週末ゲーム

第634回

命を削って命を繋げ。アイテムだけで戦い抜くRPG「グレナサクリファイス」

最大HPを対価にアイテムを買う一本道ローグライク「ロードライト・フェイス」の続編

 『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームの中から、編集部がピックアップした作品を毎週紹介していく。今回は、ノンフィールドRPG「グレナサクリファイス」を紹介しよう。

 本作は有償の同人ゲームとして頒布されており、執筆時現在はパッケージ版およびダウンロード版を購入可能。ダウンロード販売サイトにて体験版も公開されている。

アイテムの使い方がすべてを分ける「ロードライト・フェイス」の続編

冒険は邪神の手が迫る森から始まり、雪原に灼熱の洞窟、神殿とさまざまなエリアを踏破していく

 「グレナサクリファイス」は、敵を倒しながら全8エリアを踏破していき、世界を脅かす邪神の討伐を目指すRPG。本作は2014年夏に開催された“第六回 WOLF RPGエディターコンテスト”の参加作品である「ロードライト・フェイス」の続編で、武器攻撃も魔法もすべて回数制限のあるアイテムを利用する点や、アイテムを使い切ることで成長に必要なポイントを入手できるといったコアの要素を引き継いでいる。公称ジャンル名は“ローグライク・ライク・ノンフィールドRPG”と謳われており、ランダムに入手したアイテムを活用してさまざまな状況を切り抜けていくローグライクRPGの楽しさを、フィールド移動のないシンプルな進行に落とし込んだ作品だ。

 エリア数は「ロードライト・フェイス」の5エリアから8エリアへと増加。その一方で各エリアの歩数は短くなっており、全体的なボリュームは1周30分から1時間程度と大きく変わらないまま、より変化に富んだ濃厚なプレイを味わえる。

 アイテムも一新されているほか、グラフィックやインターフェイスなども幻想的な雰囲気を醸し出しつつスタイリッシュに作り込まれており、「ロードライト・フェイス」をプレイ済みでも新鮮な気持ちで、新たな冒険を楽しめる作品に仕上がっている。

最大HPを対価にアイテムを入手、使い切ることで成長の糧を得ていく

 続編といっても、「グレナサクリファイス」で描かれる冒険は「ロードライト・フェイス」の前の時代のもので、本作からのプレイでも全く問題ない。改めて本作の基本的な流れを紹介していこう。

戦闘中の行動はアイテムを選ぶことだけ。攻撃に使えるアイテムが尽きたらその時点でゲームオーバーだ

 ゲーム中にプレイヤーができる移動は、ただひたすらに一歩ずつ前進するのみ。30歩進めばエリアボスと遭遇し、倒せば次のエリアへ進める。道中では敵との遭遇のほか、アイテムが手に入る宝箱、アイテムを購入できる商人、能力値を上げられる神殿といったイベントが発生する。戦闘はターン制のコマンド選択型だが、敵も味方もソロで逃走や防御のコマンドもないため、戦闘中にやることも“コマンドとしてアイテムを選ぶ”だけと単純明解だ。

 このアイテムの入手と、その活用に関するシステムこそが本作を特徴付ける部分。宝箱からのアイテム入手は完全にランダムである一方で、商人からの購入時は最大6つ提示される中から選べる。欲しいアイテムを手に入れるチャンスだが、このときの対価が“最大HP”であるのがポイント。常に消耗していく攻撃手段を補充しないと手詰まりになってしまうが、買いすぎても最大HP低下でジリ貧となってしまう。“この先に待ち受けている強敵へ備えること”と“今を生き延びること”を秤にかけた戦略が求められる。

 また、経験値によるレベルアップで増えるのは最大HPだけとなっており、それ以外の能力値は、神殿で“Faith”というポイントを消費することで向上する。このFaithを溜める唯一の方法が、戦闘中にアイテムを最後まで使い切ること。最後の一撃は効果が3倍になるというボーナスもあり、戦略と戦術の両面において重要なシステムとなっている。

