レビュー
衰退した世界で子供達と“最後の4カ月”を過ごす群像ノベルゲーム「春へと続く丘」
廃校となる学校の生徒と少女の交流や、とある本にまつわる謎と冒険を描く
(2016/3/31 16:50)
「春へと続く丘」は、衰退した世界を生きる人々の姿と、とある本にまつわる顛末を描いたノベルゲーム。フリーソフトとして公開されており、プレイ時間は8時間程度。
物語は、17歳の少女ながら新任教師として奮闘する“私”の視点を中心に進む本編と、ある旅館を主な舞台に3人の青年達の交流を描いた“とあるジゴロの物語”を、交互に読み進める形で進行。時代も場所も異なる物語の繋がりが、徐々に明らかになっていく。
本編の舞台は2026年の冬、世界を襲った“2014年の異変”により衰退しつつある時代。“私”は4カ月後の春に廃校することが決まっている田舎町の小さな学校に赴任する。最後に残った4人の子供達のやりたいことを叶えてあげたいと願う“私”と子供達、そして町の人々との交流が、軽妙かつ落ち着いた筆致で綴られていく。
公称ジャンルとして“終末ほのぼの群像ミステリー風ノベルゲーム”を謳う作品。衰退した世界の中でもたくましく生き抜く人々の姿が、“私”の目を通し、ユーモアも交えながら描き出されていく。同時に、子供達のひとりから探すことを頼まれた本『春へと続く丘』をめぐる謎と冒険や、“異変”の時期を境に現れ始めた異様な存在との対峙なども描かれ、物語は多方向へ展開する。
立ち絵はなく、水彩風で丁寧に描かれた背景グラフィックと、時折挟まれる挿絵が目を惹く作品。また、穏やかな曲調のもの中心としつつ、緊迫した状況を跳ねるようなピアノで演出する曲など20曲に及ぶオリジナルのBGMも本作の大きな魅力となっており、iTunes StoreとAmazonにてサウンドトラックが配信中。
なお、本作は2013年にリリースされた多視点型のノベルゲーム「Colors/Forest」と世界観を同じくする作品。“私”を中心とした物語は本作単独で完結しているが、「Colors/Forest」に登場した一部人物のその後も直接的、間接的に描かれ、同作をプレイしていると感慨深い場面もいくつか存在する。筆者としては合わせてプレイすることをお勧めしたい。
さらに、同一世界観での次回作の情報も公開されており、あと2作でシリーズ完結が予告されている。同じ世界観のもと時代や登場人物を変えながら、ゆるやかな繋がりを持ちつつそれぞれ独立した物語が語られ、やがてひとつの大きな流れを描き出す……そういった仕掛けが好きという方にもぜひ触れてみてほしい作品だ。
ソフトウェア情報
- 「春へと続く丘」
- 【著作権者】
- Home Security Company
- 【対応OS】
- Windows 2000/XP/Vista(編集部にてWindows 8.1で動作確認)
- 【ソフト種別】
- フリーソフト
- 【バージョン】
- 1.01