石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

オンラインゲームのラグはサーバーのせい? 応答性や信頼性を数値化するツール「Orb」で調べてみよう

「Orb」のメイン画面

ゲーム用のインターネット回線は難しい

 『オンラインゲームに適したインターネット回線とは?』という質問に的確に回答するのはけっこう難しい。光回線がいい、無線はダメ……といった話は出てくるし、スピードテストを試してみてはと言う方もいらっしゃるだろう。

 筆者なら、『大事なのは速度より安定性と応答速度。特に混雑しやすい夜間や休日に状況が悪くないかどうかを調べたい』と答える。ただ、良し悪しの基準は説明しづらいし、適切な調査方法とタイミングで調べてもらうのは簡単ではない。

 もっと手軽に調べられて、問題をあぶり出せる仕組みはないかと長年思い悩んでいたところ、ついに決定版となるアプリを見つけた。それが「Orb」だ。

応答性と信頼性に重点を置いた画期的なツール

 「Orb」は、インターネット通信の速度だけでなく、応答性や信頼性も測定するアプリ。Windowsのほか、macOSやLinux、スマートフォン、Raspberry Piなどにも提供されている。しかも無料だ。

 今回はWindows 11にインストールする。公式サイトからWindows向けアプリをダウンロードし、インストール。メールアドレスによるユーザー登録を済ませて、アプリを実行する。

起動時にメールアドレスによるユーザー登録と、使用するマシンの名前の設定を求められる

 アプリのメイン画面では、「Orb Score」が表示されている。このスコアは100点満点で、インターネット回線の品質を示している。つまり、このスコアが高ければ、質の良いインターネット回線であると言える。筆者宅はオンラインゲームでラグを感じたことはほぼなく、「Orb Score」は97点で安定している。

 「Orb Score」をクリックすると、より詳細なデータを確認できる。データは「Responsiveness(応答性)」、「Reliability(信頼性)」、「Speed(速度)」の3項目に分けられており、それぞれにスコアが表示される。「Orb Score」は、「Responsiveness」と「Reliability」の平均値のようだ。

回線品質が3つの項目で評価される

 起動したまましばらく置いておくと、「Responsiveness」と「Reliability」のデータが蓄積されていく。標準では直近5分間の平均データが示されているが、ウィンドウ上部にあるタブから、1分、5分、1時間、24時間の直近データを確認できる。これが本ソフトの素晴らしい点だ。

 インターネット回線の通信速度を測定するには、一定の通信量を必要とする。本ソフトが裏で勝手に時々スピードテストを実行したら、ゲーム中に余計な通信が発生して通信ラグの原因になり得るので嫌だ(テスト対象にされるサーバーはもっと嫌だと思う)。

 しかし、本ツールは基本的に応答性と信頼性だけを見ている。応答性はいわゆるPing値など、信頼性はパケットロスの割合だ。これをチェックするのに使用する通信量はごく僅かで、オンラインゲームの通信に影響を及ぼすほどではない。常駐させておいても気になることはないだろう。

 本ツールは、従来からあるスピードテストのように通信速度を見るものとは違い、応答性と信頼性に価値を見出すツールと言える。オンラインゲームに必要な情報を、ごくわずかな負荷で常時監視できる。

 「Responsiveness」と「Reliability」はより詳細なデータを確認できる。「Responsiveness」はPing値のベストとワースト、ジッター(Ping値のゆらぎ)、パケットロスの割合が見える。「Reliability」は、パケットロスがいつどの程度起こったかをグラフで確認できる。常に安定して応答する状態かどうかが目で見える仕組みだ。

それぞれのスコアだけでなく、詳細なデータも確認できる

 細かいデータを見たい方は見ればいいと思うが、基本的には「Responsiveness」と「Reliability」が十分なスコアかどうかで判断できる。回線状況が悪くなれば、Ping値が悪くなってジッターの値が上がり、「Responsiveness」が低下。さらにパケットロスが発生して「Reliability」の値も下がる。

 すると、「Orb Score」も下がることになる。『日中は快適だけれど、夜になったらゲームでラグが出る』という場合、本ツールを起動しておけば、日中より夜間のラグが発生する時間帯に、「Orb Score」が下がっているのが確認できるはずだ。ネットワークに関する詳しい知識がなくても、「Orb Score」の値で状況が把握できる。

 オンラインゲームのラグが発生すると、多くの方が『サーバーの調子が悪い!』と文句を言うのだが、ほとんどの場合は自分の回線状況の悪化が原因である。ただ、昼間は快適なのに、夜間や休日だけ速度が落ちるというのが、なかなかイメージしづらいのもわかる。本ツールなら、その点も有無を言わせず答えが示されるわけだ。

 「Orb Score」がどのくらいなら良いのか悪いのかという基準は明確ではないが、機能説明を見ると、90点以上なら十分、70点を割るようだと問題あり、という感じに見える。もちろん高ければ高いほどいいし、普段は高いのに少し下がる時間帯があるなら、影響は小さいながらも回線の混雑などの問題が観測できていると言える。

何点なら大丈夫というものではないが、一応この説明が基準になりそう

 というわけで今後、筆者がゲーム用のインターネット回線について聞かれたら、『「Orb」を入れて1週間ほど様子を見て。回線の不調を感じた時に「Orb Score」が下がっていないか確認して』と言うことにする。明らかに下がるようなら、特定の時間帯に品質が落ちる回線だとわかる。

2時間ほど置いてみたデータ。主に夜間に回線状況が悪くなりやすいので、できれば1日通しての値を見てみたい

 もしそんな状況に陥ったら、モデム(ONU)やルーターの再起動をして、値が変わるか見てみるのもいいだろう。有線と無線の品質の違いも簡単に把握できるので、無線だと調子が悪いと感じる方のテストにも使える。

 さらに応用的な使い方として、複数の端末に本ツールを導入すると、各端末の通信品質を一括管理できる。端末がオフラインになると通知する機能もあり、常時起動しているマシンの生存確認にも使える。

複数端末を登録し、端末がオフラインになったら通知する機能も用意されている

 ぜひ本ツールの利用者が広がって、自分の回線を冷静に分析できるようになって欲しい。ラグはサーバーのせいだと言う人が少なくなれば、オンラインゲームの運営会社はユーザー対応の負担が減って助かるはずなので、そういう意味でも本ツールを活用して協力してもらえればと思う。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』 記事一覧

 PCゲームに関する話題を、窓の杜らしくソフトウェアと絡め、コラム形式でお届けする連載「石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』」。PCゲームファンはもちろん、普段ゲームを遊ばない方も歓迎の気楽な読み物です。