商店にはランダムに選ばれたアイテムが並ぶ。いくつでも買えるが買いすぎに注意
神殿ではFaithを消費して能力値を上げられる。アイテム所持枠の数がゲーム開始時は少なめで、これもFaithで上げるようになったのが本作での新要素だ

 一方で、移動中にアイテムを“捧げる”ことでHPを全回復させることが可能。ここでも、目の前を生き延びることと将来の成長というトレードオフが発生する。なお、HPがゼロになったら即ゲームオーバー。セーブは中断用の一時セーブしかなくデータを分けることもできないため、あらゆる意味で一本道、やり直しの効かない旅が展開する。

組み合わせに妙があるアイテムが多数登場。“ひとり連係プレー”がアツい

 本作をプレイしていて特に楽しく感じる点、また「ロードライト・フェイス」をプレイしていると特に大きく変わったと感じる点は、複数のアイテムの組み合わせによる戦術が効果的であることだ。

 武器や魔法の威力は筋力・魔力・敏捷という3つの能力値のいずれか(筋力+魔力などの複合もあり)に依存する。すべてを満遍なく上げる余裕はないので、なるべく自分の能力値に合ったアイテムを揃えたいところだが、いつもそううまく行くとは限らない。

 そういった時に役立つのが“筋力依存だが使うと次のターンに敏捷が上がる剣”といったバフ効果を持つアイテムだ。連係により一時的に苦手なアイテムを使えるようにできるのはもちろん、ここぞという時に得意な武器や魔法のダメージを上乗せしたりといった活用も可能。ダメージは基本的にアイテムの威力×能力値というシンプルな計算式で導かれており、能力値が1上がるだけでも効果は大きい。

 また、使わないでいると1ターンごとに威力が増していくアイテムなどもあり特にボス戦で重宝するが、そのアイテムの威力が溜まるまでどう凌ぐかという立ち回りにおいて、別のアイテムの活用が重要となってくる。最後の一撃にHP回復といった追加効果があるアイテムもあり、限られたアイテム所持枠の中で、どのアイテムを温存しどこで使い切るか、常に悩み続けるのがプレイの醍醐味だ。

筋力中心の成長をしていた所になかなか筋力依存武器が出ず困っていたが、使用した次のターンに魔力が上がる短剣“ブルーローズ”と魔法の組み合わせで凌いだ場面
最後の一撃にスタン効果がある短剣“フロストバイト”。大ダメージを与えつつ1ターン敵の行動を封じられる切り札だ

オープンな情報による戦術性と、“ポジティブな運要素”がもたらす快感

 戦闘においては予測ダメージ、敵のHPや攻撃内容、弱点・耐性属性など、あらゆる情報が画面内にわかりやすく開示されているのも特徴。また、プレイヤーが攻撃を外すという要素はなく、先攻・後攻については“基本的にプレイヤー先攻、一部武器のみ後攻”と確定している。『攻撃を外して倒しきれず反撃を受けるのでは』『回復するより先に攻撃を受けてゲームオーバーになってしまうのでは』といったネガティブな不確定要素を考慮に入れる必要はなく、今、そこに見えている戦況だけに集中することができる。

 となると運が絡む余地は無い“詰めRPG”めいた戦闘なのか、といえばそうでもなく、“ポジティブな不確定要素”は存在する。それがクリティカルと回避だ。筆者もプレイ時に、ラスボス戦で発動率5%のクリティカルと回避が両方一度ずつ発動して、あと一撃食らうとゲームオーバーという状況でギリギリクリアしたこともあった(つまりどちらか片方でも発動しなければ負けていた)。こうした、確率的にまさか出るとは思わなかった、という時に出てくれるクリティカルや回避は特にテンションが上がるものだ。

