようにするなどのチート行為を行いやすくなる。一般のユーザーは一方的にやられるなどして、嫌気がさしてゲームを離れてしまう。そうならないよう、メーカー各社はチート対策を行い、ゲーム環境を守っている。対戦ゲームにおいて「EAC」の存在価値はとても大きいのだ。

「フォートナイト」は無事に動作するも、他のタイトルはまだ非対応

 では実際にSnapdragon X搭載機で「フォートナイト」を動かしてみよう。使用したのは、「Surface Laptop 13.8インチ(第7世代)」で、Snapdragon X Plus(10コア)を搭載したモデルだ。

 「Epic Games」アプリからゲームをダウンロード。無料なので誰でも利用可能だ。起動すると、「EAC」の小さなウインドウが表示されるが、ネットワークエラーではなく、しばらく待つと無事に「フォートナイト」が起動した。

 ゲームの設定で、グラフィックスのレンダリングモードを[DirectX 12]に設定。「ザ・シンプソンズ」とのコラボイベントを実施中で、世界の描写が普段とは違うセルシェーディングになっていたのだが、試しにバトルロイヤルモードをプレイした。フレームレートは20~30fpsと、やや快適とは言いがたいがプレイは可能だった。

この画質でプレイできた。ディスプレイ解像度は2,304×1,536ドット

 ゲームのパフォーマンスは画質設定で調整できるとして、無事に動作することは確認できた。あとはゲーム側のチューニングや、ハードウェアスペックの違いの問題で、x64アーキテクチャのPCと同じ考え方になる。

DirectX 12による動作も可能で、動いてしまえばx64プラットフォームとの違いは感じられない

 さらに別の「EAC」搭載ゲームも試してみた。同じ「Epic Games」で提供されているパーティゲーム「Fall Guys」だ。こちらも無料で提供されている。100GB以上の空き容量を求められる「フォートナイト」とは違い、2GB程度しか要求されないので試しやすい。

 しかし、こちらは実行後に「EAC」による起動時エラーの表示。『ARM64 CPU is not supported.(ARM64のCPUはサポート外)』と書かれており、対応前のフォートナイトと同じ状態だ。

「Fall Guys」はまだ対応していない

 「フォートナイト」に搭載された「EAC」はSnapdragon Xに対応しているが、「Fall Guys」のものはまだ対応していない。今のところ、「EAC」搭載の全てのソフトがSnapdragon Xに対応したわけではない、ということがわかる。

「EAC」の対応がSnapdragon Xのゲーム環境を広げる

 対応状況については、「フォートナイト」の対応が発表された際、まず年内に「フォートナイト」が対応すると発表されている。その他の「EAC」搭載タイトルについては、今後、順次対応が進められていく。

 ただし、全ての「EAC」搭載タイトルがSnapdragon Xに対応するとは限らない。メーカー側は「EAC」を最新版に置き換えるアップデート作業が必要になるため、手間を嫌って対応作業を行わない選択肢も十分あり得る。

 また「EAC」だけではなく、ゲーム側が「Prism」によるエミュレートでうまく動作しない可能性もある。そうなれば追加の対応が必要になるため、作業量はさらに増える。Snapdragon X対応のためにどこまでするべきかの判断は、メーカーごと、タイトルごとに異なるだろう。

 現状では、高性能なゲーム向けGPUを搭載したモデルがSnapdragon Xプラットフォームに存在しないため、高負荷な3D描画を求めるタイトルだと、対応しても満足に動作するハードウェアがないことが予想される。こういう場合も対応を急ぐことはないかもしれない。

 ゲームメーカー側の今後の対応はまだ不透明だが、Snapdragon Xプラットフォームも、今後も性能がどんどん上がっていくはずだ。いずれはゲーミングPCと呼べる製品が出てくるかもしれない。その時、「EAC」がハードルになることは少なくなるだろう。Arm版Windows PCを選ぶハードルが1段下がったことは、ユーザーとしては歓迎すべきことだ。

 念のためお伝えしておくと、対戦要素がなく「EAC」などのチート対策プログラムを採用していないゲームでは、Snapdragon X搭載PCでもほとんどの場合で動作する。例えば先日発売された「ドラゴンクエストI&II」も何ら問題なく動作しているし、「Steam」などのストアアプリの挙動も全く異常はない。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/