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純国産「Copilot Keyboard」はAIとの関わり方を変えるIME ~開発者に聞いた

話題の「カイル」くん実装は始まりに過ぎなかった!? 今後の展開にも注目!

「Copilot Keyboard」

「カイル」くんが居るだけのIMEではない

 2026年4月、マイクロソフトが新たな日本語IME「Copilot Keyboard」の正式版を公開した。Windows 11専用で、Microsoft Storeか公式サイトから無料でダウンロードできる。

 このニュースを弊誌に掲載したところ、多くの反響をいただいた。正式版に合わせてのアップデートで、「Microsoft Office」のキャラクターであり、現在はインターネットミーム化している「カイル」くんがマスコットとして実装されたのが話題になったようだ。

 Windows 11には標準でMicrosoft IMEが搭載されている。ほとんどの方はこのIMEを何の意識もせず使い、特に困ってもいないだろう。では「Copilot Keyboard」は何のために作られ、どんな価値があるのだろうか?

 そこで「Copilot Keyboard」を開発した、マイクロソフト ディベロップメント(株)でMicrosoft AI Japan開発統括本部のプロダクトマネージャーを務める山岸真人氏にお話をうかがった。ただ新しいIMEを作りたかったわけではなく、別の大きな意味を持つという。

AIは進化するのに、人間の入力環境は進化しないでいいのか?

山岸真人氏

――「Copilot Keyboard」の開発のきっかけは何だったのでしょうか。

山岸氏:そもそものきっかけは、「Copilot」というAIツールが、日常的によく使うものになったことです。今までより文章を入力することが増えたんですね。人にメッセージを送ったり、ドキュメントを作るだけではなく、AIに対して指示を出すという新しい文章を入力する状況が生まれました。

 「Copilot」はこちらが打ち間違えたり、言い間違えたりしても、その間違いさえも意図を読み取って情報を出してくれます。「Copilot」がこんなにいいアウトプットをしてくれるのに、なぜ入力する人間側は変わらないのだろう、と感じたのがきっかけです。

――人間側にもAI時代に合ったIMEがあるべきではないか、ということですか。

山岸氏:そうですね。そして「Copilot」が文字情報をとてもうまく処理してるのを見て、『この技術は日本語入力の体験をよくするために使えるはずだ』と発想がつながりました。

――開発体制や、開発におけるこだわりについて教えてください。

山岸氏:開発体制は、私も含めて、もともとは「Copilot」の開発チームです。日本語入力の悩みどころがわかるスタッフが集まって、日本に拠点を置いて開発しています。

――純日本製なんですね。

山岸氏:開発においては、体制の中にさまざまなAIを組み込んでいます。「GitHub Copilot」を使って、いろんなモデルを使い、コーディングからテストまでAIを入れています。きちんと確認したわけではないですが、従来であれば想定される開発要員の1/5から1/10くらいの体制でできています。

――それはすごいですね。

山岸氏:1から機能を作る時に、ベースとなるプロトタイプを作ってもらうこともあれば、新しいビルドを出すたびに行うテストもやってもらいますし、変換精度の計測みたいなこともAIツールを使っています。それが1つのこだわりでもありますね。

新語の登録は「Bing」と「Copilot」で迅速に対応

――次は製品自体のお話をうかがいます。Windows 11の標準のIMEに対して、「Copilot Keyboard」にはどういう違いがあるのか教えていただけますか。

山岸氏:大きく分けて2つあります。まず日本語入力の辞書が非常に柔軟になったのが大きなポイントです。従来のIMEもよくできているのですが、辞書の柔軟性という弱みがあります。個人的な癖を学習することはできますが、日々生み出される新しい言葉に追いつけません。

 毎月だいたい1,000~2,000語くらい新しい言葉が出てくるのですが、それらをなかなかキャッチアップできないんです。これは単純に、設計上の制約としてありました。「Copilot Keyboard」ではそこに手を入れ、ユーザー辞書を拡張しやすくするとともに、新しい言葉をほぼ毎月配信することで、新しい言葉が変換候補にすぐ出るようになりました。

――今までより新しい言葉がフォローされやすくなるわけですか。

山岸氏:新しい単語が登録されるだけではありません。季節的によく使われる用語や、新しいドラマとか映画のタイトルといった、時事用語が変換の上位に出るようになっています。確定申告の時期には税関連の言葉がよく使われるので、変換の上位に出やすくなる、といったことにも対応しています。

話題性のある言葉を入力すると、関連する変換候補が表示される。変換する言葉の意味も確認できる

――その時期に欲しいであろう変換候補を出せるんですね。

山岸氏:はい。そしてもう1つは、そういった新しい用語の意味を表示するようにしました。変換候補のウインドウの横に小さいウインドウが出てきて、言葉の定義や使い方が出てきます。さらに、その言葉に関連しそうな言葉も出てきて、そこをクリックすると「Copilot Answer」という「Bing」の機能で詳細を調べられます。新しい言葉が出てきても悩まないようにしてあります。