 『命中率95%は意外と外れる』というのはよく言われることだが逆も同じで、回避率5%でもここぞという時に避けてくれて生き延びた、などというシチュエーションは結構ある。実際の所はどちらも、強く印象に残った場面が記憶に残るというバイアスもあるのだろうが、どちらがゲームとして気持ち良いかは言うまでもない。もちろん、非対称的にプレイヤー側が有利であることが常に最適とは限らないが、“負ければ即ゲームオーバーの一人旅”である本作においては、プレイに程よいアクセントを加える良調整であると感じた。

一定確率で物理攻撃を防ぐマンゴーシュ。通常の回避とは別のメッセージが表示され効果を実感できる。キン、というSEも頼もしさを感じさせる

 クリティカル率と回避率は敏捷の能力値に応じて上がり、さらには持っていると物理攻撃を25%の確率で無効化できる短剣“マンゴーシュ”や、クリティカル率の上がるアクセサリ“クリティカルグラス”などもある。意識して幸運を引き寄せるのも戦略のひとつというわけだ。

周回プレイを盛り上げる個性豊かな9つのクラス。“戦いの記憶”がそのまま活かせる高難易度チャレンジも醍醐味

 ゲーム開始時には9つのクラス(職業)を選び、それによって初期の能力値や保持アイテムが変わるほか、クラスごとにさまざまな特性も備えている。この特性も「ロードライト・フェイス」から一新。剣の威力が上がる剣士や魔法の使用回数が増える魔術師といった扱いやすいもののほかに、トリッキーな特性を把握することで真価を発揮するクラスもあり、クラスを変えることでプレイ感が大きく変わるのが面白い。

 たとえば“忍者”は、先述のクリティカル・回避の活用に特化したテクニカルなクラス。アイテム所持枠に空きがあるほど、クリティカル率と回避率が大きく上がる。アイテムがあればあるほど安心できる本作において、所持数を抑えることが戦略の要となるという使いこなしが難しいクラスだが、うまく行けばクリティカルと回避の連発により無傷で敵を薙ぎ倒していけるのが、まさに忍者という趣を感じられる。

個性豊かな9つのクラスを選択。ゲームクリア済みのクラスには★印が付けられる
忍者はアイテム枠の空き1つにつきクリティカル率と回避率が10%アップ。クリティカル・回避連発で華麗に戦えるのが面白いが、アイテムを減らしすぎるとピンチに……

 さらに難易度も、ゲームを理解するためのものと位置付けられている“easy”から『クリア不可能』を謳う“impossible”まで4段階用意されており、クラスとの掛け合わせで繰り返し遊べる作品となっている。ポイントは、難易度によって変わるのは初期HPやレベルアップ時に増える最大HP、神殿で能力アップにかかるコストというプレイヤーの成長まわりと、ボスのHPのみであること。道中の敵の能力値や攻撃方法に変化はない。

 そのため、これまでより上の難易度へチャレンジする際に、『この敵は今の能力値ならあの武器を◯発で倒せる』といった従来のプレイで培ってきた肌感覚がそのまま通用する。周回プレイにあたり能力値やアイテムの引き継ぎ要素は一切ないが、プレイヤーの知識と経験をそのまま活かせるというわけだ。あとはより厳しくなった条件の中で、これまでの戦術が使える状況にどう持ち込むか、あるいは全く別の戦い方を模索するのか……といった試行錯誤を存分に楽しめる。

 アイテムの使い方を軸に、戦術・戦略とランダム要素が絡み合って、何度プレイしてもこれまでにないシチュエーションを楽しめる「グレナサクリファイス」。1周は短くプレイリザルトの出力機能もあり、プレイ内容を振り返ったりプレイヤー同士で共有するのも面白い。ローグライクRPGやノンフィールドRPGなど、限られたリソースの管理や意志決定のゲームが好きな人にぜひプレイしてもらいたい作品だ。

ソフトウェア情報

「グレナサクリファイス」
【著作権者】
魔法装飾図
【対応OS】
Windows 2000/XP/Vista/7(編集部にてWindows 8.1で動作確認)
【ソフト種別】
ダウンロード販売 1,080円(税込み)ほか
【バージョン】
1.10(16/04/03)

(中村 友次郎)