クリエイターが知らないと損する“権利や法律”
演奏者やダンサーにも権利がある
~第7章:作品を発表するときに気をつけること~
2016年9月15日 07:20
オンラインソフト作者に限らず、あらゆるクリエイターが創作活動を続けるために、著作権をはじめとして知らないと損する法律や知識はたくさんある。本連載では、書籍『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』の内容をほぼ丸ごと、三カ月間にわたって日替わりの連載形式で紹介。権利や法律にまつわる素朴な疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えする。
前回掲載した“電子出版権ができたってさ”の続きとして、今回は“演奏者やダンサーにも権利がある”というテーマを解説する。
演奏者やダンサーにも権利がある
出版社には出版権……あ、そういえば『隣接する権利』ってありませんでしたっけ?
よく思い出しましたね。
著作権法1条の説明をしたとき、歌手、演奏者、俳優、ダンサー、レコード製作者、放送事業者などは、著作隣接権者と呼ばれているという話をしました。
著作物などの伝達に重要な役割を果たしているので、『著作隣接権』という少し特殊な権利を持っているのです。
著作権法1条(目的)
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
著作隣接権は、実演、音の固定、放送などと同時に自然発生します。
歌手、演奏者、俳優、ダンサー、手品師、落語家、指揮者、演出家などは、まとめて『実演家』と定義されています。
実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者が著作隣接権者になります。
著作権法89条(著作隣接権)
実演家は、90条の2第1項及び90条の3第1項に規定する権利(以下「実演家人格権」という。)並びに91条1項、92条1項、92条の2第1項、95条の2第1項及び95条の3第1項に規定する権利並びに94条の2及び95条の3第3項に規定する報酬並びに95条1項に規定する二次使用料を受ける権利を享有する。
2 レコード製作者は、96条、96条の2、97条の2第1項及び97条の3第1項に規定する権利並びに97条1項に規定する二次使用料及び97条の3第3項に規定する報酬を受ける権利を享有する。
3 放送事業者は、98条から100条までに規定する権利を享有する。
4 有線放送事業者は、100条の2から100条の5までに規定する権利を享有する。
5 前各項の権利の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
6 1項から4項までの権利(実演家人格権並びに1項及び2項の報酬及び二次使用料を受ける権利を除く。)は、著作隣接権という。
著作者とは別なんですよね。
そう。公衆への伝達者を保護する権利なので、著作者に発生する権利に比べると種類が少なく、いわば範囲も狭いです。
例えば実演家には『録音権・録画権』『放送権・有線放送権』『送信可能化権』『譲渡権』『貸与権』などの権利と、『実演家人格権』が発生します。
あ、著作権とちょっと違うんですね。
はい。例えば、ダンスの振付は著作物です。
著作者ではないダンサーが踊る場合、その様子を録画するには著作者とダンサーの両方の許可が必要です。
同じように、歌を録音するには作詞家と作曲家だけではなく、歌手の許可が必要となります。
なるほど!
パブリック・ドメインになっているクラシック音楽でも、演奏には著作隣接権者の権利が及びます。
古典落語も同じです。
勝手に録音したら録音権の侵害ですし、録音データをインターネットにアップロードしたら送信可能化権の侵害になります。
そうか、著作権が切れてても、著作隣接権が残ってる場合があるわけですね……注意しなきゃ。
ただし、詳しい説明は省きますが、『ワンチャンス主義』といって、一定の場合にはこうした権利は働きません。
他にもニコニコ動画に『歌ってみた』や『演奏してみた』というカテゴリタグがありますよね。
ニコニコ動画はJASRACなどと包括契約を結んでいますから、管理楽曲を歌ったり演奏したりする動画は、無許諾でアップロード可能です。
包括契約バンザイ!
ただし、原曲の音源やPVの権利は、著作隣接権者にあります。
これは包括契約の対象外です。
つまり、オフボーカルバージョンの音源に自分の歌をのせてニコニコ動画へアップロードすると、理論上は権利侵害になりかねないのです。
うおお……そんなトラップがあるんですね。
ただ、音源が公式・非公式に利用許諾されるケースも、だんだん増えてきましたね。
次回予告
今回の続きとして次回は“〈コラム〉コンテンツ制作は今後も稼げるのか”というテーマを解説する。
原著について
『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』
(原著:鷹野 凌、原著監修:福井 健策、イラスト:澤木 美土理)
クリエイターが創作活動するうえで、知らないと損する著作権をはじめとする法律や知識、ノウハウが盛りだくさん! “何が良くてダメなのか”“どうやって自分の身を守ればいいのか”“権利や法律って難しい”“著作権ってよくわからない”“そもそも著作権って何?”といった疑問に会話形式の堅苦しくない読み物でお答えします!