石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

オンラインゲームがラグる! 光回線なのにゲームの通信が不安定になるのはなぜ?

「Apex Legends」のプレイ画面。設定でping値を表示できる

オンラインゲームがラグるのを何とかしたい

 オンラインゲームをプレイしたことがある人なら、操作の反応が遅れたり、急に動いたりする状況は、誰もが経験したことがあるはず。これはサーバーとの通信がうまくいかず、データの送受信が一時的に途切れた時に発生する。通信のタイムラグが発生することから、ゲーマー界隈では「ラグる」と表現される。

 インターネットの通信網は、多くのユーザーが共有するものであり、ある瞬間だけ通信網が混雑して遅延が発生することも考えられる。最近だとボクシングの井上尚弥が試合をした際、日本各地で一時的に通信速度の大幅な低下が見られたことがあった。直接的な原因がこの試合の中継であったかどうかは定かではないが。

 ともかくユーザー宅とゲームサーバーがインターネットを介して繋がる以上、ラグる可能性はなくせない。ラグの発生が続くと、「サーバーのせいだ!」とゲームの運営会社を批判する声が上がることも多いが、実際にはユーザーの回線の問題であることも非常に多い。

 しかしラグの原因を突き止めるのもなかなか難しい。今回は自分の回線に問題がないかを確かめるため、Web上で利用できるスピードテストを活用する方法をお伝えする。ポイントは通信速度ではなく、安定性だ。

最初に自宅内の問題を確認しよう

 通信のラグは、ユーザーとゲームサーバー間の通信が遅れたり、あるいは途切れたりすることで発生する。原因は通信の混雑であることが多いが、それが自宅内の混雑か、利用しているインターネットプロバイダーの混雑か、さらに上流のインターネット通信網なのかは、すぐには判断できない。いずれの場合でも、オンラインゲームでは同じようにラグる。

 原因を探るには、ユーザーに近いところから順に問題がないかを調べるのがいい。まずは自宅内で誰かが大容量のダウンロードを仕掛けるなどしていないか確認する。1人暮らしの場合でも、使用していないデバイスで自動アップデートがかかっている可能性もある。最近だと家庭用ゲーム機が省電力状態でゲームのアップデートを仕掛ける機能を持っており、大容量のダウンロードを行うことも多い。

 また長時間稼働し続けているモデムやルーターなどのネットワーク機器が不調に陥っている場合もある。定期的に再起動をかける設定になっているのが理想だが、通信に不調がある時には一斉に再起動(再起動の機能を持たないデバイスは電源の抜き挿し)してみるのもいい。

 これらでラグが改善すれば、自宅内の問題だったということになる。

筆者宅にあるONU内蔵ルーターだと、設定画面の中にある機器リセットを選べば再起動できる。機器によってリセットや再起動など表現が異なるので、適切なものを探して欲しい

スピードテストでインターネット回線の混雑状況を見る

 次は自宅の外、利用しているインターネットプロバイダーの問題を調べる。通信ができないなど明らかな不調がある場合は、スマートフォンなどの別回線から、プロバイダーのホームページで障害情報が掲載されていないかを確認するのがいい。トラブルが起きた時間帯にメンテナンスの予定が入っていることもあり得る。

 通信が遅い、ラグると感じる時は、Web上のスピードテストを利用するのがいい。あらかじめ混雑していない時に実施して、自宅のインターネット回線がどの程度の通信速度なのかを知っておけば、混雑時にはそれをかなり下回る通信速度になっているのを確認できるはずだ。

 筆者がよく利用するのは「Speedtest by Ookla」。Googleで「speedtest」と検索すると一番にヒットするWebサイトなのだが、性能と使い勝手がいい。操作は表示された「GO」のボタンをクリックするだけで、しばらく待てば上りと下りの通信速度とping値が表示される。

「Speedtest by Ookla」。広告が多すぎるのは気になるが便利なので仕方ない

 筆者がこのスピードテストを気に入っている理由は2点。1つは1Gbps以上の通信にも対応していること。他のスピードテストサイトは最大1Gbpsまでのところが多いのだが、こちらは1Gbps超の速度も安定して測定してくれる。

 もう1つは通信先のサーバーが選べること。自動選択では物理的距離の近いサーバーが選ばれるようだが、東京だけでも複数のサーバーがあり、変更すると通信速度の傾向が変わることがある。例えば筆者宅だと標準で「i3D.net」が選択されるものの、上り通信速度が100Mbps前後に留まることが多い。そこでサーバーを「IPA CyberLab 500G」に変更すると、1Gbpsに迫る速度になる。

 このどちらを参考にすべきかと言うと、より高速な結果が出た「IPA CyberLab 500G」の方だ。「i3D.net」で速度が出ない理由はわからないが、「IPA CyberLab 500G」の結果から、少なくとも筆者が利用するプロバイダーを通してインターネット上のスピードテストを実施する環境で、上り1Gbps近い速度が計測できているのがわかる。つまりプロバイダー内の通信網では大きな混雑は見られない状況だと推測できる。

