石田賀津男の『酒の肴にPCゲーム』

Wi-Fi 7はゲーマーにとって革命的な進化! 有線LANが不要になる時代が来るか?

速度だけではない、そのメリットを解説

Wi-Fi 7認証プログラムのロゴ

Wi-Fi 7はゲーマーにも大いなる福音となる

 先週はWi-Fi 7を全力でけなすような記事を書いたのだが、決してWi-Fi 7が悪いわけではない。ただ日本の制度と食い違っているだけだ。日本の技適制度が悪いと言っているわけでも……いやそちらはもう少しどうにかならんかと思わないでもないが。

 Wi-Fi 7の名誉を挽回すべく、今週はゲーマーにとってWi-Fi 7がいかに素晴らしいものかを解説する。「ゲーマーなら有線だろ」という声は承知しているが、ポータブル機を始めとしたゲーミングPCやゲーム機には有線LANポートがないものも今や当たり前にあるし、スマートフォンでオンライン対戦ゲームを遊ぶ時代。「有線以外認めない」と言うこと自体がもう時代遅れである。

 ではWi-Fi 7がゲーマーにとってどう素晴らしいのかを語っていこう。

6GHz帯の利用による高い安定性

 Wi-Fi 6まで、Wi-Fiは2.4GHz帯と5GHz帯という2つの電波帯を使用してきたが、Wi-Fi 7では6GHz帯も使える。6GHz帯はWi-Fi 6Eで導入されたもので、Wi-Fi 7の新機能ではないのだが、Wi-Fi 6Eの普及率が低いこと、またゲーマーにとって最も有意義な要素なので、真っ先に語りたい。

 従来使用できた2.4GHz帯と5GHz帯には、電波干渉の問題があった。2.4GHz帯はWi-Fiだけでなく、Bluetoothなど他の無線機器でも使用されているし、電波を発する家電製品などでも使用されている。

 電波は文字通り波なので、同じ波長の波が重なると干渉しあい、Wi-Fiの速度が落ちたり不安定になったりする可能性がある。さらに電子レンジのように強力な電波を発する機器が近くで使われると、Wi-Fiの電波はかき消され、通信できなくなる。「電子レンジを使うとWi-Fiが切れる」という症状は、2.4GHz帯を使用していると発生する問題だ。

 5GHz帯では電子レンジの影響は受けない。また5GHz帯を使用する機器も比較的少ないので、安定したWi-Fi通信が可能になる。しかも使用できる帯域も広いので、2.4GHz帯よりも高速な通信ができる。

 そんな5GHz帯にも1つだけ弱点がある。それが「DFS(Dynamic Frequency Selection)」というもの。

 5GHz帯は家庭用機器での利用は少ないものの、気象レーダーや航空機レーダーなどのレーダー波として使用されている。Wi-Fiの電波がこれらのレーダー波を邪魔しないよう、国内で使われるWi-Fiルーターは、レーダー波を感知した際にその電波帯の使用を30分間停止する。この機能がDFSである。

 もし自分が使用中の電波帯が停止されても、Wi-Fiルーターが自動的に別の電波帯に切り替えるので、30分間通信できないわけではない。ただし切り替えの際には接続がいったん途切れることになる。切断時間がごくわずかであっても、オンラインゲームのプレイ中などには許容しかねる問題だ。

 回避方法としては、5GHz帯の中でもDFSの対象とならない電波帯を選択しておくという手がある。ただしこの場合、使用できる帯域幅は最大80MHzに限定される。Wi-Fi 6では最大160MHzの帯域幅が使用できるので、その半分しか使えないことになる。また初期設定でこの帯域を使用するWi-Fiルーターが多く、近隣の家庭でも使用されやすく、混雑しがちなのも問題だ。

5GHz帯の中でDFSの対象とならない電波帯は少ない

 では6GHz帯はどうか。電子レンジの影響を受けることもなければ、DFSで切断されることもない。さらに現状では6GHz帯を使用するWi-Fi機器もさほど出回っていないので、空いている状態で使用できる。

 なお6GHz帯のメリットはWi-Fi 6Eでも得られるので、Wi-Fi 7が普及するまでのつなぎとして、Wi-Fi 6Eを導入するのも1つの手だ。

MLOの導入による高速化・安定化・遅延低減

 Wi-Fi 7の新機能で最もゲーマーに恩恵が大きいのは、「MLO(Multi-Link Operation)」だと筆者は考えている。Wi-Fi 6E以前は、ユーザーがいずれかの周波数帯を選択して接続していたが、Wi-Fi 7では複数の電波帯同時にまとめて利用できる。

MLOなしのイメージ
MLOアリのイメージ

 これによるメリットは大きく3つある。1つは通信速度の高速化だ。複数の電波帯を同時に使うのだから、通信速度は足し算で速くなる。

 2つ目は接続の安定化。複数の電波帯で通信を確立していれば、そのうち1つが途切れても、通信全体としては継続できる。Wi-Fiが途切れる現象はかなり解消されるはずだ。

