石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

ゲーマーのための10Gbpsインターネット回線導入講座

回線は10Gbps、LAN内は2.5Gbpsの構成も高コスパで現実的

10Gbpsにアップグレードすべき?

インターネット回線を10Gbpsにする価値はあるのか?

 10Gbpsのインターネット接続サービスの普及が進んでいる。NTT東日本の「フレッツ光」では、今年3月から東北地方での展開も始まっており、都市部ではかなり普及してきた印象だ。

 何事もハイスペックを求めるゲーマーとしては、インターネット回線も最高品質にしたいはず。特にオンラインゲームのプレイヤーは、高速で快適な回線を求めて、10Gbpsのサービスへすぐにでも切り替えたいと考えるはずだ。

 では1Gbpsから10Gbpsへ回線をアップグレードすると、どんなメリットがあるのか。「回線速度が10倍になるんでしょ?」と言われるだろうが、実はそう簡単にはいかない。いま10Gbpsにしようとすると何が起こるのか、解説していこう。

10Gbps対応のハードウェアはハードルが高い

 まずハードウェアの話から。一般家庭で複数の通信機器を使う前提で、10Gbpsのインターネット接続を利用するためには、10GbpsのWAN側ポートを持つWi-Fiルーターが必要だ。そして子機となるPCで10Gbpsの通信を行うには、10Gbps対応のLANカード(NIC)に加え、Wi-FiルーターのLAN側ポートも10Gbpsに対応している必要がある。

 実は有線10Gbps対応をうたうWi-Fiルーターの中には、10Gbps対応なのはWAN側だけで、LAN側は2.5Gbpsや1Gbpsなど、10Gbpsより低速な仕様のポートしか用意していない製品も結構多くある。無線規格で最新のWi-Fi 7では、実効速度で5Gbps程度の通信が可能な状態なので、Wi-Fi接続時の最高速は目指せるという構成だ。

NEC製Wi-Fiルーター「Aterm WX11000T12」。WAN/LANとも10Gbpsに対応するポートを持つ

 PCの方も、標準で10GbpsのLANポートを持っている製品はまだほとんどない。現在は2.5Gbpsが一般的になりつつあり、安価な製品だと1Gbpsのものも多い。またノートPCだと有線LANポートを搭載しない製品も多くなっている。

 これらを踏まえて、10Gbps接続できるインターネット環境を整えるには、10Gbps対応のLANカードと、WAN側、LAN側がともに10Gbpsに対応しているWi-Fiルーターが最低限必要になる。

AREA製10Gbps対応LANカード「10Koenig Gen3 SD-PE410GL2-B」。1万円前後で入手できる

 ただしLAN側に複数の10Gbpsポートを持つWi-Fiルーターはほとんどないので、10Gbpsで接続したいPCが複数ある場合は、別途10Gbps対応のスイッチングハブが必要になる。このスイッチングハブが、現時点で10Gbps環境を導入する際に最も高い障壁になっている。

 10Gbps、規格名で言えば10GBASE-Tに対応したスイッチングハブは数年前から存在しているのだが、その多くは冷却ファンを内蔵している。10GBASE-Tの製品は、下位規格の製品に比べて発熱が大きく、適切に冷却しないと熱暴走を起こしてしまうためだ。ファンレスの製品も存在はするが、夏場は動作に問題が発生することがあるという声も聞かれる。ファンがあれば当然、騒音問題が発生する。

 また価格も高価で、5ポートの製品でも3万円台からとなっている。状況は少しずつ改善しているものの、複数台の10Gbps接続を実現するのは、いろんな意味でまだハードルが高い。今後、新たな10Gbps対応チップが登場し、安価で発熱が小さい製品が出れば、10Gbps環境の起爆剤になるだろう。

バッファロー製10Gbps対応スイッチングハブ「LXW-10G5」。小型ファンを内蔵しており、3万円台半ばで販売されている

 なお10Gbpsで接続する場合は、LANケーブルはカテゴリ6A、最低でもカテゴリ6を使うことをお忘れなく。LANケーブルの性能不足でも接続はできるが、通信速度が低下する可能性がある。

ベストエフォートなので10Gbpsで通信できるとは限らない

 次はインターネット回線そのものについて。家庭向けのインターネットサービスは、常に「最大10Gbps」といった書き方になっている。いわゆるベストエフォートと言われる形だ。

 規格上では10Gbpsで通信できるが、通信回線自体を複数のユーザーでシェアして使うため、混雑時には最高速にならない。特に10Gbpsという超高速回線では、通信先の相手までの経路も10Gbps以上で接続している保証はなく、基本的には限界ギリギリの速度は出ないと思っていた方がいい。

 せめて1Gbpsは超えて欲しいと思うが、これも混雑状況によるので一切保証できない。最大10Gbpsで、時間帯によっては数Gbps出るが、夜間などの混雑時や接続相手によっては1Gbpsを下回ることも当然ある。

 これは10Gbps回線に限らず、インターネット接続の基本と言うべきものなので、覚えておいていただきたい。

NTT東日本の「フレッツ 光クロス」は、『みんなでいこう、光10ギガ時代。』というキャッチコピーを掲げているが、通信速度の説明では『最大概ね10Gbps』としている

オンラインゲームで重要なのは通信速度ではなく応答速度

 次に、オンラインゲームの通信環境改善について考える。多くのオンラインゲームユーザーは、通信のラグが減り、安定したゲームプレイができることを求めているはずだ。だからより高速なインターネット回線が欲しいと考えるわけだが、実はこの考え方は正解とは言い切れない。

