週末ゲーム
第644回
オムニバスシナリオ+自作戦闘で紡がれるファンタジー群像劇「アレックスと最終戦争と9人の少女」
全4作×9編、プレイヤーキャラ70人以上!圧倒的スケールで描かれる勇者と9人の少女、そして世界の人々の物語
2016年7月22日 11:05
『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、大ボリュームのオムニバスシナリオと自作戦闘を堪能できる作品「アレックスと最終戦争と9人の少女」を紹介しよう。
壮大なスケールで描かれる勇者と9人の少女、そして世界の人々の物語
「アレックスと最終戦争と9人の少女」は、“救国の英雄”と呼ばれる勇者アレックスを主人公に、世界を滅ぼそうとする神々に立ち向かう人々を描く作品。RPGツクール2000製で一見RPGらしい作りだが、ほぼすべてがイベントシーンで構成されており、物語を読み進めながらシナリオの展開に沿って戦闘が発生するゲームとなっている。
アレックスの力となる9人のヒロイン達がアレックスの元へ集結するまでが9編の独立した物語として描かれ、やがて最終決戦に到るというオムニバス形式も特徴。戦闘メンバーとして利用可能なキャラクターだけでも最終的に70人を超え、それぞれの矜持や想いがぶつかり合う群像劇的なシナリオと、シンプルでテンポのよい操作感ながら戦略性の高いサイドビューの自作戦闘も大きな見どころだ。
本作は、「アレックスとバレンタインと9人の少女」「アレックスとホワイトデーと9人の少女」「9人少女シリーズ外伝 - アレックスとGWと9人の少女」と続いてきた「9人少女シリーズ」の完結作。これらの過去作も同梱されており、すべてが繋がってひとつの壮大な物語を描き出している。プレイ時間は全作合わせて公称35時間程度。
なお本作の初出は、ゲーム投稿イベント“VIPRPG紅白2014”。VIPRPGは2ちゃんねるの“ニュース速報(VIP)”板にて多数の作者の手により制作されているRPGの総称で、アレックスをはじめとしたRPGツクールのデフォルトキャラクターや、魔法を擬人化などした“魔法具現化”といった設定およびキャラクター(本作のヒロインも皆、魔法具現化である)をシェアードワールド的に採用した作品が主流となっている。
とはいえ設定の解釈は基本的に各作者が自由に行っており(その意味ではスターシステム的でもある)、本作「9人少女シリーズ」もストーリーは完全にオリジナル。元ネタを知っているとさらに楽しめる部分が多数あるのは間違いないが、まったく知らなくても物語の根幹を理解するのに支障はない。
シナジーによる戦略やキャラクターチェンジが熱い戦闘システム
「アレックスと最終戦争と9人の少女」の戦闘はコマンド選択型のATB。前線3人+サポート1人の計4人で戦う。前線メンバーの先頭以外は戦闘中でも随時、控えとして設定したメンバーと一対一のキャラクターチェンジが可能で、ヒロイン各編では最終的に7人揃うキャラクターをパーティへどう編成するかがバトルのポイントとなる。
キャラクターには上下左右のカーソルキーで発動できる攻撃や防御、魔法やスキルといった4つの行動が備わっている。加えてさまざまな行動で溜まり、魔法やスキルの発動にも使うSPが10点溜まると発動できる奥義、パッシブスキルに相当する“キャラクター能力”、サポートメンバーとして戦闘へ参加した場合に前線メンバーへ影響を及ぼす“サポート能力”が設定されている。
カーソルキーの[↑]は基本的な攻撃行動で[←]は防御や回避など、ある程度共通の行動もあるが、多数のキャラクターがそれぞれオリジナルの行動を備えており、能力もユニークなものが多い。こうした行動や能力は戦闘中にも確認可能なので、実際に戦いながら把握していくことができる。
さらに、直接的な戦力としてはイマイチだがサポート能力が強いキャラクター、逆に直接的にもサポートも強くてどちらに配置するか悩むキャラクター、特定のキャラクターに対し強力なサポートを行えるキャラクター……などなど、サポートと前線の役割分担も重要。多数のキャラクターの特性を把握し、自分なりの戦略を組み立てていくのが楽しいバトルとなっている。
キャラクターチェンジも大きなポイント。各キャラクターが取れる行動は奥義も含めて5つ固定のため万能なキャラはおらず、使い分けが重要となるためだ。さらに、キャラクターチェンジで状態異常や能力低下が回復するため、どんどんキャラクターをローテーションしてピンチを切り抜けていくのもテンションが上がる。
