“de:code 2017”レポート

Windows 10 Fall Creators Updateの新機能は開発者もうれしい

アプリ開発者向けWindows 10の最新機能

 日本マイクロソフトが2017年5月23日から2日間、都内で開催した開発者・IT技術者向けイベント“de:code 2017”。本稿では138におよぶセッションから、“開発者もクリエイター。アプリ開発者に捧ぐ新テクノロジ~Windows最新情報~”の概要をご報告する。

日本マイクロソフト エバンジェリスト 田中達彦氏

 スピーカーを務めた日本マイクロソフト エバンジェリストの田中達彦氏は、“開発者にとってのWindows 10の最新情報”“今後のアプリ開発を行う上で、どのような技術を使うべきか”“de:code 2017で、どのWindows開発系セッションを聞くべきか”と3つのテーマを並べて、セッションの概要を説明した。

文教向けOS「Windows 10 S」はストア版「秀丸エディタ」も問題なく動作する

 まず、田中氏は2015年7月29日リリースのWindows 10。同年11月12日リリースのWindows 10 November Update。2016年8月2日リリースのWindows 10 Anniversary Update。2017年4月11日リリースのWindows 10 Creators Updateと、『すでに3回のアップデートを重ねてきた。Windows 10は“WaaS(Windows as a Services)”として定期的に最新技術に対応させるサービスに位置する』(田中氏)と、Windows 10の立ち位置とコンセプトを説明。今後は毎年3月および9月という定期的なアップデートタイミングを定めて更新していくことを明言した。

 続いて、執筆時点では日本未発売の文教向けOS「Windows 10 S」は、『Windowsストアからダウンロードしたアプリのみ動作可能。一見すると4年前にリリースしたWindows RTを彷彿させるが、こちらは当時のWindowsストアアプリのみ動作可能。Windows 10 Sは(デスクトップブリッジ、または「Desktop App Converter」でAppX形式に変換した)アプリも動作する』(田中氏)と明言。本誌でも既報のとおり、Windowsストアに並んだ「秀丸エディタ」も問題なく動作するという。

 現行のCreators Updateについては、『一見すると開発者に関係がないように見えるものの、“可能性を広げたい”との理由で名付けた。開発者もエンドユーザーも創造性を活かしてほしい』(田中氏)と3Dの可能性について言及。その一環として、3Dオブジェクトのダウンロードや自身が作った3Dデータのアップロードが可能なコミュニティサービス「Remix 3D」から取得した3Dオブジェクトを加工し、FBX形式で保存したファイルを「Visual Studio」で開き、コードから3Dオブジェクトを使うデモンストレーションを披露した。

ステッカー機能を使って3Dオブジェクトに2D画像を貼り付けていた
FBX形式で保存した3Dオブジェクトデータを「Visual Studio」で読み込み、コード内から操作することも可能

Windows 10 Fall Creators Updateの新機能“Windows Story Remix”と“Timeline”

 続いて2017年9月のリリースが予定されているWindows 10 Fall Creators Updateについての紹介が始まった。田中氏が取り上げたのは“Windows Story Remix”と“Timeline”。“Windows Story Remix”はUWP(ユニバーサルWindowsプラットフォーム)アプリの「フォト」に組み込まれるAI(人工知能)や機械学習を用いて人物の追尾や効果を組み合わせる機能。“Timeline”はアプリの利用履歴を時系列で表示させる機能だ。

 “Windows Story Remix”はWindows Insider Program(以下、WIP)に参加しているユーザーであれば、Windows 10 Insider Preview ビルド16199で試せるはずだが、『現在A/Bテストを行っているため、同じビルド16199でも使えない環境がある』(田中氏)という。筆者も同ビルドを試しているが、「フォト」から“Windows Story Remix”に関する機能を呼び出すことはできなかった。

Windows 10 Fall Creators Updateの「フォト」に組み込まれる“Windows Story Remix”
対応する環境では「フォト」のメニューに“Windows Story Remix”を適用するメニューが表示される
Windows 10 Fall Creators Updateが実装する“Timeline”の概要

 また、“Timeline”については『自社製アプリを“Timeline”に対応させるには“Adaptive Cards”を使うと簡単。(各クライアントに応じた応答を出力する“Adaptive Cards”を使えば)SlackやFacebook、そして“Timeline”にも対応している』(田中氏)とアピール。例えば社内で勤怠管理アプリを利用している場合、管理情報や出退情報を“Timeline”に表示させることもできるという。

Windows 10上ではMicrosoft EdgeやOfficeアプリなどの使用履歴がサムネイルと共に表示される
“Adaptive Cards”が対応する出力先。SlackやFacebookと並んで“Timeline”の名称も確認できる

ウィザード形式でUWPアプリを開発できる「Windows Template Studio」

 de:codeは開発者・IT技術者を対象したイベントのため、Windows 10の開発者向け機能もいくつか披露した。まず、Windows Subsystem for Linux上でこれまでUbuntuに限定していた対応Linuxディストリビューションに、openSUSEとFedoraが新たに加わる。開発者はWindowsストア経由でお好みのLinuxディストリビューションをインストールすればよい。

