杜のVR部
第36回
製品版VRに向けて示されたProject Morpheusの本気はスゴかった
衝撃のサマーレッスンからガチホラー、銃撃戦、パーティゲームまで幅広いデモ
(2015/7/28 11:00)
本連載ではVRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)の筆頭としてOculus Riftを取り上げ、これで体験できるVRコンテンツを多く紹介してきた。Oculus Riftは元々はVRゲームという形で、ゲームの可能性を広げるデバイスとして登場した。今でこそ、360度実写動画や教育などさまざまな分野でVRが活用されようとしているが、やはり原点はゲームだ。
VRの実現にゲーム業界で挑んでいるのがソニー・コンピュータエンタテインメント。開発中のPlayStation 4用VRHMD“Project Morpheus”の製品版は2016年上半期に発売される。ゲーム機であるPS4を母艦にしており、ゲーム用コントローラーであるDUALSHOCK 4やPlayStation Moveなどを活用して快適なVRゲームの実現を目指している。
この度、筆者は7月17日に開催されたトークイベント“黒川塾”、そして最近行われたプレス向けの体験会において、Project Morpheusの製品版プロトタイプを用いたデモを6種類体験することができた。
体験したコンテンツを筆者の印象に残った順にそれぞれ紹介していこう。
まさかVRで“恥ずかしくなる”とは思わなかった「サマーレッスン」
Project Morpheus向けのコンテンツの中で圧倒的に知名度が高いのは、バンダイナムコエンターテインメントが開発しているデモ、「サマーレッスン」だろう。昨年秋に開発が発表され、日本人の女の子キャラと近距離でコミュニケーションを取れるという内容は国内外で話題となった。そして、今年のE3では内容を一新し、アメリカ人の女性ミュージシャンに海辺の民家で日本語を教える、というシチュエーションにチェンジした。
筆者が体験したのはこのE3版だ。初めてのサマーレッスンだったのだが、その体験は衝撃的だった。
筆者がこれまで体験したVRにおける人の表現の中で、最もリアルなものだ。何がリアルか。その仕草や間の取り方、目線などさまざまな面で人間らしさが追求されていたのだ。あまりにリアルであるがゆえに“相手との距離”を意識してしまう。とくに中盤、彼女が開いている本を読んでほしいと頼まれるシーンがあるのだが、VR内では完全に寄り添って身体が近い状態で本を覗き込むことになる。
この場面はE3版サマーレッスンのひとつの山場だ。キャラクターに近付くという行為に、思わず照れくさくなって躊躇してしまう。これまでゲームをプレイしてきて、キャラクターと親密すぎて恥ずかしくなるなどという経験はなかった。VRの中で相手は人間ではないのだが、実際に人間に相対しているのと近い感覚になっているのだ。
サマーレッスンで感じたこの感覚は、グラフィックやモーションがリアルといった個別の要素にとどまるものではない。VRの没入体験と、キャラクターの存在感が組み合わさり、人と人との関係性である“親密さ”を意識させられた。VRにおけるコミュニケーションの可能性を感じさせられる体験だった。
二次元のモニター内で再生されるプレイ動画をいくら見ても、この感覚はVRでしか味わえない(お恥ずかしながら、筆者も金髪美女とここまで親密な状態になったことはこれまでないので貴重な体験だったことは間違いない)。VRにおけるコミュニケーションの持つ可能性を感じさせてくれるコンテンツだ。
みんなでワイワイ楽しめる良さ「THE PLAYROOM VR : Monster Escape」
続いて、5人プレイができる「THE PLAYROOM VR : Monster Escape」だ。5人プレイといっても、全員がVRHMDを装着するわけではない。装着するのは1人だけで怪獣役となる。残りの4人は通常のPS4をプレイする時と同様、テレビ画面を見ながらDUALSHOCK 4でキャラクターを操作する。
ミニゲーム的になっており、遊べるのは2種類。まずは怪獣が4人のキャラクターを追いかけていく(キャラクター側から言うと、怪獣から逃げながら仲間を救出する)ゲームだ。怪獣役は目線で攻撃する場所を決めて攻撃する。
2つ目のゲームは、追い詰められた4人のキャラクターが変身し、色々な物を投げつけて怪獣を倒すゲーム。立場が逆転し、怪獣は頭を振って必死に避けなければならない。
任天堂Wii Uのパーティゲームのように、わいわい楽しみながら遊べる作品だ。VRゲームの将来というと、ともすれば1人でVRに籠もってゲームをすることになりそうだが、このようにVRHMDを装着していない人とも複数人で遊べるパーティゲームは、ぜひ今後もプレイしたいと思わせるゲームだ。
アクション映画さながらのリアルな体験ができる「London Heist」シリーズ
「London Heist」はアクション映画のようなシーンを体験できるVRゲーム。PlayStation Moveを使い、VR内に自分の手を投影して、物を掴んだり、マガジンを銃に装填して撃つといった映画顔負けのアクションを楽しめる。「London Heist」および「London Heist gateway」という2つの作品がこれまでイベント等で展示されてきた。
