クリエイターが知らないと損する“権利や法律”
電子出版権ができたってさ
~第7章:作品を発表するときに気をつけること~
2016年9月14日 07:20
オンラインソフト作者に限らず、あらゆるクリエイターが創作活動を続けるために、著作権をはじめとして知らないと損する法律や知識はたくさんある。本連載では、書籍『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』の内容をほぼ丸ごと、三カ月間にわたって日替わりの連載形式で紹介。権利や法律にまつわる素朴な疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えする。
前回掲載した“商業流通って実はすごい”の続きとして、今回は“電子出版権ができたってさ”というテーマを解説する。
電子出版権ができたってさ
そういえば、著作権法が改正されたというニュースを見たんですけど、何が変わったんです?
お、よくチェックしていますね。先生うれしいです。
えへへ。
2015年1月1日から施行された改正著作権法では、電子出版に対応した『出版権』が設定できるようになりました。
ん? 出版権って、これまでの著作権の話には出てこなかったですよね。
どういう権利なんです?
出版権は、著者と出版社の契約に基づき設定される権利で、契約期間中は作品を独占的に出版できるというものです。
単なる出版の『許諾』より強い権利で、いわば期限を決めて、著作権を部分譲渡するような制度なのですね。
従来は、紙の本など、物として複製することしか考慮されていない条文になっていたのです。
旧著作権法80条(出版権の内容)
出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する。
改正後は、インターネットによる配信、すなわち公衆送信権にも対応できるようになりました。
改正著作権法80条(出版権の内容)
出版権者は、設定行為で定めるところにより、その出版権の目的である著作物について、次に掲げる権利の全部又は一部を専有する。
1 頒布の目的をもつて、原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利(原作のまま前条第一項に規定する方式により記録媒体に記録された電磁的記録として複製する権利を含む。)
2 原作のまま前条第一項に規定する方式により記録媒体に記録された当該著作物の複製物を用いて公衆送信を行う権利
なるほど、インターネットに対応したわけですか。
なんだかずいぶん対応が遅いような気がしますね。
まあ、法律を改正するには衆議院と参議院両方での審議と可決が必要ですから、簡単な話ではないのですよ。
利害関係者がそれぞれ、自分たちに有利な方向へ誘導しようとしますし。
そこでは壮絶な綱引きが!
インターネットに対応した権利が出版権に加わったことで、海賊版対策がしやすくなることが期待されています。
従来は、本をスキャンした海賊版データがインターネットに流されてしまっても、出版権で差し止めることはできなかったのです。
え! そうだったんですか。
あくまで『出版権では』という話なのですけどね。
作家との間で電子出版の独占的な利用許諾契約を結ぶことは、これまでも可能だったわけですから。
ただ、単なる独占許諾では差止訴訟の原告にはなれないと考えられているため、法律できっちり定められたというのは、やはり大きいと思います。
電子書籍にあまり積極的に取り組んでこなかったような著者や出版社が、これをきっかけにして前向きになるといいのですけどね。
電子書籍って、置き場所に困らないのがいいですよね。
欲しいと思ったら夜中でもすぐ買えるし。
セールもあるし。
買い過ぎちゃうのが怖いんですけど。
ちなみに、紙の出版権と電子出版権を、それぞれ別々の出版社で設定することも可能です。
漫画家の鈴木みそさんは、紙の本は出版社から出版していますが、電子書籍は自分で直接出版しています。
いわゆる『セルフパブリッシング』です。
へえ! そんなこともできるんですね。
『電子書籍は儲からないから』と、やりたがらない出版社もまだ多いようです。
他方で作家の側が『利幅が大きいから、電子書籍だけは自分で直接やるよ』とか、『電子書籍だけは、積極的にやってくれる出版社にお願いするよ』とか、いろいろな選択をする可能性があります。
善かれ悪しかれ、刺激的な時代になりました。
面白いなあ。
次回予告
今回の続きとして次回は“演奏者やダンサーにも権利がある”というテーマを解説する。
原著について
『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』
(原著:鷹野 凌、原著監修:福井 健策、イラスト:澤木 美土理)
クリエイターが創作活動するうえで、知らないと損する著作権をはじめとする法律や知識、ノウハウが盛りだくさん! “何が良くてダメなのか”“どうやって自分の身を守ればいいのか”“権利や法律って難しい”“著作権ってよくわからない”“そもそも著作権って何?”といった疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えします!