#モリトーク
第85話
メジャーバージョンアップへの期待
(2013/12/10 18:07)
Google社が高速リリースサイクルという概念をオンラインソフトに持ち込んで以来、メジャーバージョンアップの意味が薄れつつある。正確には、バージョンアップへの期待が麻痺してきたと言うべきかもしれない。しかしそれは、メジャーバージョンアップの意味を考え直すきっかけにもなるだろう。
一般的にイメージするオンラインソフトのメジャーバージョンアップでは、いくつかの新機能が単純に追加され、その土台は大きく変わらない。また、新機能が既存の機能を代替するなら、不要になった機能が整理されることもあるだろう。いずれにしても、そこには何かしらの“期待”が存在するはずだ。
前回および前々回に取り上げた「Sleipnir」は、Webレンダリングエンジン“Blink”への一本化を機に、バージョン5へのメジャーバージョンアップを果たした。注目すべきは、ほぼ新作のWebブラウザーとして生まれ変わったことだ。しかし、事前にベータ版などが公開されることもなかったので、今回の急な方針転換を予測できたユーザーは少ないだろう。
そのためか、フェンリル社が運営するブログへのコメントは批判的な意見、とくに機能の減少を疑問視する声が多いようだ。もし筆者が「Sleipnir」をメインのWebブラウザーとして利用していたなら、同じく素直に喜べなかったかもしれない。
窓の杜は先週、「Pixia」の公開15周年を記念し、その作者である丸岡勇夫氏のインタビュー記事を掲載した。そのなかで丸岡氏は、バージョンアップのたびに機能を追加していたら、新規のユーザーがついてこられないと指摘している。
三大Webブラウザーである「Internet Explorer」「Google Chrome」「Firefox」がコモディティ化した理由はまさに、丸岡氏の意見と同じような設計思想にあると考えられる。いまやOSよりも重要なWebブラウザーは、初めて使う人も含め、万人にフレンドリーでなければならないからだ。
多機能であることと使いにくいことは紙一重であり、その視点で「Sleipnir」を見れば、前バージョンの「Sleipnir 4」は多機能であるが故に、新規ユーザーが手を出しにくいソフトだったのかもしれない。それは、同様に多機能だった「Opera」にも通じる話ではないだろうか。
もしそうであれば、「Sleipnir」と「Opera」のリニューアルは理にかなっている。ただし、三大Webブラウザーの後を追うだけでは意味がない上、筆者が本コラムで繰り返し言及しているように、コモディティ化は退屈だ。その点では、「Sleipnir 5」のアプローチは出だしとしてなら悪くない。新規ユーザー獲得の間口を広げつつ、ほかのBlink搭載Webブラウザーには存在しない機能を揃えてきた。
もちろん、既存ユーザーから不満の声が挙がるのも納得できる。それでも、これまでのフェンリル社の実績をふまえれば、これを完成品とすることは考えにくい。「Opera」のリニューアル作業に取り組むOpera社は、機能の復活などについてブログで積極的に発信しているので、フェンリル社にもそうした対応を期待したいところだ。