――「Copilot」と連携した機能ということですね。ただ話を聞く限りでは、辞書データのアップデートがとても大変なのではないかと感じます。

山岸氏:ここにもAIが入っています。「Bing」の検索データをもとに、新しい言葉を「Copilot」が拾ってきてくれる仕組みを作りました。みなさんが今、よく調べられている言葉、事柄は何かを確認し、毎月それを精査して配信するという仕組みを作り上げました。ですから、ほとんど人の手が要りません。

――AIが最新の言葉をピックアップしてくれて、最新の用語がほぼ自動に近い形でたくさん入ってくれるわけですか。

山岸氏:はい。実際にこれを続けた結果、その時に欲しい言葉が変換上位に浮上するようになったので、この仕組みは間違っていないんだと確信を得ました。

――インターネット接続が前提という印象を受けましたが、オフライン環境でも使えますか?

山岸氏:もちろん使えます。データはオンラインで配信していますが、1回ダウンロードしていただければ、オフライン環境でも新しい用語が出てきます。横のウインドウに出る用語解説も出せます。「Copilot Answer」の機能だけは途切れてしまいますが、それ以外は問題ありません。

AIとチャットするハードルを、キャラクターと会話する形で下げる

――今回、「Copilot Keyboard」が大きく話題になった理由は、キャラクターが登場したことでした。IMEにキャラクターが必要なのか、というところから議論があったのではないかと思いますが、キャラクターを入れた意図はどこにあるのですか?

山岸氏:これは冒頭でお話しした開発のきっかけにつながります。AIに対して指示文、プロンプトを作成するという、新しい状況が生まれました。そこをもっと快適にできないかというのが開発のきっかけです。「Copilot」を使う時に文章を入力することは避けて通れません。

――確かに、誰であっても「Copilot」などのAIには日本語を入力しなければいけないですね。

山岸氏:ですから、「Copilot」を最大限活用できる場所を一緒に提供しようと考えました。キャラクターというインターフェイスを通じて、「Copilot」を使っていただくきっかけを作りたかったのです。

――キャラクターを用意することが重要なのですか?

山岸氏:これまで「Copilot」のようなチャットAIを使ってきた方々も、一番最初はテキストボックスに向かって自然言語を入力することに、非常に抵抗があったと思います。かなり昔に、検索エンジンが生まれた頃には、検索ボックスに何を書いていいのかわからないという方が多くいらっしゃいましたが、だんだん使えるようになっていったと思います。

 今、「Copilot」のようなAIがまさにその状況にあると思っています。おそらく時間が解決すると思いますが、その時間がもったいないと感じます。もっと皆さんに「Copilot」を使って欲しい、利用を加速したいと思っているので、キャラクターというコンセプトを使うことにしました。

 キャラクターに対して、『これはもっと気軽に話しかけていい存在なんだ』と認識していただけるのではと考えています。AIに対してテキストボックスに文章を入力するというのは、万人にとって正しい体験とは思えません。誰もが親近感を持って、AIをもっと身近に感じられるインターフェイスであるために、キャラクターという手段を取りました。

――AIとチャットするのではなく、キャラクターに対して話しかける、という意識にさせたいわけですね。

山岸氏:はい。「Copilot」は人間が話しかけてくれないと、今はまだ自律的に動いてくれません。一般向けに無料で提供している機能なので、まずは親近感を持っていただき、気軽に話しかけていただける存在になって欲しいと思っています。

――なるほど。そこでいろいろなキャラクターを入れる中で、マイクロソフトのキャラクターとしてはとても有名なイルカの「カイル」が登場しました。話しかけると、標準の「Copilot」とは違う個性を持った会話をしてくれます。これはどういう仕組みなのですか?

「Microsoft Office」に登場したキャラクター「カイル」くんが復活。クリックすると画面右側に「Copilot」のウインドウが表示される

山岸氏:ベースとなるテクノロジーは標準の「Copilot」です。キャラクターはストーリーや人格がある存在ですから、それらを「Copilot」の上に載せて設計しています。もともと自分がどこから来た存在なのか。昔どういうことをしていたのか、ということも認識しています。

――他のキャラクターも含めて、『あなたはこういうキャラクターだよ』という設定を作っていったわけですね。

山岸氏:そうですね。他に「ミカ」や「エリン」といったキャラクターもおり、それぞれ違った人格、違った背景を持っています。

――「カイル」くんが復活したことに対する反響が非常に大きかったですが、これほどの反応があるのは予想されていましたか?

