石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

おや?「ドラクエ1」のようすが……リメイクされ過ぎた変更点を挙げてみた

敵が複数出るのに、頑なに1人旅を続ける主人公を心配する人も

「ドラゴンクエストI&II」のタイトル画面

誰も知らない「ドラクエ1」がある

 10月31日に発売された「ドラゴンクエストI&II」のHD-2Dリメイク作品について、先週は「ドラゴンクエストII」で仲間が4人になった話をした。

 今回は2本入りのもう1本、「ドラゴンクエストI」をプレイする。こちらはさすがに仲間が増えたりはしないようだ。ということは、ゲームの本質はファミコン版から変わらないだろう。1人である以上、ラスボスとの戦いは、攻撃して「ベホイミ」で回復するだけの真っ向勝負にならざるを得ない。

 ……と思っていたのに、遊んでみると全然違う。映像や音響が強化されたのは当然だが、それが些細な違いと言いたくなるくらい違うのだ。戦略性の低さから、本作を再プレイしたいと思う方は少ないかもしれないが、「これだけ違うならやりたい」と思えるアレンジだ。

 では何が違うのかと聞かれたら、何から説明すればいいのかわからないくらい違うので、良し悪し気にせず、できるだけ違う点を挙げてみようと思う。今回もネタバレを含むが、まだ遊んでいない方に興味を持っていただけるように書いていこうと思う。なお今回の比較対象は、筆者が小学生の頃にプレイしたファミコン版である。

2本のゲームを収録しているので、最初にゲーム選択から。イラストには主人公の姿、ただ1人である

導入から違う

 ファミコン版では、ラダトームの王様の前からゲームがスタートしていたが、今回はなぜ主人公が王様の前にたどり着いたかという前段階から描かれる。主人公が何者であるのか明確ではなく、本当に勇者ロトの子孫かどうかすらも疑われる展開だ。

 言われてみれば、王様を含め、なぜみんな主人公がロトの血を引く勇者だと盲目的に信じているのか不思議ではある。そこは王家とロトの血筋で交流が続いていた、とかでもいい気はするのだが……。本作は『証拠はないけれど、王様はロトの子孫だと信じているよ』というあいまいな設定で話が進んでいくのが、物語のちょっとしたスパイスになっている。

王様は信じてくれるようだが、自らをロトの子孫だと示す証拠があるわけでもない

最初から装備が上等

 王様から、モンスターにとらわれたローラ姫を助けてくれと頼まれた主人公が、大したお金も装備もなく送り出される。そんな設定は本作にはない。主人公は最初から、「どうのつるぎ」や「皮の服」などの装備を一式持っている。ファミコン版にはなかった、頭装備やアクセサリーのカテゴリーまである。

 ただ、主人公の外見は皮装備ではなく、最初からロト装備一式と思しき青の鎧姿なのはどうにかならなかったのかと思う。シリーズの最初から知っている筆者としては、本作でここが一番許せない。

もらったお金で装備を整える必要はない

初期装備より弱い装備がいっぱいある

 旅の出発にあたり、王様から120ゴールドが支給される。ファミコン版ではこれで装備を整えたのだが、主人公は既にそこそこいい装備をしている。とりあえず街の武器屋を覗いてみると、120ゴールドで装備を強化できそうなものはない。最初に武器に全振りするか、防具を揃えるか選ぶのも面白いところではあるが、手間がないのはいい。

 ただ、武器屋を見ると「こんぼう」や「布の服」といった、初期装備より弱い装備が売られている。1人旅のゲームなのに、なぜ初期装備より弱い装備が売られているのか、意味がわからない。あり得るとしたら、仲間が増えることを想定しているのだろうが、数時間プレイしてもそんな気配はない。

「こんぼう」の存在価値とは……あえて「どうのつるぎ」を売ってどうにかするとか?

敵が複数出る

 敵との戦いは1対1ではない。敵は複数体出現する。これがファミコン版との最も大きな違いだ。こちらは1人なので、通常攻撃だと1体ずつ倒していかなければならない。『序盤からめちゃくちゃ大変なのでは……』と最初から気が滅入ったが、初期装備がとても強いので、雑魚が数匹出たくらいでは何ともない。

筆者のプレイで最初の戦闘。いきなり1対3である

全体攻撃できる

 もちろん敵ばかり優遇されてはいない。主人公には全体攻撃できる武器の「ブーメラン」など、複数の敵を攻撃する手段が追加されている。武器の変更は戦闘中にも可能で、敵の数に応じて武器を変更しながら戦うことを想定している。複数の武器を使い分ける勇者をイメージすると、なかなか格好いい。

 他にもファミコン版にはなかった武器や防具がいっぱいある。例えばファミコン版では盾の装備は3種類しかなかったが、今回は大幅に増えている。装備が増えた分、新しい装備が出たら買い替えるようにして進んでいると、お金稼ぎにものすごく時間がかかるという問題もあるのだが。きっちり装備を整えなくても先に進めるゲームバランスになっている。