 3つ目は遅延低減。通信は複数の電波帯に適切に割り振られるので、並列処理されることに加えて混雑も回避でき、通信は低遅延となる。

 これら3つのメリットは、ゲーマーがWi-Fiに対して持っているネガティブな印象を大きく払拭する要素になる。特に安定化と低遅延は非常に効果が高く、通信速度でも有線接続を上回れば、もはや有線は要らないと言う人も増えるのではないかと思う。

 さらにもう1つ付け加えると、MLOによってユーザーはどの電波帯に接続するかを意識する必要がなくなる。従来のWi-Fiでも、異なる周波数帯で同じSSIDを設定し、Wi-Fiルーターが適切な電波帯を選んで子機と接続する機能を持っているものがある。これは「バンドステアリング」などと呼ばれている。

 この場合はいずれか1つの電波帯に接続することになるため、2.4GHzで接続した場合は、通信速度が低めになるという可能性もあった(代わりに遠くまで電波が届くというメリットはある)。しかしMLOであれば同時に複数の電波帯で通信できるので、その時その時で理想的な接続状況を維持できる。この辺りは実機でどのような挙動になるか次第だが、仕組みとしてはバンドステアリング的な挙動で便利に働くはずだ。

さらなる高速化などなど。ただし……

 他にもまだある。電波の変調方式が「4096-QAM」となり、Wi-Fi 6の「1024-QAM」から速度が向上する。数字の見た目通りに4倍になるのではなく、10bitが12bitになり、1.2倍となる計算だ。

 さらに6GHz帯では320MHz幅での通信が可能となる。Wi-Fi 6までは最大160MHz幅だったので、ここで2倍の速度向上が見込める。4096-QAMと合わせれば、6GHz帯だけで2.4倍である。

 他にも電波をより効率的に利用して混雑を減らす「Multi-RU(Multi-Resource Unit)」や、同時接続台数が最大16台に増える「16×16 MU-MIMO(Multi-User Multiple Input Multiple Output)」などもある。小人数での利用を想定した場合にはあまり影響はないが、多方面で機能強化されているのがわかる。

 そして重要なのは、互換性が維持されていることだ。Wi-Fi 7対応のWi-Fiルーターを導入したとしても、Wi-Fi 6Eより前の機器も基本的には通信できる。暗号化方式の設定によっては、古い製品が対応できないものもあるかもしれないが、そこは製品ごとに異なるので各々の環境に合わせて確認していただきたい。

 ただし、上記全ての要素が使えるかどうかは親機と子機のデバイス次第だ。親機と子機がWi-Fi 7に対応している必要があるのは当然として、MLOが使えない子機はありそうだし、6GHz帯を省いて低価格化を図ったWi-Fi 7対応ルーターも発売されている。

 またPCでの対応もまだ進んでいない。Windows 11はバージョン24H2でWi-Fi 7に対応するとしており、現状で使えない機能があっても文句は言えない。また家庭用ゲーム機ではWi-Fi 7に対応したものはまだない。もちろんこれらは時間が解決するはずだ。

 もう1つ注意点としては、6GHz帯はおそらく電波の到達距離が短くなる。5GHz帯が登場した時にも、「最新のWi-Fiルーターなのに電波の飛びが悪い」という評判があちこちで見られたが、それと同じだ。電波は周波数が上がると遠くに届きにくくなる性質があるため、6GHz帯は5GHz帯に比べて電波の飛びが悪くなる可能性がある。

 しかしこれには良い面もある。近隣の家庭で使用されている6GHz帯の電波が届きにくくなり、自宅への影響が出にくくなる。6GHz帯の電波が適切に届く場所にWi-Fiルーターを設置している限り、より安定した通信が可能になるだろう(それほど5GHz帯と差はないかもしれないが)。

Wi-Fi 7はゲーマーにとって革命的な無線通信

 Wi-Fi 7は速度上昇だけでなく、遅延低減と安定性向上にも大きく寄与する。通信速度では有線LANに勝る場面も増え、ケーブルを敷設する手間もないため、利便性も含めてWi-Fiで十分と言える場面は増えそうだ。デスクトップPCでもWi-Fi 7を搭載した製品がかなり増えるのではないかと見ている。

 なお、オンラインゲームの安定通信に最も重要なのはインターネット回線だ。時間帯によって通信状況の変化が大きいなら、まずは回線の見直しが必須。回線の品質に問題がないと判断した上で、Wi-Fi 7の導入を検討するのがいいだろう。まだ製品が出揃っていない状態なので慌てる必要はないが、ゲーマーも大いに期待して欲しい。

著者プロフィール:石田賀津男(いしだ かつお)

1977年生まれ、滋賀県出身

ゲーム専門誌『GAME Watch』(インプレス)の記者を経てフリージャーナリスト。ゲーム等のエンターテイメントと、PC・スマホ・ネットワーク等のIT系にまたがる分野を中心に幅広く執筆中。1990年代からのオンラインゲーマー。窓の杜では連載『初月100円! オススメGame Pass作品』、『週末ゲーム』などを執筆。

・著者Webサイト:https://ougi.net/

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