杜のVR部

第42回

VR内でどう動くか?という問いに挑戦した「オーバーストリーム」「The Play Pit」

Oculus Rift DK2のポジショントラッキングをフル活用した2つのコンテンツを紹介

 Oculus Riftを始めとするVRヘッドマウントディスプレイ(VRHMD)の特徴のひとつは、頭を動かすと360度その通りにVRの世界が広がっていることだ。さまざまなセンサー類によるヘッドトラッキング機能がその没入感を支えている。しかし、それだけでは没入感が得られても、実在感(プレゼンス)が得られるには至らない。身体を傾けたら視界が傾く、後ろに振り返るときに後ずさりしたら視界がその通りに動く、そんな身体の動きまでもVRで一致したら、VRの中にいる感覚=実在感は一気に増す。

 それをサポートしているのが、ヘッドマウントディスプレイの位置を認識するポジショントラッキング機能だ。Oculus Riftでは第2世代の開発者版であるDK2から追加されている。外部に付属する赤外線カメラによってVRヘッドマウントディスプレイが発する赤外線を読み取り、空間認識を行っている。

DK2のトラッキング・カメラ。モニターの上部にクリップで止めたり、三脚の上にネジ留め固定することも可能だ
製品版のトラッキング・カメラとして発表されているもの。性能向上もさることながら、見た目もスタイリッシュになっている
CEDEC 2015の講演で明らかにされたトラッキング・カメラの性能

 他のヘッドマウントディスプレイでもこのポジショントラッキング機能が実装されることは明らかになっている。PS4向けのProject MorpheusではPlayStation Cameraによって、Oculus Riftと同様のポジショントラッキングが可能だ。そしてPC向けのHTC ViveではLighthouseと呼ばれる方式による“ルームスケール”のポジショントラッキングを実現している。“ルームスケール”とは4.5m四方という小部屋サイズの範囲を指す。Oculus RiftやProject Morpheusでは1つのカメラを使うためその認識範囲はカメラの前方に限られるが、HTC Viveはより広範囲の認識が可能だ。

PlayStation Camera
HTC Viveの説明書に記されているLighthouseの説明。小部屋サイズが認識されることが図示されている

 このポジショントラッキングをフル活用すればVRの中を歩いたりといった大胆な動きも一致するため、身体を動かすかなり楽しい体験になると思うのだが、いかんせんコンテンツはまだ少ない。Project MorpheusやHTC Viveは開発者版も簡単には入手できない。そこで、今回はOculus Rift DK2を持っていればダウンロードして体験できる2つのゲームを紹介しよう。

身体を動かしてアイテムを集めるのが楽しい「オーバーストリーム」

 まず1つ目は、日本人の個人開発サークル・フレームシンセシスが開発しているVRコンテンツ「オーバーストリーム」だ。同サークルは積極的にVRコンテンツの開発とその公開を進めており、第8回でもシューティングゲーム「シルエットストライカー」などを紹介している。

 このオーバーストリームは、8月に開催されたOcufesでも展示されていた。身体を大きく動かしながらプレイするゲームで、ポジショントラッキングを非常に上手く使っている。プレイヤーは水路を下るイカダに乗っているという設定で、水路の左右に落ちているコインを拾いながら進んでいく。コインを取る動きですでに左右へ動くことになるが、さらに天井が低いところなどではかがんだりと上下方向の動きも必要になってくる。次々と迫ってくるので身体を動かすのが忙しくなる。

「オーバーストリーム」のプレイ画面。アイテムがあるので取っていこう。モニターには周りで見ている人のために両眼用の映像ではなく統合された通常の映像が表示される
天井のあるところではしゃがまないとどうやっても抜けることができない

 ポジショントラッキングを使ったコンテンツで、プレイヤーが最も怖いのは、机などにあたってしまって怪我をしたり、トラッキングの範囲から外れてしまって突然現実を意識してしまうこと。そこでこのゲームでは、イカダという限られた範囲しか動けないことで、範囲外への思わぬ移動などを防いでいる。はみ出ると一気に興ざめしてしまうポジショントラッキングだが、ゲームの設定に上手く組み込むことで一気に実在感を増すことができる。この「オーバーストリーム」はその好例と言えよう。