 また、iOSアプリの開発については、Mac本体を必要とせずに「Visual Studio」上からコーディングと動作テスト&デバッグを可能にする「Xamarin Live Player」の存在をアピール。ただし、Appleが定めたルールにより、Mac App Storeへのアプリ公開は実機が必要となる。

Windows 10 Fall Creators Updateでは、Ubuntu以外にもOpenSUSEやFedoraが利用可能になる
Mac実機を必要とせずにiOSアプリの開発や動作確認などが行える「Xamarin Live Player」

 そして、Windows環境に向けには、テンプレートを用いたウィザード形式でUWPアプリを開発できる「Windows Template Studio」を紹介した。こちらは「Visual Studio」に追加する形で使用し、アプリの種類やフレームワーク、機能などを組み合わせるとUWPアプリのひな形がビルド可能なレベルまで作成できる。デモンストレーションでは不安定な部分も見受けられたが、『これまでは空のコードに必要な機能をコードとして追加していたが、開発者の負担は大幅に軽減する』(田中氏)ことは間違いないだろう。

「Windows Template Studio」実行中の様子。機能やアプリの枠組みなどを選択していく
こちらは「Windows Template Studio」で作成したコードをビルドした状態。地図などの機能が組み込まれている

Fall Creators Updateから加わるUIデザインコンセプト“Fluent Design System”

Windows 10 Creators Updateから追加された“Windows Mixed Reality”レイヤー(青色の部分)

 本セッションでは、“Windows Mixed Reality”や“Fluent Design System”についても語られた。“Windows Mixed Reality”はWindows 10 Creators Updateに加わった、視線やジェスチャー、ボイスなどの入力方法を担うレイヤーである。アクセスにはDirect Xと、Unityに代表されるミドルウェアを使用する2つの方法があるため、開発者は好みの手法を選択すればよい。

 “Fluent Design System”はBuild 2017で発表されたWindows 10 Fall Creators Updateから加わるUIデザインコンセプト。5つのテーマに応じてアプリフレームやUIパーツに統一感を持たせるというものだが、セッションでは光を効果的に用いる“Lights”と奥行きを与えて立体感を演出する“Depth”が紹介された。

Windows 10 Fall Creators Updateのデザインを刷新させる“Fluent Design System”
“Lights”のデモンストレーション。最新Windows 10 Insider Previewでは、「電卓」でその効果を確認できる

たった2行のコードで追加できる“InkCanvas”

既存のUWPアプリに“InkCanvas”を組み込んでいる状態。たった2行でよい

 UWPアプリ上でペン操作をサポートする“InkCanvas”については、『2行のコードを追加するだけで対応できる』(田中氏)と説明。実際に「Visual Studio」上でコードを記述するだけで、Anniversary Updateで加わったペン用ツールバーと定規、Creators Updateから追加された分度器が使用可能になった。ただし、そのままではペン操作に限定されるため、“xaml.cs”にも1行のコードを追加することで、タッチ操作が可能になる。

既定ではタッチ操作は対象外となるため、別ファイルにタッチ操作を有効にするコードを1行追加
ビルドするとWindows Inkのツールバーや定規、分度器がタッチ操作で扱えるようになった

高DPI対応はFall Creators Updateでさらに強化

 この他にも執筆時点で日本未発売の“Surface Dial”の動作解説や、Cortanaの技術を活用してBOTフレームワークやMicrosoft Cognitive Services(認知サービス)と連携する「Cortana Skill Kit」も紹介。同じく日本未発表のCortana対応スピーカーでも本技術が用いられているという。

 特筆すべきはWindows 10 Creators Update、同Fall Creators Updateで強化した高DPI対応である。Windows 8.x時代から高DPI対応を積極的に取り組んできたMicrosoftだが、現在ネックとなるのが古いデスクトップアプリである。

 田中氏は.NET Framework 2.0で書かれたWindowsフォームアプリに対して、アプリがDPI対応であることを示すマニフェストファイルを作成。その違いをビルドして比較したのが下図だ。“DPI Aware”無効時は文字が鈍くぼやけてしまうが、Fall Creators Update(に向けたWindows 10 Insider Preview)ではクッキリと表示されている。このように文字がぼやけるアプリは今後減りそうだ。

「Visual Studio」のマニフェストファイルで“DPI Aware”を有効にする
“DPI Aware”の有無を比べたスライド。「鐘」「響」といった単語のにじみがなくなっている

 最後に田中氏はWIPへの参加を次のようにうながしている。『我々はユーザーからのフィードバックを受け、Windows 10を改良している。その結果は“Windows Platform features and roadmap”でできるため、Windows 10をご自身が使いやすいものに作り替えるため、(WIPに参加して)意見を発信して頂きたい』(田中氏)と述べつつ、本セッションを終了した。