こうしたシステムを駆使して戦っていくバトルは、ストーリーの展開に応じてのみ発生する形のためRPG的な育成要素や装備品の概念はなく、回復アイテムも存在しない。固定戦闘ゲームだからこその絶妙なバランスや、倒し方に工夫がいる特殊なバトルを楽しめる。特にパーティメンバーが完全固定となるヒロイン各編ではキャラクターの能力を活かす場面が用意されているのはもちろん、逆にこちらのメンバー的に定石となりそうな戦術を潰してくる“敵側の戦術を感じられる”バトルも待ち構えているなど、やり応えは抜群だ。
なお、シリーズ過去作の中では「アレックスとホワイトデーと9人の少女」も戦闘付きとなっており、こちらは編成要素もない完全に内容固定のバトルとなる。各ヒロインのルートごとに1回だけの戦闘では独自のギミックが先鋭化されており、また奥義を使えるのが一度だけで反動もあるなど、よりパズル的でストイックな戦闘に仕上がっている。戦術レベル特化の“ホワイトデー”と戦略が重要となる“最終戦争”、それぞれ趣が異なるがどちらも熱いバトルを味わえるのが本作の大きな魅力だ。
シナリオとBGMの圧倒的な熱量により物語と世界観を演出する大作
人と神々の壮絶な戦いを描く「アレックスと最終戦争と9人の少女」だが、シリーズ第1作「アレックスとバレンタインと9人の少女」では先々への伏線が張られつつも、アレックスとヒロインのほのぼのとしたバレンタインの風景が描かれる。物語が大きく動くのは「アレックスとホワイトデーと9人の少女」。「9人少女シリーズ外伝 - アレックスとGWと9人の少女」では最終戦争の前日譚が語られる。
すべての作品に共通するのは、9人のヒロインを選ぶことで、それぞれの物語が展開するという構造。ただGWまでの作品ではいわゆるルート分岐的に各編が並行世界の物語として描かれるのに対し、最終戦争ではとある仕掛けにより、これらすべての世界の物語がひとつの物語へと集束していく。
最終戦争のヒロイン各編はそれぞれが中編程度のボリュームがあり、アレックスとは別に“その編の主人公”が登場。物語の舞台やテーマもバラエティに富んでいる。各編はほぼ同時に起こった出来事として描かれ、微妙にリンクしている部分があるのも面白い。各編の中でもしっかりとした起承転結があった上で、そこで仲間になったキャラクター達が最終戦争へ向けて集結していくさまは圧巻だ。そして4作品×9編の集大成となる“最終編”では各編で仲間になったキャラクターを自由に取り混ぜたパーティ編成が可能となり、最終決戦へ挑むことになる。
また、さまざまな思惑で神々の側に付く者達、そしてそれに翻弄される者達の存在なども物語の重要なピースで、敵方にもある意味で魅力的なキャラクターが多い。もはや命を削り合うことでしか互いの意志を通せない、という状況を演出する装置として戦闘が機能しているとも言える。人とは異なる命の形である魔法具現化の存在もテーマのひとつとなっており、シナリオは終始シリアスに進行する。
こうした熱い展開を盛り上げる、BGMの数々も本作の大きな特徴。本作の作者はフリー素材の提供も行っているサウンドクリエイターの月人氏で、特にフリーゲームのRPGに親しんでいる人なら同氏の楽曲に触れたことがある人も多いのではないだろうか。本作の全BGMはそんな同氏の手によるオリジナル楽曲で(RPGツクール標準楽曲のアレンジも含む)、曲数は過去作も含めた全4作で140曲以上にも及ぶ。
多くの戦闘にその戦闘だけの曲が用意されているほか、キャラクターのテーマ曲が作品をまたぎつつ形を変えて使われたり、ヒロイン各編各話のエンディングでアニメのように共通の曲が流れたり、作品のテーマとなるような旋律が随所でアレンジを変えつつ使われ重要な戦闘曲にも織り込まれるなど、楽曲により統一された世界観が演出されているのも本作ならではの魅力となっている。
4作通してボリュームのある作品だが、主に短編~中編程度の物語の集合という形式のためメリハリが効いており、勢いのある展開にも牽引力があるため中だるみすることはまずないだろう。過去作からのものも含めた伏線が一気に収束する終盤以降の展開も引き込まれるが、それもここまでの積み重ねがあってこそだと感じさせられた。
強く優しい人格者として描かれ、9つの並行世界で9人の少女達の力となり、それがやがて世界を守ることに繋がっていく主人公アレックスの姿も見どころで、熱い台詞の数々に心が震わせられる。そんな彼を中心に、敵も味方も数多のキャラクター達による圧倒的スケールの物語を誇る「アレックスと最終戦争と9人の少女」。シリアスで熱いファンタジーを求める人にはぜひプレイしてみてほしい作品だ。
ソフトウェア情報
- 「アレックスと最終戦争と9人の少女」
- 【著作権者】
- 月人 氏
- 【対応OS】
- Windows(編集部にてWindows 7/10で動作確認)
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 3.05(15/03/05)