「ブーメラン」で敵を一掃。経験値やお金もたっぷりで嬉しいし、爽快感もある

知らない呪文がある

 ファミコン版で使える呪文は10種類。レベル3の「ホイミ」に始まり、レベル19の「ベギラマ」で最後だ(約40年経った今も全部覚えている)。本作ではその他の呪文も増えており、地形ダメージをなくす「トラマナ」や、後のシリーズで勇者の攻撃呪文の定番となった「デイン」系も使える。

 洞窟を明るく照らす呪文の「レミーラ」は撤去。アイテムの「たいまつ」もなくなり、最初から洞窟が明るく見えるようになった。「ルーラ」はラダトーム城以外にも、主要地点を選んで移動できるようになった。超長距離を全て歩かされる苦行はもう要らない。

呪文がいっぱい増えている

とくぎも新たに追加

 新たに「とくぎ」の概念も追加された。MPを消費する能力で、呪文と同じようなものと考えていい。戦闘で役立つ攻撃技のほか、周辺にある宝の数を調べる技などもある。ちなみにHD-2Dリメイク作品では、他のシリーズ作品でもとくぎが導入されている。

敵に合わせたとくぎを使い、より大きなダメージを与える

「ちいさなメダル」がある

 「ちいさなメダル」も、後のシリーズ作品に追加された要素で、本作にも逆輸入された形。一定数の「ちいさなメダル」を集めることで、非売品のアイテムを入手できる。かなり強力な武具も手に入るので、なるべく逃さず見つけておきたい。

「ちいさなメダル」を集めて、強力な装備を手に入れる

1人旅を心配される

 ここまでゲームをアレンジするなら、多くの人はこう思うだろう。『パーティメンバーも増やせばいいのに』と。主人公はなぜ1人での冒険にこだわるのだろうか。一切しゃべらないから仲間を作れないのかも……いやセリフはないだけで王様などとは話しているようだし。

 冒険の途中、4人で冒険している他のパーティや、複数人で行動するローラ姫の救出隊にも出会う。さらに、いろんな場所で『1人旅なんておかしい』といったことを言われる。それでも、主人公は頑なに1人旅である。「ドラゴンクエストIV」のように、お助けキャラの「ホイミン」くらいは付けてあげて欲しいと思ってしまう。

普通に考えて、1人旅は危ない

新しいストーリー展開が増えている

 元々はファミコン初期のRPG作品なので、今となっては物語はそれほど重厚ではない。そこでリメイクに合わせて、さまざまな設定や物語が大幅に追加されている。『なぜそのアイテムが要るのか』、『どんな経緯で主人公の手に渡るのか』が丁寧に描写され、世界観の奥行きが広がっている。

 それとはあまり関係ないところでは、「カンダタ」も出てくる。「ドラゴンクエストIII」に登場した中ボス的なキャラクターであるが、もはやシリーズのマスコットキャラクターのように扱われている。

「カンダタ」はどこでも平常運転。しかもボイス入りである

レベル上限が違う

 ファミコン版ではレベル30が上限で、レベル17でベホイミを覚えた後、レベル18で装備が揃っていればクリアできる。しかし本作では、レベル17ではまだ物語の中盤あたりと思われ、道中の敵すら楽に倒せないものがまだまだいる。

 キーアイテムである「ロトの鎧」を守る「あくまのきし」は、ファミコン版と同様の場所に出現するので戦ってみたが、レベル22でも全く歯が立たなかった。この後もプレイを続けたが、レベル上限は30より高い。

 これはゲームとしては良い改変だ。ファミコン版はとにかくレベルを上げるのが大変だったのだが、本作はかなりテンポよくレベルが上がる上、HPやMPもファミコン版の上限を大きく上回って成長する。強くなっていく実感を得ながら進められる分、飽きずに遊び続けられる。

レベル22で「あくまのきし」に挑むもあっさり敗退。ファミコン版ならもうクリアできているレベル

1人旅なのに戦略性が高まった

 複数の敵との戦いで、さまざまな武器や呪文、とくぎを使うという戦略性が高まっている。システム的にも変更が多く、ファミコン版にはなかった「どく」ステータスも導入されている。さすがに「まひ」や即死呪文はないと思うが……。

地味に「どく」が面倒。「どくけしそう」がないと大変

 1人旅でどうしても単調になってしまう戦いを、1対多にするという豪快な変更を加えつつ、かなり上手にまとめ上げていると思う。主人公が1人でも大変強く、勇者をしているという格好よさをしっかり引き出せていて、プレイ感覚は良い意味で全く別のゲームだ。

 「ドラゴンクエスト」を未プレイの方に向けて、勉強だと思ってファミコン版から遊べというのは、今の時代には酷に感じる。しかし本作なら現代の作品として、安心して人に薦められる。リメイクの価値としてこれ以上のことはない。

 筆者もまだクリアはしていないのだが、この先もまだまだ癖のある展開が多そうだ。特にラスボスから世界の半分をもらったらどうなるのか。ファミコン版ではレベル1の初期状態に戻ったふっかつのじゅもん(パスワード)を聞かされて終わりだったのだが……ぜひご自分でプレイして確かめてみていただきたい。

他の冒険者の存在など、世界観を厚くする描写が増えている
できることが増えたおかげで戦略性が増し、単調さが大幅に軽減された
著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。