 オンラインゲームの通信では、サーバーまたは相手のマシンとリアルタイムに通信を行う。その際に必要とする通信量は小さく、1Mbpsより少ないKbps単位であることが多い。オンラインゲームの通信は、キャラクターの挙動や操作入力のデータを送るだけなので、実際にやりとりするデータ量は少量なのだ。

 ただし、そのデータを1秒間に数十回、途切れず安定して送受信することが求められる。イメージとしては、大きなトラックにまとめて荷物を送るのではなく、小さいバイクを大量に並べ、荷物を1つずつ小分けにして送り続けるという感じになる。

 つまりオンラインゲームの通信には、1Gbpsでも圧倒的に過剰だ。これを10Gbpsにしたからといって、即座に何かが解決するわけではない。

 オンラインゲームの通信に重要なのは通信速度ではなく、通信を素早くやり取りできる応答速度と、通信を絶え間なく続けられる安定性である。たとえ1Gbpsであっても、応答速度と安定性を備えていれば快適だし、10Gbpsでもダメなことはあり得る。この点は以前お伝えした「Orb」の記事をご覧いただければ理解が深まると思う。

 例外的に、クラウドゲーミングにおいては、数十Mbpsといった大きな通信帯域が求められる。一般的なオンラインゲームとは異なり、サーバーで処理した映像や音声をユーザーに向けてストリーミングするというサービスなので、求められる通信量が圧倒的に大きい。それでも1Gbpsで十分足りてはいるのだが。

IPv6対応によるオンラインゲームへの問題

 もう1つ気にしておきたいのが、IPv6の問題だ。日本で最もユーザー数が多い、NTTの「フレッツ光」における10Gbps通信は、基本的にIPv6 IPoE接続になる。IPv4の通信は「MAP-E」や「DS-Lite」といった技術によるIPv4 over IPv6での通信となる。

 詳しい説明は省くが、従来のインターネットサービスで使われてきたIPv4は、世界的に枯渇する状況となっているため、IPv6という新たな仕組みへの移行が進んでいる。その橋渡しとなるのがIPv4 over IPv6の技術で、両方の環境での通信を可能とする。

 ただしこの環境では、オンラインゲームに必要なポート開放は基本的に行えなくなる。またIPv4ベースのP2P通信が求められるものは通信自体ができなくなり、プレイできない状況に陥ることもある。ゲームタイトルの設計やプロバイダの通信システムによっても異なるが、そういうことが起こり得るということは覚えておくべきだ。

 フレッツ光では、1Gbpsの環境においても従来型のPPPoE接続では通信速度低下が顕著で、その回避策としてIPv6 IPoE接続での提供が増えている。オンラインゲームユーザーの中でも、自ら進んで変更したという方も多いだろう。その場合は10Gbpsに変えても新たなデメリットが発生するわけではない。

 なおIPv4からIPv6への転換は、「フレッツ光」以外の事業者でも進んでいる。同じように「MAP-E」や「DS-Lite」を採用したサービスでは、同様の問題が起こり得る。これは避けられない時代の流れなので、できるだけゲーム側の対応を期待したいのだが、古いゲームは遊べなくなるものが出てくると覚悟しておくしかない。

NTT東日本のWebサイトにあるIPv6接続に関する説明。普通はあまり気にする必要がない話だが、オンラインゲームへの影響は比較的大きい

現状の導入パターン

 これらの情報を踏まえた上で、いま10Gbpsのインターネット回線を導入する場合、どう環境構築すべきか。3つのパターンにまとめてみた。

LAN内フル10Gbps化

 有線LAN接続するPCは10Gbps対応のLANカードを導入する。ただしゲーム機などは対応できないので、ゲーム機側の通信規格に合わせて接続する。

 10GbpsのLAN側ポートを複数持っているWi-Fiルーターはほとんどないので、10Gbps対応のスイッチングハブも必要になる。Wi-Fiルーターとスイッチングハブはそれぞれ安くても3万円台からと費用がかかる。スイッチングハブの発熱、騒音への考慮も必要だ。トータルで10万円程度は見ておく方がいいだろう。

メインのPCだけ10Gbps化

 有線LANで接続するPCは10GbpsのLANカードを導入する。10GbpsのLAN側ポートを持つWi-Fiルーターを選べば、スイッチングハブの導入は必要ない。

 Wi-Fiルーターは3万円台からとなるので、合計5万円程度の出費となる。機材の追加が最小限で済むため、場所を取らない。将来的に10Gbps対応のスイッチングハブを導入すれば、LAN内フル10Gbps化できる。

2.5Gbps化で妥協

 最近のPCは有線LANが2.5Gbpsのものが多いので、追加のLANカードは要らない可能性が高い(使用するPCを確認すること)。Wi-FiルーターもLAN側に2.5Gbpsのポートを搭載するものが多く、1万円台から入手可能だ。10Gbpsの回線を1台で使いきれない形だが、複数台同時に通信する際の混雑回避にはなる。

 LAN内をフル2.5Gbps化する場合も、複数の2.5Gbpsポートを持つWi-Fiルーターは多数存在する。またハブを導入する際もファンレスが基本なので扱いやすく、価格も1万円程度からある。

 どの案が優れているというものではなく、LAN内の接続機器の数や求める速度によっても違うので、予算と相談しながら考えてみて欲しい。ちなみに2.5Gbpsの規格である2.5GBASE-Tでは、カテゴリ5eのケーブルも使用できるので流用しやすい。ただ新たに購入するならカテゴリ6Aのものを選ぶのが無難だ。

 今回の話が難しいと感じた方には、LAN内は2.5Gbpsの導入から始めてみることをおすすめする。それでも1Gbps環境からは2.5倍速になる上、インターネット回線がベストエフォートであることを考えれば、現実的かつ最もコストパフォーマンスに優れる案であると言える。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。