山岸氏:想定はしていました。昨年秋ごろに「Copilot Keyboard」のベータ版を出して、キャラクターが登場するようになってから、『あの「カイル」くんはいつ復活するの?』とずっとフィードバックをいただいていました。これはやらなきゃいけないと思いましたし、おそらく大きな反響があるだろうと感じていました。

「カイル」くんに『あなたは誰?』とたずねると、個性的に自己紹介してくれた

――それが正式版と合わせて登場したわけですね。とっておきのキャラクターという感じで。

山岸氏:『マイクロソフトのデスクトップのキャラクターといえばこれだよね』と反応される方が多かったですね。

――『話題になっているけれど、これ誰?』という反応をしている方がいらっしゃったのも面白かったです。20代より若い方だとそうなりそうですね。

山岸氏:世代間に認識のギャップがあるとはわかっていました。実は調査したんです。20代の方も、『実際触ったことはないけれど、ネットミームで見たことがある』と言っている方が多かったですね。全く知らなくても、「カイル」の見た目がとても魅力的なので、受け入れられるだろうと思っていました。

――なるほど。ちなみにマイクロソフトには、ほかにも多くのキャラクターがいらっしゃいます。そこからさらに追加していく計画はありますか?

山岸氏:個人的にはやりたいと思っていますし、チームとしてもそれが正しい方向だと認識しています。皆様の声を聞いて我々が感じているのは、「カイル」を使いたいのではなく、自分の好きなキャラクターを使いたいのだということです。好きなキャラクターを好きなスタイルで使える、といった方向を模索していきたいと思っています。

――ちなみに編集部からは「冴子先生」を入れて欲しいという声があるのでお伝えしておきます(笑)。

ほかのキャラクターも選べる。こちらは「アクア」

AIをより身近に、自分にフィットする形へ導くIME

――開発チームの方々が「Copilot Keyboard」を使われてみて、従来のIMEと体験として変わったと感じるところはどこですか?

山岸氏:日本語変換に関しては、生産性が上がっているのを実感しています。具体的な数値はお出しできないのですが、実際に検証してみて、変換精度が上がっているのも確認しています。

――IMEの基本的なところの性能向上が確かにあると。

山岸氏:そしてパーソナライズですね。スマートフォンのケースを自分の好きなのに変えたり、好きな文房具を使ったりというのは、皆様もされていると思います。「Copilot Keyboard」は、Windowsの一番目立つところをパーソナライズするインターフェイスで、Windowsの中でも一歩先を行っていると実感しています。「メモ帳」でも「Office」でも、Windows本体でも、このパーソナライズの仕組みが来てほしいと強く思うようになりました。

――自分の好きなキャラクターを使えるように、とおっしゃっていたのは、そういうところもあるわけですか。

山岸氏:はい、それもあります。

――では、キャラクター以外の部分で今後考えられていること、何かやりたいことがあれば教えていただけますか。

山岸氏:日本語能力に関しては、基本的な機能がもうできていると思っています。それ以外の方法で「Copilot」を使って、もっと効率よく入力できる方法を模索しています。

 個人的には、キャラクターをクリックして「Copilot」を呼び出すことが増えたのですが、だんだんクリックして呼び出す操作が煩わしくなってきました。日本語入力をしてる最中でも、手を止めずに「Copilot」にアクセスする、もしくは「Copilot」に出力してもらうことができないか模索しています。それが生産性を上げる機能につながらないかと考えています。

――IMEの枠を超えた難しい問題ですね。

山岸氏:さきほど季節によって変換候補を変えるという話をしましたが、そこはもっとパーソナライズできるのではないかと思っています。個人のSNSに書く時と、仕事先にメールを書く時とで、文章のトーンは全く違いますから、それに合わせるべきだと思います。絵文字なんかもパーソナライズが効くところでしょうね。

 あとは文章を作る際に、挨拶や締めの言葉など、よく使う表現の塊があると思います。そういったものも1から入力しないで、パーソナライズした結果を変換ウインドウに出せないか、といったことも考えています。

――AIエージェントっぽい感じの動きになってきますね。

山岸氏:そうですね。ただ、このあたりはすぐにはできません。技術的な問題より、プライバシーの問題のハードルが高いです。人が入力した文章を、AIが何でもかんでも読み取っていいはずがないですから。

――では最後に、「Copilot Keyboard」やWindowsのユーザーに伝えたいメッセージがあればお願いします。

山岸氏:「Copilot Keyboard」は日本語入力アプリではありますが、AIとの関わり方を変えるアプリだとも思っていただきたいです。これまでは「Copilot」などのチャットAIは、アプリをインストールして自分で使いに行くという流れだったと思いますが、「Copilot Keyboard」ではAIが自分の指先にあり、いつでも話しかける存在になります。

 AIと積極的に関わり合いながら、メールでもチャットでもSNSでも、気持ちよく入力できるという世界を、多くの方に実感してもらいたいと思っています。入力していて、書きづらい、言いづらいと思ったことがあったら、キャラクターに聞いてみていただければ、『こんなことができるんだ』とか、『もっといい文章を書けるようになった』と感じていただけるはずです。

――新しいIMEとしての存在はもちろんですが、AIとの架け橋になるというのはとてもいいメッセージだと思うので、強くお伝えしていきたいと思います。ありがとうございました。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/