選んだサーバーによって計測値が変わることもあるので、いくつか変えて試してみるといい

少量でも高速で安定した通信が必要

 筆者宅のインターネット回線は通信速度が概ね安定しており、混雑する夜間帯も大きな通信速度の低下は見られない。上りが若干遅くなっている時もあるが、それでも数百Mbpsという単位は変わらず、見た目上は十分な速度を保っているように見える。

 しかしこれでもラグる時はある。オンラインゲームはキャラクターの動きをリアルタイムに伝えるため、膨大な量の通信をしていると思っている方も多いと思うが、実際にはプレイ中に使われるデータ量はかなり小さい。基本的には、必要な通信はキャラクターなどの動きのデータだけで、画像やプログラムなどはやり取りしないためだ。

 ラグのないオンラインゲームに必要なのは、何Gbpsといった大容量通信ではなく、少量でも高速で安定した通信だ。極端な例で言うと、1秒おきに1Gbpsで通信し、完全に途切れるという動きを繰り返しているインターネット回線だと、平均通信速度は500Mbpsになる。しかし1秒おきに通信が途絶するので、結構なラグが発生することになる。

 もしオンラインゲームの通信が1Mbpsで足りるとすると、1Gbpsの回線の1/1000もあれば通信帯域は足りる。1Mbpsを途切れることなく、コンスタントに高速で送受信できれば、そのオンラインゲームはとても快適にプレイできるということだ。実際にはほとんどのオンラインゲームで1Mbpsも使わないはずだ(アップデート等のダウンロード時は除く)。

 筆者がラグを感じ、通信の安定性を調べる際には、Web上のスピードテスト「Radish Networkspeed Testing」を利用している。こちらは測定できる最大速度が1Gbpsまでのようなのだが、測定結果は通信速度のほか、RTTと測定品質というデータを含めてくれる。

「Radish Network Speed Testing」。JavaScriptを使った計測で、現在は最新のVer.5が公開されている

 RTTというのは、自分の通信がサーバーに届き、その応答が戻ってくるまでの時間のことで、ping値と同等のもの。測定品質については、「安定した状態で測定できたかどうかを表す」としている。「回線の品質を表すわけではない」とも書かれているのだが、混雑している通信回線で実施すると、測定品質の値が著しく悪くなる。ラグの程度と相関関係があるのは間違いない。

 測定品質は最高値が100のようで、筆者宅で通信に問題がない時に測定すると90以上の値が出る。しかし稀に通信状況が悪いなと感じた時に試すと、60や70といった値が出ることがある。試行によるブレが大きいので、「これより下の値だとNG」という基準はないのだが、普段と比べて通信の安定性が下がっていないかを調べるにはとても重宝する。

 こちらも昼間など混雑が少ない時間帯に実施しておき、夜間など混雑する時間帯にラグを感じた時に実施すれば、自身の通信回線に問題があるのかどうかを判断できる。もし測定品質が著しく悪化していれば、ラグはサーバーのせいではなく自宅のインターネット回線が原因だと判断できるわけだ。

オンラインゲームで重要な通信の安定性は、測定品質の値から推測できる

できることとできないことを切り分けて理解することが大切

 もし自宅のインターネット回線に問題があると判断すれば、プロバイダーや回線事業者の変更を検討することになる。しかし変更した先の通信が安定しているという保証はない。また同じプロバイダーでも都道府県など地域が変わると混雑状況が違うということもあり、他人の情報もさほどあてにできない。

 さらにゲームサーバーが海外にある場合、物理的距離によってラグは避け得ない。北米サーバーに接続するオンラインゲームだと、日本からのping値は150~200ms程度になることが多い。インターネットの仕組み上、これ以上の改善は難しく、常に0.2秒程度のラグが発生した状態になる。国内サーバーだと最近は数msということもあり、違いは大きい。

 さらに日本と海外の間の国際通信網の混雑もあり得る。プロバイダーを変更することで通信経路が変わり、改善する可能性もあるものの、何の保証もないためおすすめはしづらい。究極の対策はサーバーがある現地への移住、と真顔で言わざるを得ない(eスポーツ選手だとこういう話が本当にある)。できないものはできないので、どこかで諦める必要もある。

 今回お伝えしたかったことは、ラグる原因の多くはユーザーの回線側にあり、状況を知るための手段としてスピードテストの使い分けと理解が必要だということだ。「うちは光回線だから大丈夫!」と決めつけている方を多く見かけるが、日本の個人向けインターネットサービスの多くはベストエフォート、つまり「できるだけがんばって提供する」ものだ。光回線だとか何ギガだとかは、通信の安定性には何の保証にもならない。

 インターネットの利用者が増える夜間や休日など、時間帯によって混雑するのは当たり前のこと。そして以前は快適だったインターネット回線が、ユーザー増など何らかの理由で低速化するのもよくあることだ。それらの前提に立って、オンラインゲームのためのより良いインターネット回線を選択・管理していただきたい。

 なお筆者以外の誰も気づいていないと思うが、今回が本連載の第100回となる。5月時点で累計220万ページビューを突破し、メガヒットを記録した連載と自称していこうと思う。長らくお楽しみいただいている読者の皆様に感謝しつつ、今後もより面白くお役に立てる話題をお伝えしていきたい。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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