#モリトーク

第78話

マウスジェスチャー派の当惑

 窓の杜では、新作オンラインソフトの公開だけでなく、公開終了も報じている。有名オンラインソフトでさえも開発・公開の終了はそれほど珍しいことではなく、多くの場合、需要の減退とそれに伴うバージョンアップの停滞が主な理由だ。公開終了という決断はとくにそれが個人作者の場合、最後の仕事とも言えるだろう。

「かざぐるマウス」

 一方、開発終了のオンラインソフトがオープンソースであれば、別の個人作者や有志集団によってそれが引き継がれることもある。いずれにしても、有名オンラインソフトが予告もなしに姿を消すのは稀だろう。ところが先週、それが現実に起こってしまった。マウスジェスチャーソフト「かざぐるマウス」の公開が突如、終了したのだ。

 インターネット上での反応はそのニュースが衝撃的であること、「かざぐるマウス」の人気と需要が高いことを示している。役目を終えたオンラインソフトの引退なら、『昔、お世話になりました』『お疲れ様でした』など、感謝の声が目立つところだが、今回は『愛用しているから困る』といった戸惑いの声が多い。また、開発が停滞していたわけでもないので、「かざぐるマウス」はまさに現役の人気オンラインソフトであった。

 「かざぐるマウス」は、各種Webブラウザーやエクスプローラにマウスジェスチャー機能を追加したり、マウスホイールの機能を拡張することができるソフト。マウスジェスチャーは「Opera」が広く普及させた機能であり、Webブラウザーの十八番とも言える機能だ。しかし、それを標準で搭載するWebブラウザーは「Opera」のほかに、「Sleipnir」くらいしか存在しない。

「Opera」のマウスジェスチャー機能

 そのほかのWebブラウザーでマウスジェスチャー機能を実現するには、「かざぐるマウス」のような外部ソフトや、それぞれの拡張機能・アドオンが必要となる。そこで今回は、「かざぐるマウス」の代替ソフトを探す前に、「Opera」および「Sleipnir」に標準で搭載されているマウスジェスチャー機能を復習しておきたい。

 「Opera」のマウスジェスチャー機能は“戻る”“進む”“新しいタブ”“ページの更新”“タブを閉じる”の5種類。いずれも、右クリックしながら所定の軌道を描けばよい。ただし、カスタマイズすることはできない。

 一方の「Sleipnir」では、強力なマウスジェスチャー機能が昔からの特長であり、それを目的にしているユーザーも少なくないだろう。バージョン3から搭載されたマウスジェスチャー機能“TouchPaging”は、スマートフォンのスワイプ操作にも似た使い勝手を実現しており、Webページが慣性で滑らかにスクロールしたり、書籍のページをめくるようにタブが切り替わる。

「Sleipnir」の“ロッカージェスチャー”機能

 それに加えて、いわゆる“ロッカージェスチャー”にも対応しており、右クリックしながら左クリックすると“戻る”コマンド、その逆が“進む”コマンドといったように、マウスクリックの組み合わせに多様な操作を割り当てられる。同様の機能が旧シリーズの「Opera」にも搭載されていたが、新シリーズでは今のところ利用できない。

 このようにマウスジェスチャー機能を改めてチェックしてみると、「Sleipnir」の充実ぶりに驚かされる。それと同時に、複数のWebブラウザーでそれを実現していた「かざぐるマウス」の偉大さにも感服する。「かざぐるマウス」の公開終了は残念なことだが、類似ソフトに目を向けるきっかけだと思えば、それもまたオンラインソフトが生み出す連鎖なのかもしれない。

(中井 浩晶)