1作目の「London Heist」では、ギャングに捕らえられ男に尋問された後、屋敷に忍び込み銃撃戦になる。注目したいのは椅子に座って男に尋問されるシーン。男版サマーレッスンとも呼ばれているシーンだが、目の前にいる男のリアルさが半端ない。イライラした様子で脅してきたり、タバコをこちらに投げてきたりと、とにかく本当に尋問されているような感覚になる。そしてその後の銃撃戦では、机の上の引出しを開け、机の影に隠れながら銃を撃つことになる。
体験している時、実際には目の前に机などないが、敵の弾を避けるために身をすくめながら屈んでしまうし、ついつい机の上に手を伸ばしてマガジンを探ってしまう。実際にその中に居るような錯覚が起きているわけだ。
2作目の「London Heist gateway」は、高速道路を疾走する車の助手席に座っているシーンからスタート。追ってくるギャングの車やバイクとカーチェイスを繰り広げながら銃を撃ちまくるゲームだ。1作目の後半と同じく、マガジンを銃に装填して撃つ。車ということで窓ガラスが割れたりとかなりド派手。映画のワンシーンを楽しんでいるような感覚だ。
クオリティを上げると怖さも倍増することを痛感したカプコンの「Kitchen」
Oculus Rift向けに数々のホラーをすでに体験してきたが、ホラーゲームのプロが作ったVRホラーはやはり怖かった。「バイオハザード」シリーズを制作してきたカプコンの技術デモが「Kitchen」だ。ホラーが大の苦手の筆者は前評判で非常に怖いものだという話をすでに聞いており、ビビリながら体験。終始怯えた声を出し続けてしまった。
体験内容はモニターにも表示されず、ネタバレ防止にはかなり配慮されていたため、詳細をここに書くことは控えさせていただきたい。360度の音声をうまく使って、どこから忍び寄ってくるかわからず、背後から音や声が聞こえてくることで、身の毛がよだつような気配を感じさせられたのは、まさにVRならではの演出だった。また、ホラーならではの『志村後ろ、後ろー!!』と言いたくなる演出があったりと、これまでホラーゲーム制作で培われてきたノウハウが遺憾なく発揮されていた。
こうした恐怖演出がカプコンのグラフィッククオリティで描き出されているのは、流石と言わざるを得ない出来だった。最後にやや強制的に酔ってしまうような演出があったのは少し気になったが、総じてクオリティが高く、ぜひプレイしてのお楽しみとさせていただきたい。
初音ミクのライブでサイリウムを振るともはやライブ会場そのもの「SEGA feat. Hatsune Miku Project ‘VR Tech Demo’」
セガが技術デモとして展示したのが、同社のゲーム「Project DIVA」シリーズでもおなじみボーカロイド、初音ミクのライブに参加できるデモ。初音ミクが登場するVRコンテンツはこれまでもOculus Rift向けにさまざまなものがあったが、今回のライブの最大の特徴は、手にしたPlayStation Moveコントローラをサイリウムのように振れるということだろうか。曲に合わせて、他の観客とともに腕を振るというのは、思っていた以上に一体感が生まれ、ライブ会場に居るという感覚に浸れる体験だった。また、会場やライトの動かし方、空間に歌詞を浮かび上がらせるといった演出はクオリティが高いものだった。
これが本気か…と唸ってしまう、快適でクオリティの高いVR体験
体験した6種類のデモの内容と感触を述べてきたが、初めてVRに触れる体験者に対して最高の体験を提供できるよう、隅々まで配慮の行き届いた設計になっていると感じられた。
技術デモも多く、そのままゲームに結びつくかどうかは不明だが、どのデモも総じて非常にクオリティが高く、快適だ。いわゆるVR酔いはほぼ感じられないし、PS4のパフォーマンスに最適化されたコンテンツは遅延や残像もほとんど発生しない。120fpsという現在明らかになっているVRHMDの中では最高のフレームレートで描画される視界は滑らかで、違和感が一切ない。
筆者もこれが本気のVRコンテンツか……と思わずうなってしまった。
Project Morpheusは、これまでコンテンツに関する情報も少なかったが、2015年3月のゲーム開発者会議GDCで製品版のプロトタイプをお披露目して以降、6月のE3では大小さまざまな規模の開発チームによる20点ものデモを展示するなど、製品版発売に向け、一気に動き始めている。海外では、Oculus Rift向けにVRゲームを制作していた開発チームが、Project Morpheusにも対応させるという発表も多い。
なお、Project Morpheusのデモで追求されている快適さと没入感は、これまで体験した中でも最高レベルのものだったが、Oculus Rift製品版に向けて制作されているゲームのデモも、甲乙つけ難いレベルの体験だということは補足しておきたい。そのうちの1つ、Crytek社が開発している「Dinasour Isand 2」をOculus Rift製品版プロトタイプの“Crescent Bay”で体験する機会があったが、息を呑む美しいグラフィックに、ワクワクするアクションが特徴の体験だった。
とにかく、今年末から来年前半にかけての製品版VRの登場が楽しみ、ということは間違いないだろう。