#モリトーク
第76話
Webブラウザーの顔
(2013/10/8 12:14)
先週の第75話で取り上げた「Google Chrome」の“新しいタブ”について、ユーザーの間では賛否両論の声が上がっており、その注目度はとても高いようだ。ユーザーインターフェイスの変更はオンラインソフトだけでなくWebサービスなどにおいても、そのユーザー数が多ければ多いほど物議を醸す。とくにそれが“顔”に関わる部分であれば、なおさらだろう。
Webブラウザーの顔はかつてツールバーであったが、現在は“新しいタブ”へと変わっている。だからこそ、“新しいタブ”のデザインはWebブラウザー全体の使い勝手に直結する。ちょうどよい機会なので、“新しいタブ”の歴史を少し振り返ってみよう。
そもそも、“新しいタブ”の概念を変えた最初のWebブラウザーは「Opera」である。2007年4月公開の「Opera」v9.2で、第二のブックマークとも呼べる“スピードダイヤル”機能が“新しいタブ”として実装された。これをきっかけに、そのほかのWebブラウザーも“新しいタブ”を活用するようになっていく。
たとえば「Google Chrome」の場合、よくアクセスするWebページや最近閉じたタブの一覧を“新しいタブ”に表示する機能が初公開の時点で搭載されていた。「Internet Explorer」もバージョン8以降、最近閉じたタブなどを“新しいタブ”に一覧表示するようになっている。
「Firefox」の取り組みは他よりも遅く、本格的に“新しいタブ”を活用するようになったのは最近のことだ。といっても、それは標準機能の話であり、“新しいタブ”を活用するための拡張機能が次々に公開されていたため、実質的に言えば「Firefox」が出遅れていたわけではない。
拡張機能でのカスタマイズとともに成長してきた「Firefox」は、“新しいタブ”でもユーザーに幅広い選択肢を与えている。よくアクセスするWebページの一覧を簡単に消せるほか、「Opera」の“スピードダイヤル”機能と似た使い方も可能であり、豊富な拡張機能で置き換えることもできる。
同様に“新しいタブ”のデザインを比較すると、各Webブラウザーの方針が見えてくる。「Google Chrome」が現在試験している“新しいタブ”のデザイン変更は、Web検索サービスとの連携を強化するものだ。「Google Chrome」はこれまでもWebサービス・コンテンツとの連携を重視する形で進化してきたため、今回の例もその視点で捉える必要があるだろう。
“新しいタブ”の元祖である「Opera」の方針は「Google Chrome」のそれとは大きく異なる。Webレンダリングエンジンを“Blink”へ乗り換えたあとの新生「Opera」は、ブックマーク機能を非搭載にすると同時に、“スピードダイヤル”機能を強化した。Opera社はそのとき、Web閲覧に必要な機能をタブ内に集約させたいと説明している。
新生「Opera」は“劣化Chrome”などと揶揄されることもあるが、Webコンテンツ用OSへと向かう「Google Chrome」、Webブラウザーの機能を純粋に追求する「Opera」といったように、そもそも目指すところが違っている。Webブラウザーの顔である“新しいタブ”がそれを物語っているはずだ。
もし今後も「Google Chrome」のOS化が進むなら、純粋なWebブラウザーを求めるユーザーが「Opera」へ乗り換える日も来るかもしれない。“新しいタブ”のデザイン変更は筆者にとって、そんなことを思わせるきっかけとなった。