「オーバーストリーム」体験動画
開発者が公開している体験動画。身体を動かして体験している様子とプレイ画面を同時に見てとることができる
「オーバーストリーム」
【著作権者】
フレームシンセシス
【対応OS】
Windows(Oculus Runtime for Windows 0.6以降が必要)
【対応ハードウェア】
Oculus Rift DK2
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
0.3

VRの中での移動方法を体験できる「The Play Pit」

 2つ目に紹介するのは、ゲームというよりは非常に実験的なデモの「The Play Pit」だ。このデモは、VRでの移動について考えさせられるものになっており、“Blink”と呼ばれている手法を試すものとなっている。

 VRでは、たとえポジショントラッキングが可能だとしても、広いフィールドを歩いていくなどということは特殊な周辺機器を使わなければなかなか難しい。かといって狭い範囲しか歩けない状態も没入感を損なってしまうし、コントローラーのアナログスティックで移動すると酔いやすい。そこで、HTC Vive向けにVRゲームの開発を行っているインディデベロッパーCloudhead Gamesが発表した移動の手法が“Blink”というわけだ。

 ”Blink”が試みたのは、VRの中でいかに酔わずに、そして没入感を損なわずに移動するかということ。その名前からもわかるように“Blink(瞬き)”する間に移動するというような手法だ。目線で移動する先を選択し、ゲームパッドのボタンを押すとその場所に瞬間移動する。そして、実際に身体を動かして動き回れるトラッキングの範囲は、縁に近付くと線が浮かび上がってプレイヤーに境界線を気付かせるようになっている。こうした一連の移動方法やトラッキング範囲の表示のセットをCloudhead Gamesは“Blink”と呼んでおり、VRでの移動の方法論として明らかにしている。彼らはこの“Blink”を現在開発中のHTC Vive向けVRゲーム「The Gallery」で実装する。

 「The Play Pit」は、その“Blink”を参考に、別のデベロッパーHead Start DesignがOculus Rift向けに制作した実験的なコンテンツ。広いステージを移動しながら隠されているコインを見つけていくという非常にシンプルなゲームになっており、“Blink”の最も基本的な移動方法である瞬間移動を使いながら進んでいく。また、トラッキングカメラの認識範囲が表示されるため範囲外にはみ出ることはない。

視点で移動したい場所までポインターを動かし瞬間移動

 もちろん瞬間移動をすることが理想的な移動方法かと言うとそうではない。実際に歩いていく方がリアリティを感じることは間違いないだろう。しかし、室内でVRHMDを装着して体験するという制約を考えたときに、まさに現実的な解として“Blink”は登場した。実際に体験してみるとわかるが、そこまでVRの没入感を損なうものではない。脳が『そういうものだ』と認識できるからだ。まさにゲーム内だからこそ許せるギリギリのところを突いた手法とも言える。

実際に歩いて移動もできる

 ゲーム自体はあまり面白みはない上に、自分が向いている方向の調整などやや操作が困難なところもあるが、“Blink”はぜひ試してみてほしい手法だ。今後どういった移動方法に発展していくか考えるヒントにもなるかもしれない。

「The Play Pit」
【著作権者】
Head Start Design
【対応OS】
Windows(Oculus Runtime for Windows 0.6以降が必要)
【対応ハードウェア】
Oculus Rift DK2
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
0.2

Oculus Rift DK2版評価PCスペック(参考)

マウスコンピューター G-Tune NEXTGEAR-MICRO im550PA6-SP2
【CPU】
インテル Core i7-4790K プロセッサー(4コア/4.00GHz/TB時最大4.40GHz/8MB スマートキャッシュ/HT対応)
【メモリ】
16GB PC3-12800(8GB×2/デュアルチャネル)
【グラフィックボード】
AMD Radeon R9 Fury X(4GB)
【fps】
両コンテンツとも75fps
【ヘッドホン】
Creative Sound Blaster EVO Zx

(MoguraVR:すんくぼ)